00
ホームに戻る Q&A 診察内容について メディア紹介 イベント ドクター紹介 アクセス

1・2・3歳のからだケア 消化器からだ全体

クーヨンで特集記事を執筆しました。

【頭】

発熱

発熱の目安と対処法

 体温は部位によって変わります。直腸では38℃、目の中では37.6℃、接では37.2℃以上、あるいは、いつもより1℃高いと「発熟した」と定義することもあります。多くの保育園や幼稚園では、腋の計測で37.5℃以上になると預かってくれません。
 予防接種のガイドラインでも、(腋の下で)37.5℃以上の者は明らかな発熱者」と明記しでいます。37.5℃は日本の行政の基準のようです。これは統計上、37.5℃を超えると、何らかの病気にかかっている子どもの割合が多くなるというひとつの基準であり、もし元気で、ほかに症状もなければ、病気とは言えません。
 ただ欧米では、直腸温が38℃以上ですと、0歳1ヶ月未満のお子さんは入院して検査と観察。0歳1ヶ月〜3ヶ月のお子さんの場合は、検査や症状によって入院を決める。それ以降3歳までは、きげんが悪ければ検査し、ぐったりするなら入院、という基準が広まっています。3歳を過ぎたら、高熱であってもきげんが悪くなければ、2〜3日は経過分観てもよいかと思います。

けいれん

 37.5℃以上の熱があり、0歳6ヶ月以上6歳未満で、特に神経性の持病がなく、約15分以内の持続的なけいれんがあるなど、いくつかの条件を満たすと「熱性けいれん」と考えられています。日本では、子どものうちの1割くらいはけいれんを1回は経験し、そのうちの2〜3割の子どもが、さらにもう1回、そしてまたこのうちの何割かの子どもが、3回程度経験するとされています。この子どもたちのその後の経過についてはとても詳しく調べられていますが、神経・精神的な問題が生じるととはありませんので、何の問題もありません。調査によれば、日本の子どもは欧米に比ベてけいれんの頻度が高いのが特徴です。原因として「抗ヒスタダン剤」などが関与しているのではないかという指摘もあります。
 また、熱性けいれんではありませんが、「インフルエシザ脳症」と言われる「脳症」は、けいれんからはじまることが多々ありまず。実は、その原因のほとんどは「消炎鎮痛剤」と呼ばれる解熱剤だったことがわかっています。インフルエンザ用の抗ウイルス薬・タミフルも、神経に作用して脳症を起こす可能性はあります。ちなみに2009年12月9日には、わたしの意見が取り入れられ、英国医師会雑誌は「タミフルには肺炎などの合併症を防ぐ証拠がない」と発表しています。新型インフルエンザかどうかにかかわらず、不要な薬を使わないことが大切です。

「発熱」したときに気をつけること

@無理に下げない
 「発熱」は、病気、特に感染症にかかっていることをあらわすもので、治癒しはじめると下がってきます。病気を診るうえで熱は、もっとも信頼できる指標のひとつなので、無理に下げるべきではないと考えます。
 ただし0歳児には注意が必要です。熱射病など周囲の環境によって体温が上がり高熱になっている場合などには、強制的にからだを冷やす必要があります。
A水分補給と体温調節のコツ
 水分は、本人がほしがれば与えます。ほしそうなのに、ぐったりしていて水分を摂れないようなら受診を。発熱時はとにかく冷やすべき、という声もありますが、本人がいやがっているのに、むやみに冷やすのは好ましくありません。寒がるようなら温めてやればよいですし、暑そうなら冷やすなど、本人が快適かどうかを目安にすることが肝心です。B薬について頭痛などを伴っていて、本人がつらそうならアセトアミノフェンという薬に限り、解熱鎮痛剤を使うことは問題ないと思います。発熱だけで、むやみに抗生物質など多くの薬を出す医師がいますが、効果より害のほうが多く、よくありません。また、漢方薬は副作用が少ないという意見も散見しますが、根拠はありません。薬は必要なものを最小限に、をこころがけたいものです。

【目】

目やに

目やにがひどい場合で、白目が充血しておらず、腫れてもいなければ、涙の排水管のような「鼻涙管」が先天的につまっているか、流れが悪くなっているためと思われます。
 涙は目玉の外側(耳側)にある涙腺でつくられます。涙はまばたきなどで目を潤して、その後は目の内側(鼻側)の鼻涙管に入って、鼻の奥に流れていきます。涙が多く出ると鼻水も多くなるのは、鼻にいく涙も多くなっているからです。
 新生児期の約6%のあかちちゃんは、鼻涙管が細くてつまりやすかったり、閉鎖したりしている場合があります(先天性鼻涙管閉塞)。そのため、涙が目からあふれ、目やにもたまり、流れが悪いと目の保護機能が弱くなるので、粘膜炎などにかかりやすくなります。また鼻涙管自体が炎症を起こして目と鼻の間が赤く腫れてくることがあります。先天性鼻涙管閉塞は1歳までには95%が治りますから、それまではガーゼを水道水や湯冷ましで濡らして、目やにを拭き取ってあげてください。清潔な指先で目と鼻の間を上から下ヘマッサージすると早く治るという研究があるので、おすすめします。白目が充血したり、目の周辺に異常があちわれたりしたら、眼科を受診してください。
充血
 目やにがひどく、白目が充血する病気の代表は、結膜炎です。結膜炎を起こす原因には、細菌とウイルスがあります。
 乳幼児期では、ヘモフィルスという細菌が多く、成長するにつれて、肺炎球菌、ブドウ球菌による結膜炎が増えてきます。近年、問題になっているのが、耐性黄色ブドウ球菌やペニシリン耐性肺炎球菌など、薬が効きにくい細菌による結膜炎が増えていることです。そういう意味でも、風邪など抗生物質が不要な病気に抗生物質を使ってしまって、薬の効き目に慣れてしまわないことが求められています。
 ウイルスとして有名なのは、アデノウイルスによる2種類の結膜炎です。ひとつは、「流行性角結膜炎」というもので、うつりうやすく年中ありますが、特に夏に多くなります。
 もうひとつは、「プール熱」。のどの発赤と結膜炎が主な症状で、「咽頭結膜熱」ともよばれています。「ール」と言うと、夏だけかと思うかもしれませんが、そうではありません。むしろ、冬から春にかけて多い病気です。アデノウイルスが原因かどうかは、インフルエツザの検査と同じく、のどの粘膜をこすって検査します。
 また、白目がべったりと真っ赤になる急性出血性結膜炎という、エントロウイルスで引き起こされる結膜炎などもあります。
 そのほか、川崎病のように全全身の病気のひとつの症状としての結膜炎があります。白目が真っ赤に充血し、発熱、舌や唇も真っ赤になり、発疹などの症状も伴います。溶血性連鎖球菌による感染でも、目が充血し、川崎病と紛らわしい症状が出ることがあります。麻疹でも白目の充血を伴います。
 いずれにしても、明らかに白目が充血していれば、眼科や小児科で診断を受ける必要があると思います。

【鼻】

鼻血

原因

 鼻血の原因としては、まずアレルギー性鼻炎があります。鼻の粘膜に傷がついたり、かゆいので鼻をこすって粘膜に傷をつけたりで、血が出ます。
 また玩具やビーズなどを鼻の穴に入れてしまって、それちが直接的に粘膜を傷つける、ないし異物のために炎症が起こり、出血することもあります。
 ケンカで手が鼻にぶつかったり、柱などに鼻をぶつけたりすれば、ケガのために出血します。この場合は、鼻の骨が折れていることもありますが、鼻の形が変化していなければ、骨折の心配はあまりないそうです。
 以上ははっきりしている原因ですが、小児でもっとも多いのが、原因が明らかでなく、突然血が出るタイプです。鼻の真ん中の壁の一部の「キーゼルバッハ」という部分から、突然出血します。キーゼルバッハは、鼻の真ん中の薄い管に、血管の豊富な粘膜が直接密着していますので、骨と血管のあいだに緩衝物がないために傷つきやすく、大変出血しやすい場所です。原因が明らかな場合でも、ここから出血することが大半です。
 鼻血が出やすい食べものについては、医学論文では見受けられませんでした。

鼻血が出る病気

 出血しやすい状態になる血液の病気があります。
 血液中には赤血球と白血球という細胞がありますが、もうひとつ、400倍の顕微鏡で見てもゴミと間違うほどちいさい「血小板」という細胞があります。これは、出血をさせないように、また出血してもすぐ止めるた為に、とても重要な働きをしていて、骨髄の中でつくられています。骨髄が傷害される「白血病」や「再生不良性貧血」という病気になると、血小板の数が減って、鼻血が出やすく、また止まりにくくなります。
 そのほか、血小板を外から来たウイルスなどの異物と間違え、自身が血小板を壊してしまう「突発性血小板減少症」という病気があります。血小板が減少しますと、皮膚にちいさな紫色の斑点ができたり、鼻血が止まりにくくなったりします。また、アスピリンなどの消炎鎮痛剤を飲んでいると、血小板の機能が弱くなり、出血が止まりにくくなります。
 血液には血小板以外にも血を止める働きを担う液体成分かあります。それを「凝固因子」と言いますが、この凝固因子の病気の代表例に、血友病があります。この病気は先天的なもので、関節内や筋肉内など深いところに出血するのが特徴ですが、鼻血が止まらないこともあります。
 血液の病気があると、鼻血がなかなか止まらないため、貧血が進んでショック状態になることがあります。白血病などの治療では、鼻血対策が重要で、耳鼻科の応援を受けて、さまざまな処置をします。血液の病気がなければ、鼻血の出血で貧血になったり、まして血圧が下がってショックになったりすることは、きわめて稀ですが、大量に出血すれば、危険な状態になる場合もあります。

鼻血の止め方

@鼻血を飲み込まないように、下を向かせます。上を向いていると、鼻血を飲み込んでしまいます。
A次に、ここがコツですが、鼻の中に何も入れず、鼻全体を左右からつまみ、鼻中隔(鼻の真ん中の壁)を強く圧迫します。こうしますと、前述のキーゼルバッハ部を中心にうまく圧迫でき、血がよく止まります。
 どちらか片方から出ていても、そちらだけ圧迫するのではなく、両側からできるだけ鼻全体をつまみます。
Bそのまま、15分間ぎゅっとつまんだままにします。
 たいていはこれで止まりますが、止まらなければ受診が必要です。
 注意点は上を向かせないこと。鼻血が鼻からのどに流れ込んでしまい、止まっていなくても止まったかのように見えることがあるからです。必ず下を向かせたまま、止まっているかどうか、確かめてください。

【口】

誤飲

タバコ

 誤飲については多くの報告がありますが、いずれの報告でもタバコがトップを占めていますわたしも昔、当時6ヶ月だった娘がタバコを口に含んでしまったときには、目からタバコを出させた後、胃洗浄をしたことかあります。
 ただ、最近ではタバコの誤飲は以前ほど怖くないとされています。アメリカの中毒コールセンターの15,235件の調査では、タバコを試飲した子どものうち、23%のみが病院で治療され、そのうち97%は症状がないか軽度の症状で、死者はなしでした。日本の1,000件の報告、スウェーデンの355件の報告では、入院が必要な子どもはいなかったとしています。
 先のデータなどから、医師の千代孝夫さんは、「タバコの2分の1以下の摂取や症状のないものでは、胃洗浄などの処置を行わずに、服用後2時間の外来観察(30分ごとに診察する)を行って、帰宅させる」としています。わたし自身は、どのくらい胃に入ってしまったかわからないときなどは、胃洗浄を試みてしまいます。
 千代さんも、タバコ1本には、10〜20ミリグラムのニコチンが含有され、乳幼児の致死量であり、頻脈、皮膚蒼白、発汗、興奮などの症状が出ること、子どもが致死量を超えてタバコを大量に摂取することはきわめて少ないとしながらも、その場合は呼吸停止があり得る、としています。
 何より、子どもが絶対に届かないところに灰皿を置くなどして、口に入れさせないようにすることが第一です。子どもは何でも口に入れ、飲んでしまいます。子どもが万が一、タバコを口に入れてしまったら、すぐに口の中から取り出して、なるべく早く受診するほうがいいと思います。

異物が気管につまる

 気管に異物が入ることなど、なかなか考えにくいのですが、わたしがよくお世話になる近くの小児外科では、22年間に40例あったと報告しています。
 88%が2歳以下で、種類はピーナッツが6割を占めたそうです。別の報告では、6ヶ月〜3歳が多く、やはりピーナッツが44%と多くを占め、症状としては、咳が80%、ぜいぜいする44%、発熱28%、呼吸困難22%、嘔吐11%でした。
 ピーナッツなどの豆類は脂肪分が多いせか、器官に入っても腐敗することも溶けることもないので、やっかいなのです。
 豆類を食ベた後、前述した症状があったら、すぐに医療機関を受診することが必要です。
 小学1年生くらいの女の子が、肺炎がなかなか治らないと紹介されてきたことがあります。よくよく聞くと、学校で急に咳き込んだことがあるとのこと。異物を疑い、専門医に気管支炎で気管支の奥を見てもらいますと、ボールペンのキャップらしきものが見えました。取り出そうにも全く動かず、前局、外科医に外科手術をしてもらい、胸を開け、キャップを取り出したことがあります。
 子どもはビーズや豆などを鼻につっこんだり、吸い込んだりすることもあるので、異物がからだの中に入ってしまった疑いがあれば、耳鼻科などで診てもらう必要があります。気管にまで入らないうちに発見できれば、比較的容易に摘出できます。
 ともかく、ピーナッツやビーズなども、ちいさいお子さんの周囲には置かないことです。

よだれ

たくさん出るよだれ

 よだれは、生後3ヶ月くらいで目立ちはじめ、歯が生えてくる9〜12ヶ月頃にも多くなります。このくらいは、よだれが出ても、だれも心配しません。
 それでは何歳になるとよだれが止まるのかというと、よくわかっていないのです。医学文献を調べても、2歳以後はほとんどの子どもはよだれを出さなくなると書いている識者もいれば、特に病気がなくても3〜5歳では唾液の量が多くなるので、よだれが出る、と言うひともいます。あまり厳密な調査はないようですが、2歳くらいまでは特に心配ありません。
 唾液は成人で1日1〜2リットルも出るそうです。普通は特に自覚もなく飲み込んでいます。また時間当たりの量は、昼に多くなり、夜には減少するそうです。
 おしっこのコントロールは、昼間は2歳で25%、3歳で98%ができるようになりますが、漏らす子もいます。夜の「おねしょ」をする子は、、5歳で15〜20%、15歳でも1〜2%います。よだれも、おしっこのコントロールのように、発達の段階で止まる時期は大幅に違うものと思われます。
 とはいえ、幼稚園に入ってもよだれが出っぱなしなら、口の機能などに病気がないかどうか、念のため耳鼻科を受診されたほうがよいと思います。

よだれの出る病気

 よだれの原因のひとつに、口の中の炎症があります。たとえば、口内の粘膜が直径1〜5ミリ程度に白く穴が開いたようになる「アフタ」ができると、よだれがたくさん出ます。
 乳幼児の問に、単純ヘルペスというウイルスにはじめてかかると、数日間高い熱が出るとともに、口の入り口に近い粘膜にアフタができ、歯肉も赤く腫れあがったり、アフタができたりします。このときはよだれをたくさん出す子がいます。
 水痘症でも皮膚の水泡以外にアフタができます。「夏風邪」とよばれているヘルパンギーナでは、のどの奥のほうにアフタができます。そのほか、アデノウイルスや溶連菌による扁桃腺炎やのどが痛くなる風邪など、のどの炎症でもよだれが出ます。
 また、魚の骨がのどに剰さるなどで、のどに傷ができることも、よだれの原因になります。のどに傷ができると、唾液を飲み込むのが痛いから、飲み込まず、よだれとして口から出てくるのかもしれませんし、そのような傷があると、唾液の分泌がさかんになって、傷を守るのかもしれません。
 以上のような場合は、原因となっている口の中の傷が治ると、よだれも自然になくなっていきます。
 舌の下側の真ん中に、前後に薄い膜のようなものがあり、舌とその下の組織をつないでいる舌小帯がありますが、これが極端に短く頑丈で、舌の動きを妨害している場合もよだれが出ると言われています。その場合は手術が必要ですが、きわめて珍しいことです。

よだれを止める方法

 以前、わたしが担当している知的発達障がいの子が、よだれをひっきりなしに出し、おかあさんはいつもタオルを持ち歩いて口をぬぐっていたことがありました。よだれを治してほしいと言われて、「よっしゃ」と言って一生懸命調べたのですが、残念ながら、よだれそのものの治療法を見つけることはできませんでした。
 衣服などを濡らす、においが気になるなど、よだれそのものも問題になりますが、よだれによる湿疹なども問題になります。湿疹の治療には、第一に水でよくふくこと、それでも治らなければ、皮膚を保護する軟膏やクリームを使います。
 よだれには食べたものも混じっているので、湿疹は食物アレルギーによるとも考えられます。ひどくなれば、ステロイド軟膏を短期間使うことになります。
 あごは、からだのほかの部位より薬の吸収率が高いので、軽いものを短期間使うほうが無難です。

【消化器】

腹痛

周期的な痛み

 子どもが訴える腹痛で、大変重要ですぐに病院を受診すべき病気に「腸重積(ちょうじゅうせき)」があります。小腸と大腸のつなぎ目から、大腸の中に小腸が入ってしまう病気です。3ヶ月〜3歳ぐらいに多く、周期的な痛みが特徴。急に激しく泣いて腹痛を訴えたかと思うと、しばらくおとなしくなることもあり、また激しく痛がります。嘔吐や血便が出れば、この病気の疑いがさらに濃厚です。早く見つかれば、お尻に管を入れて大腸に入っている小腸を押し出すことができます。あまり長く放置されると、手術で小腸を戻したり、切断したりしなければなりません。ごく初期には診察してもわかりにくいことがありますが、最近は超音波で診断がつきやすくなりました。

持続的な痛み

 痛みが変化する病気がある一方で、ずっとおなかが痛い病気も多数あります。その代表が、いわゆる「盲腸」です。盲腸は大腸のはじまりの部分で、この盲腸の先から出ている豚のしっぽのような細い「虫垂(ちゅうすい)」に、炎症が起こりますですから正式な病名は「虫垂炎」と言います。症状は、最初ばみぞおちのあたりが痛くなり、その痛みは持続的で、だんだん強くなります。
 腸管のほかの病気も伺じですが、腸管の内部に炎症がとどまっている間は、痛みはみぞおちやおなか全体に感じます。ところが炎症が腸の外に波及して、腸を包んでいる腹膜に到達すると、腹膜部位が痛くなります。虫垂は右下腹部にありますから、炎症が虫垂外に出てくると、右下腹部が痛くなります。病気が進んで虫垂が破裂して膿みが腸管の外に出てしまうと、一時的に痛みがなくなったり、軽くなったりすることもあります。
 虫垂炎は簡単に診断がつく病気のように思われていますが、実際は診断がむずかしい病気です。しかも見逃すと治療が長引きます。わたしが参考にしている世界的な教科書にも、虫垂炎かどうかはっきりしなければ、「6時間後にもう一度診察しなさい」と書かれています。ですから、一度診察を受けて、何でもないと言われても、痛みが続くようならもう一度受診させることが大切です。

早く病院に行ったほうがよい腹痛の見極め方

 夜間や休日の救急外来に連れてこられるお子さんのおなかの痛みで、いちばん多いのは便秘です。便秘だけなら特別な痛みはありませんが、便秘でなかなか排便できないときに痛みます。排便の際、腸は便を搾り出すような「ぜん動運動」をします。便秘になると、腸の動きが激しくなり、その強い「ぜん動運動」が痛みになるのです。痛んだり、痛まなくなったりする、周期的な痛みが特徴です。また、痛みの場所もはっきりせず、おへその周りなどが痛いと感じます。
 この便秘に腸炎が加わると、痛みがいっそうひどくなります。腸炎が起こると、病原細菌やウイルスを腸管内から排除しようと、腸管は必死で「ぜん動運動」をします。ところが、便秘で腸管の出口(=直腸)がつまっていますから、ますます腸管の運動は激しくなり、痛みもひどくなるのです。
 下痢をする前に痛がって、下痢の後はほとんど痛まないときには、腸炎がもっとも疑われます。あまり痛まなくなって元気なら、しばらくようすを見てもよいと思います。また便秘には浣腸をしてみてもよいでしょう。ひどく痛がっている子どもが、診察して異常がなく、排便もしていない場合、決勝をしてみます。硬いうんちをたくさん出した後、いままで泣きわめいていたのが嘘のように、元気になります。
 しかし、いつもと違う強い痛みを訴えていると感じたときには、受診してください。特に腸重積や虫垂炎ではないかと思ったり、痛みが続いたりするようなら、たとえ医師に、「大した病気ではない」と言われても、もう一度受診してください。くり返しになりますが、虫垂炎で説明したように、おなかを痛がる病気を一度で特定したり、病気でないと診断したりすることは、むずかしいのです。医師も、最初の判断が間違っていて、再受診してもらって肋かったということが多々あるはずです。
 最後に、下痢の痛みに下痢止めを使うのは、やめたほうがよいです。病気を重症化する可能性があります。

夏の下痢/嘔吐

 夏の下痢/嘔吐で心配なのは、食中毒だと思います。よく間くO111や、O104、O157も、わたしたちを守っている大腸菌という細菌の一種です。もちろん、食中毒を起こすこれらの大腸菌は、「病原性大腸菌」といって、人間には都合の悪い細菌です。これらの大腸菌から出される「べロ毒素」が大腸の壁を破り、血液内に入り、おもに腎臓に障がいを与え、ときには死に至ることがあります。
 日本では大阪・堺市の学校給食が原因となった食中毒が、世界でも例を見ない規模で犠牲者を出したことは有名です。そのほか、サルモネラ、キャンピロバクタなどが夏に多い食中毒を起こす細菌です。
 いまや食品がきわめて広域に流通し、安いものなら地の果てまでも買いあされることが、広域的食中毒の原因のひとつだと思います。したがって、生産者の顔が見えるような食品を求めることが、食中毒から身を守る方法のひとつだと思います。
 「食中毒」は、食べものを介して病原物などで病気になった場合を言います。したがって、細菌性のものではもちろんですが、ウイルス性腸炎でもノロウイルスのように食中毒になる場合があります。逆に、大腸菌やサルモネラなどの細菌や、ノロやロタのような食中毒病原物としてよく知られたウイルスであっても、ひとからひとに移れば食中毒ではありません。
 さて、腸炎を起こすウイルスには、ノロやロタ以外にも、アデノ、カリシ、アストロなどの各種ウイルスがあります。このうちノロウイルスはすべての年齢で流行しますが、そのほかは子どもが主です。ロタは5歳以下、アデノやアストロは2歳以下が多いのが特徴です。年中見られるアデノウイルス以外はい11月から3月頃が多いのですが、ときにはロタが5月になっても出ることはあります。
 治療方法はどのウイルスでもほぼ同じです。一般的には、細菌性では便にタンのような粘液や血液が混じったり、卵の腐ったようなにおいがしたりするのが特徴です。その場合には、便の検査をしますので、その便を持って受診してください。
 もちろん、細菌性だからといってすべて抗生物質が効くわけではありません。普通のサルモネラでは、3ヶ月以内の乳児などの弱いひとを除き、抗生物質は使いません。腸を守っている大腸菌を殺して、かえってサルモネラを増殖させるからです。O157でも世界的には抗生物質を使わないことになっています。ただし、赤痢菌など抗生物質を使う菌が発見されたときや合併症が起こったときの備えに、検査だけはしておきます。

食中毒の予防とホームケアのポイント

 現在流通しているかなりの肉は、O157やサルモネラ、キャンピロバクタなどの菌を保有しています。家庭では、料理中の手洗い、肉を切った後のまな板や包丁などの消毒が大事です。万一食中毒にかかってしまっても、たいていの場合、嘔吐があっても長続きはしません。嘔吐が止まって水分をほしがれば、あかちゃん用のイオン飲料など水分を少しずつ与え、食事をほしがるようになれば少量のごはんなどを与えてゆけば、元気になります。
 ただし、くだものは下痢を長引かせることが実験で確かめられています。また、脂っこいものも下痢を長引かせるという意見もあります。
 なお、吐き気止めや下痢止めは使わないほうが無難で、特にちいさい子には使いません。下痢には「整腸剤」が一定の効果があります。
 便がついたと思われるものは、細菌性のものではアルコールで、ウイルス性なら塩素系の消毒液で処置します。
 ともかく、子どもの場合はきげんなどの一般様態が重要です。ぐったりしていたり、ずっと不きげんだったりしたら、早めに受診してください。

【からだ全体】

インフルエンザ

新型インフルエンザとワクチン

 いわゆる新型「豚インフルエンザ(HINI 2009)」が恐いかのような宣伝は、インフルエンザ関連企業の儲けと直結しています。たとえば、インフルエンザの従来の診断キットはA型かB型かだけを区別するものでしかなかったのが、特にHINI 2009がわかるようになったものが医療関係者向けに新たに売り出されているぐらいです。
 みなさんは、HINI 2009が流行ったとき、専門学会や政府がどう発言したか覚えていますか? 「40万人以上が死ねかもしれない」などと脅かしていたのです。しかし、実際の死亡は約200人で、10年来の最低規模でした。あれだけウソを言っておいて学会は何の反省もしていません。まるで、原発事故を起こした専門家たちのようです。
 インフルエンザワクチンは本当に効果があったとする厳密な試験は、日本では皆無で、世界中を探してもほとんどありません。わたしだけでなく、とても権威のある「コクラン共同計画」という、製薬会社とは独立して世界中の研究を集めて薬などを評価する世界的なグループがありますが、その結論も「ほとんど効果なし」としています。
 また、2歳以下の厳密な研究は世界中でたったひとつしかなく、「まったく効かなかった」という結果でした。ですからワクチンはおすすめできません。また、2011年から、ワクチンの量がなぜか「欧米並み」になり、3歳までは従来の2.5倍、13歳までだと2倍になるそうで、副作用が心配です。

インフルエンザの重症化

 インラルエンザの重症化を防ぐ特別な方法はありません。
 2009年のインフルエンザでの死亡数が欧米より少なかったのは、「タミフルなどを早期に使ったためだ」などと宣伝されています。しかし、日本で世界のタミフルの8割を消費していた間(02年〜08年)はずっと、欧米諸国よりインフルエンザの死亡数が多かったのです。わたしは、2011年2月の医学雑誌『公衆衛生』にこのウソを暴く論文を発表しています。
 また、2009年12月に、前述のコクラン共同計画が詳しい調査をして、「タミフルなどの抗インフルエンザ薬は、肺炎や重症化を防ぐという証拠がない」との結果を発表し、世界的なニュースになりました。その調査のきっかけは、わたしがコクラン共回計画に送った電子メールだったので、スイス・テレビ局のタミフル批判のドキュメント番組に出演しました。ちなみに、タミフルの販売元は、スイスの巨大企業ロシュ社です。「インフルエンザは脳症になる」と、専門家は皆さんを脅かしていますが、脳症の大部分の原因は薬です。強い鎮痛解熱剤は特に危険です。頭などが痛い、きげんが悪く寝ないといったときに使う鎮痛解熱剤はアセトアミノフェンのみ安全です。それ以外の不要な薬は使用しないことです。漢方も効くとも安全とも言えません。
 インフルエンザはほかの風邪と同様、無理をしないで安静にすることです。寒がれば暖め、暑がれば少し薄着にする、要するに本人の気持ちがよいようにすることです。ほかの病気と同様、ぐったりする、いつもと違いようすがおかしいと思うときは、早く受診してください。

現在開発中の「万能ワクチン」ってどんなもの?

 現在のほとんどのワクチンは、インフルエンザウイルスの表面のHA蛋白という、ひげのようなものに対する抗体をつくるようになっています。HA蛋白に抗体がつくと、ウイルスが人間の細胞に入れなくなるので、効果があるとしています。
 しかし、このHA蛋白は刻々と形を変えているので、前年に流行ったウイルスでつくったワクチンでは、次の年のHA蛋白をうまくやっつける抗体はつくれないのです。ましてや、大幅にHA抗体が違う「新型」にはまるきり効きません。
 そこで、HA蛋白ではなく、変化の少ないウイルス内部の蛋白を標的とするワクチンや、表面の蛋白でも少し違った部位の蛋白を狙ってワクチンを開発しようとしています。これらを「万能ワクチン」とよんで、マスコミが宣伝しているようです。しかし、まだ実験段階のため、その効果はわかっていません。わたしは「万能ワクチン」を開発していることこそ、現行ワクチンの効果がないことの証のようなものだと考えています。

予防接種

予防接種、受ける? 受けない?

 公費負担で行われるもののなかで、わたしが受けたほうがよいと思うのは、DPT(ジフテリア・百日咳・破傷風)、MR(麻疹・風疹)、2011年から公費負担のHib、肺炎球菌の各ワクチンです。いずれも効果が明確で世界的に実施されておひ、特別な問題点がないと思われるワクチンだからです。
 Hibワクチンと肺炎球菌ワクチンは、いずれもこれらの細菌による髄膜炎や重症の感染症を防ぐためのワクチンです。欧米での臨床試験や、実施経験から、Hibでは年間約300人、肺炎球菌では年間約150人の髄膜炎の大部分と、それらの菌による髄膜炎以外の重症感染もかなりの割合で予防できると予測されます。
 両ワクチンともに世界的には安全とされています。しかし、日本では2011年3月に、ワクチン接種後に亡くなったお子さんが8人いると発表され、一時中止の後、再開されました。諸外国と違い、一度に何本も注射する日本的「同時接種」が8人中7人にされており、その後「同時接種」が減少、以後は同時接種のひとりの死亡が発表されているだけです。
 副作用に充分な注意は必要ですが、いまのところ効果のほうが大きいワクチンです。年齢が高くなると重症感染は少なくなりますので、早く受けたほうが効果が高いです。5歳未満の公費負担に該当するお子さんは受けてよいと思います。
 一方、しないほうがよいのが、日本脳炎ワクチンです。莫大な未接稀者がいるなかでも、この10年間で20歳以下の発病者は5人、うち少なくともひとりは軽症でした。ウイルス自体が弱毒化していることが考えられています。ワクチンの副作用が少ないはずのいまの「新」ワクチンは、副作用で中止した「旧」ワクチンよりも副作用がたくさん出ています。
 BCGは子どもの結核発病がごくまれになり、その効果が少なくなっています。今後は、特に都市部など感染の危険性が高いところ以外は不必要になっていくと考えられます。また早期接種による副作用が稀とはいえ増えていますので、あまり早くしないほうが無難です。
 ポリオの経口生ワクチンは危ない、新しい不活化ワクチンにすべき、との宣伝がされているようですが、そもそも「ポリオ関連麻痺」は数百万人にひとりの発症です。また、日本で30年以上自然のポリオの発生はありません。早く新しくて高価な注射のワクチンに変えたいひとたち(製薬会社など)の意向をくんで、生ワクチンの「危険性」を大げさに言っているとしか思えません。輸入ワクチンなどに飛びつく必要はありません。
 子どもではありませんが、子宮頸ガンを予防するHPVワクチンは効果を示す研究も多いのですが、問題もあるように思います。まず、効果がガンを減らしたというデータでなく、ガンの前段の子宮頸部粘膜細胞の「変異」を減らしたことで判定されている点。ワクチンでウイルスの型(16型と18型)によるガンが減っても、ほかの型のウイルスによるガンが増えるのではないかという疑問もあり、それを示唆するデータもあります。また、HPVは性行為により感染するものですから、性病予防の総合的な取り組みのなかに位置づけるべきです。受けるべきかどうか、わたしにはまだ判断できません。

こんなときは要注意

 予防接種でもっとも多い副作用は、注射なら局所の腫れや発赤、その後に残る「しこり」です。発熱も多く見られます。これらが出ても、元気で食欲もあり、大人が見ておかしなようすがなければ経過を観ればよいです。しかし、とてもきげんが悪い、ぐったりしている、何か異常な感じがするようなら、すぐに受診してください。また、注射後30分以内に強いアレルギー反応が出ることがありますので、注射した医療機関で経過を観ることが必要です。高熱や強いアレルギー反応など、全身的な副作用が出た場合は、同じワクチンの接種は避けるほうが無難です。

 

※クーヨン特集記事

00
00