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育児雑誌『クーヨン』で2005年4月〜2016年2月まで連載したQ&Aコーナーのご紹介です。
質問文をクリックすると回答文がでてきます。質問文を再クリックで回答文は閉じます。

突然のひきつけに驚いてしまい……。  孫がひきつけを起こしました。風邪で熱がありましたが、突然からだ全体がけいれんし、意識がなくなり、唇も血の気がなくなりました。びっくりして、救急車を呼んでしまいましたが……。家庭での対処方法はありますか?

まず、落ち着いてください。
 お孫さんを預かることは、そうでなくても気を遣うのに、ひきつけを起こされては本当にびっくりされたことと思います。
 ひきつけは医学的には「けいれん」と言われますが、子どもが熱とともにひきつける大部分は〈熱性けいれん〉です。
 内科医をしているわたしの友人は、子どもが〈熱性けいれん〉を起こしたとき、とっさに子どもの足を持って逆さにしたそうです。動転して「のどをつまらせないないように、と考えた」と言いますが、そんなことはどんな教科書にも書いてありません。
 けいれんが起こっても、激しくたたいたり、揺すったりしないでください。また、舌をかまないようにと、口の中にものを入れるひとがいますが、これは口を傷つけるのでよくありません。静かに寝かせておけば、たいていは数分間で止まります。ごろごろと痰が絡んでいるようなら、からだを横にするのがいいかと思います。
 そのうえで、熱はあるか、けいれんはからだの片側だけか、全身か、けいれんの時間はどれほどか、だいたいでよいので観察してください。
「熱がない」「年齢が6ヶ月未満か5歳以上」「けいれんが片方や手足や顔など部分的」「けいれんが10分間以上続く」「1日に2回以上起こす」などにあてはまるなら、〈熱性けいれん〉ではない可能性が高いので、すぐに救急車を呼ぶべきでしょう。
 もともと、神経系統の病気をもっている場合は、主治医の指示に従ってください。Cooyon 2005.04

熱性けいれんの予防法は?
熱性けいれんは、どんなときに起こるのでしょうか。
 予防方法はありますか?

熱性けいれんは子どもの病気です。
〈熱性けいれん〉は、年齢が6ヶ月(9ヶ月とする教科書もあり)から5歳頃に発症し、その多くは急に熱が上がるときに起こり、からだ全体がけいれんします。ほとんどは数分〜10分以内に止まります。これを〈単純性熱性けいれん〉として、熱とけいれんを伴うほかの病気と明確に区別しています。一般に〈熱性けいれん〉と呼ばれるほとんどがこの〈単純性熱性けいれん〉です。
 医者になりたての頃、〈熱性けいれん〉の患者さんが来たら、たばこを1本吸ってから診察に行けばいい、と聞きました。その間にけいれんが止まるので、新米でも動揺せずに診察できる、というわけです。いま頃そんなことをしたら、どんなに非難されるかわかりませんね。
 長年の調査によると、熱性けいれんは後遺症のない病気であることがわかっています。
〈熱性けいれん〉を起こすのは、6ヶ月〜5歳の子どもの2〜5パーセントで、そのうち3分の2が、再び起こすとされています。以前わたしの勤務していた大阪市の保健所で調査した結果では、教科書的な頻度より多く、3歳児で5・9パーセントが発症すると出ています。その半数程度が再びけいれんを起こし、さらにその半数が、3回目のけいれんを起こしていました。
 つまり〈熱性けいれん〉を起こす確率は非常に低いのです。けいれんを予防する薬はそれなりの副作用があるので、すべてのお子さんに予防法を実施すべきではありません。  しかし、一度けいれんの症状を見てしまいますと怖くて怖くて、2度と経験したくない、と思うはほとんどの方です。そこで、2、3回目のけいれんを予防する方法が考えられてきました。まず思いつくのは熱を下げることでしょう。ところが、解熱剤を使用し、タオルや水でからだを冷やすにしても、熱を下げる効果があるかどうかの本当のところは不明です。
 薬(抗けいれん剤)による予防法はふたつあります。
 ひとつは、毎日飲み続ける薬。フェノバルビタールやバルプロ酸は再発を少なくしますが、重いものも含めて副作用があるので、後遺症のないけいれんの予防には、薦められないというのが世界的な意見です。
 もうひとつは、ダイアップ(商品名)という座薬やセルシンという飲み薬を、熱が出たときにだけ1日2〜3回使用する方法。この方法の厳密な研究は世界中で4つ報告されており、そのうちの3つでは効果なしでした。効果ありとした研究は、大変権威のある雑誌に掲載され影響力はありますが、研究に参加した子どものうち、2割が研究の途中で抜けてしまったという大きな欠陥があります。また、他の3つの研究で全く相反する結果が出ているので効果は不明です。しかしアメリカの有名な教科書では効果あり、という研究に従って飲む方法を奨励しています。一方で、アメリカ小児科学会の勧告では、飲む薬は有効かもしれないとしながらも、薬による予防は推薦できないとし、熱性けいれんの性質をよく説明するように薦めています。
 日本ではけいれんを防ぐために座薬がよく使われていますが、座薬を使ったふたつの研究では、ともに効果が認められませんでした。薬、とくに吸収の悪い座薬に熱性けいれんの予防を期待するのは間違っています。
    どうしても薬が欲しい方も、お守り程度の意味であると考えて過度の期待はしないでください。Cooyon 2005.04

他の病気の疑いはある?
 他の病気の場合もありますか? 体質的なこともあるのでしょうか?

他の病気の疑いもあります。
 熱を伴うけいれんには、〈熱性けいれん〉以外に、他の多くの病気があります。前述の〈単純性熱性けいれん〉でないものは、その他の病気も疑うべきです。  もっとも注意すべき病気は、髄膜炎、しかも細菌性の髄膜炎です。これは早く治療すれば後遺症は少なくてすみます。髄膜炎に限りませんが、1日に何回もけいれんが起こる場合や、けいれん後、目覚めても苦しそうだったり、ぐったりしていたら入院や検査が必要です。
 けいれんが局所的に起こるなら、てんかんの一種や脳腫瘍や脳内出血が考えられます。また、低血糖やナトリウムやカリウムなどのバランスが崩れてもけいれんが起こります。
乳児で、下痢や嘔吐を伴うけいれんに良性のものがありますが、1日に何回もけいれんすることがあるので、重大な病気が隠れていないかどうか確かめます。けいれんと次のけいれんの間は比較的元気なのが特徴です。
 どのような病気にしても、短時間のけいれんで死亡するようなことは極めてまれです。あわてずによく観察し、怖いと感じたら、救急車を呼んでください。発熱だけでも救急車を呼ぶひとも多い世の中です。けいれんで救急車を呼んだからといって誰も非難しません。
「体質的」というのは漠然とした概念ですが、〈熱性けいれん〉を起こしやすい家系はあるようです。
〈熱性けいれん〉の子どもが、何回もけいれんをくり返す病気である、〈てんかん〉に移行することがありますが、〈てんかん〉になる割合は熱性けいれんを起こした子といない子とで、差がないとされています。
 けいれんをくり返したり、〈単純性熱性けいれん〉の定義にあてはまらなければ、脳波やその他の検査をします。脳波の異常があれば、症状を考慮して、抗けいれん剤を服用します。種類によってさまざまですが、子どもの〈てんかん〉は多くが治ります。Cooyon 2005.04

インフルエンザワクチンは本当に必要?
 ここ数年SARSや鳥インフルエンザが話題になり、インフルエンザワクチンを受けるように、とよく耳にしました。ワクチンは本当に必要なのでしょうか。

ワクチンの効果はほとんどありません。
 確かにここ数年、SARSや鳥インフルエンザと関連づけたインフルエンザワクチンの宣伝が、厚生労働省の肝煎でされています。しかし、これらはひとのインフルエンザと何の関係もありません。SARSはインフルエンザとは全く別のコロナウイルスによるものですので、インフルエンザにかかると、SARSと間違えられる、というのは屁理屈です。また、鳥インフルエンザは人間がかかることは極めてまれで、かつ、ひとのインフルエンザワクチンではまったく効きません。  ひとのインフルエンザについてわたしの調べた複数の研究では、ワクチンをしてもしていなくても、インフルエンザやほかの病気による発熱など発病率は変わりません。そして実際に発熱しても、ワクチンをした後では、インフルエンザの検査で陰性になるひとが多くなります。これではワクチン後に発熱したひとは「インフルエンザではないからSARSだ」と間違われそうです。
 それでは、通常のインフルエンザワクチンは、インフルエンザに本当に効くのでしょうか? これは世界的にも、効果が科学的に証明されていません。高齢者も同じですが、子どもでも、日本のワクチンの効果を調べた研究はずさんでとても科学的といえません。そんな研究でさえ、1歳以下には効果なし、効いても2割、すなわち10人かかるところを8人に減らせる程度というものです。世界中の子どもへのワクチンの研究を調べた調査では、「不活化ワクチン(日本で使われている種類)では、6歳以下で効いた証拠なし」となっています。幼児への接種はおすすめできません。蛇足ですが、日本のワクチンが学童に効かなかったことは、群馬県医師会の調査など、さまざまな形で証明されています。

*医療問題研究会:TEL・FAX 06・6767・3610
 (事務所機能はありませんので、FAXでお願いします)
* ワクチントーク・ホームページ: http://www.ne.jp/asahi/kr/hr/vtalk/index.htm
Cooyon 2006.01

インフルエンザワクチンは効果があるの?
  予防接種をすれば、たとえインフルエンザにかかってしまったとしても、症状が軽くすむのでしょうか ?

ワクチンの効果は、証明されていません。
 インフルエンザワクチンは、ご質問のように、ワクチンを接種してもインフルエンザにかかってしまった場合、症状を軽くすることができるのか、また、そもそもインフルエンザにかからないようにすることができるのかが問われています。さらに、中耳炎や肺炎、それにみなさんご心配の脳症という「合併症」を防ぐことができるかも問われています。
 ところで、インフルエンザワクチンには、ウイルスを生きたまま弱毒化して主に鼻に噴霧する「生ワクチン」がありますが、これは日本では使われていません。日本では、ウイルスの一部を使った、生きていない「不活化ワクチン」が採用されています。これも、いろいろな国でつくっていて、それぞれ違いがあります。ですから、「現在日本で使われている不活化ワクチン」が効くかどうかが問題になります。
 そこで、結論です。現在日本で使われているインフルエンザワクチンが、インフルエンザの症状を和らげたり、患者を少なくした、という科学的証拠はありません。ちなみに、1987年までは全国の学童に半強制的にインフルエンザワクチンが接種されていましたが、効果が証明されず、少ないですが重篤な副作用も出たため中止になりました。現在のワクチンもそのワクチンを少々濃厚にしただけで基本は変わっていませんし、効果があったという科学的証拠もないのです。
 ただ、厚生労働省のある研究班による非科学的なデータを根拠に、子どもには2割ほど効くとされています。この場合の「効く」とは、発熱などの症状が出ないことです。その少々怪しいデータを信じたとして、どのくらいの「効果」があるか考えてみます。たとえば、インフルエンザが流行して、ワクチンを接種しなかった100人の子どものうち、発病するのは10人くらいでしょう。ワクチンが発病を抑える効果が2割というと、たとえ100人すべてがワクチンを接種したとしても、この10人のうち2人の発病を抑えられる、ということです。結局、100人のうち、2人だけがワクチンの恩恵を受けることになります。残りの98人はお金を払ったうえ、子どもに痛みを与えただけということです。このデータからでさえ1歳未満では効果を認めていません。
 外国のワクチンを含めて考えても、2歳以下は効果がありません。2歳以上では効果があったという報告はありますが、その研究の質がはなはだ疑問です。また、「合併症」である中耳炎を減らすことはできなかった、という科学的な研究があります。さらに、肺炎を減らすという証拠もありません。Cooyon 2007.01

インフルエンザ脳症って、どんな病気?
 インフルエンザによって引き起こされるインフルエンザ脳症は、怖い病気と聞きました。ワクチンは効果がない、と聞いても、やっぱり念のために受けておこうか、と思ってしまいます。

脳症の原因は、主に消炎鎮痛剤などの薬剤。
「脳症」はけいれんや意識障害、興奮など多くの神経症状が出ます。そして、死亡する子も多く、助かっても何割かの子どもは発達障害など、さまざまな後遺症を残します。一方「脳炎」は、「脳症」と症状は似ているのですが、ヘルペス脳炎のようにウイルスが直接脳に侵入して、炎症を起こして脳を傷害します。
「インフルエンザ脳症」という名前が有名ですが、脳症はインフルエンザ以外のウイルス感染に伴っても起こります。また、脳に酸素が行かずに起こる脳症もあります。  インフルエンザや水痘などにかかったときに発病する「ライ症候群」という脳症を伴う致命的な病気があります。しかし、この病気はアスピリンという消炎鎮痛剤を飲んでいる子どもに多いことがわかり、「アスピリンを止めよう」というキャンペーンが行われたアメリカでは、ライ症候群がほぼなくなりました。
 ライ症候群と同様に、わたしたちは、インフルエンザも含めていろいろなウイルスで生じる脳症の主な原因は、消炎鎮痛剤などだと考え、大阪小児科学会で研究し、日本小児科学会に働きかけました。その影響もあり、日本小児科学会は子どもへの消炎鎮痛剤の使用を止めるよう勧告を出しました。厚生省もほぼ同様の勧告を出しました。いまでは、消炎鎮痛剤を子どもに出す小児科医は少なくなりましたが、小児科以外の科などでは、まだまだ使われているようですので「痛み止め」「炎症を抑える薬」「熱冷まし」には充分注意してください。鎮痛解熱には、アセトアミノフェンだけを使ってください。
 ところで、インフルエンザワクチンが「インフルエンザ脳症」を減らせる、というデータはありません。逆に、減らせないことを示す事実があります。脳症を起こした子どもたちと、脳症でない一般の子どもたちとのワクチン接種率はほぼ同じです。ワクチンをしていても、しなかった子どもと同様の比率で脳症になるということですから、減らせた形跡はないのです。
 まとめましょう。日本のインフルエンザワクチンは、肺炎や中耳炎はもちろん、脳症を減らすというデータはありません。「念のため」といっても、効果がないのだから、子どもに痛い目をさせるだけです。みなさんのお子さんが、どこかの見知らぬひとに、注射針で腕を突かれたらどうしますか。効果を証明できていないワクチンを注射することは、子どもにとってかわいそうです。Cooyon 2007.01

タミフルの副作用は、どのようなもの?
 タミフルは、副作用が強いと聞きます。実際のところ、どうなのでしょうか。
 インフルエンザにかかってしまった場合の正しい治療法を教えてください。

副作用は様々。タミフルを使わずに治療を。
 タミフルの副作用は、ちいさな子どもでは眠ったまま死亡したり、大きな子どもでは、錯乱状態でマンションから飛び降りて亡くなるという滅多にないものから、1割程度に出る嘔吐や下痢などまで、多々あります。
 わたしは、ある学会発表で、大阪で眠ったまま死亡した脳症の幼児、6例中4例にタミフルが使われていたことを知り、これら4人はタミフルによる脳症ではないかと思いました。この突然の死亡は、タミフルを与えた動物実験でも報告されており、タミフルのもっとも重大な副作用だと思われます。また、そのほかの1例は別のインフルエンザの薬、もう1例は喘息薬のテオフィリンを使われているので、それぞれの薬による脳症と考えられます。
   もうひとつ、タミフルに典型的な副作用は、低体温です。低体温というのは直腸温で35度以下の、ひどく体温が下がった状態です。脳障害のひとつであり、ひどい場合は死亡につながります。これは、とくに乳児に多発するという結果が日本小児科学会の調査で判明しています。
 精神錯乱という副作用はマスコミで取り上げられました。この薬害の犠牲者のご家族が真相を究明するために立ち上がっています。わたしも亡くなられた方のおかあさんから直接その無念さをお聞きしました。
 そもそも、インフルエンザは、そんなに重症にならない病気です。わたしの個人的な経験でも、大変重症だった患者の覚えがありません。高熱が出る期間の平均は3日程度です。タミフルはそれを1日程度短縮するとされています。しかし、B型インフルエンザに効くという証拠はなく、A型でも香港型に効かなかったというデータがあります。
 インフルエンザでも、ほかの風邪と同様、適度に安静にし、熱はできるだけ下げず、強い頭痛や節々の痛みに対してはアセトアミノフェンを使う程度にするのが、いちばんの治療法です。
Cooyon 2007.01

ちまたでインフルエンザが 流行しはじめる頃。 わが子が高熱を出すと 「もしかして……?」と 心配になるひとも多いもの。 でも、インフルエンザって そんなにコワイもの?  病院へ行くタイミングや 家庭でのケアについて、 小児科医の林敬次さんに うかがいます。 (クリックで回答をみる)

まずはここをチェック

 インフルエンザの症状は、熱、咳、くしゃみ、のどの痛みなどがおもなものですが、症状には大変な幅があります。また、かかっていても、何も症状が出ないケースが2割ほどもあるのです。
 インフルエンザは、毎年莫大な人数がかかりますが、重症化することがとても少ない病気で、入院する率はごくわずかです。ですから「インフルエンザだったらどうしよう?」などと不安になる必要はありません。
 しかし、ほかのウイルス感染と同様、めったにはありませんが、肺炎など重症化することはあります。脳炎・脳症は、むしろ、不要な鎮痛解熱剤などがおもな原因となります。
 2014年4月に「コクラン共同計画」という世界的なグループが、抗インフルエンザ薬のタミフル、リレンザでは肺炎や重症化を防げないことをはっきりさせました。ほかの抗インフルエンザ薬も同様です。また、感染してから24時間以内では検査による診断もつきにくいので、早く受診しても不要な薬が出されるだけです。「インフルエンザかな」と思っても、まずは落ち着いて、子どもをよく観察することです。

家庭での緩和ケア

 とはいえ、インフルエンザはとても高い熱、頭痛、筋肉痛や咳を伴ってつらいことも多い病気ではあります。しかし、どんな感染症でも同じですが、熱は基本的には下げないほうがよいことは、動物や人間による実験・観察で証明されています。高熱を出すことで熱に弱いウィルスや細菌に抵抗しているのです。
 熱が下がりはじめるときには冷たくし、上がるときには温かくしたほうが気持ちはよいようです。ともかく、いやがることはしないことです。なお、市販の熱冷ましのシートには熱を下げる力はありません。
 頭痛や筋肉痛には、アセトアミノフェンだけが入った鎮痛剤を用意しておくのがよいでしょう。 鼻水やくしゃみに効く薬はありません。咳がひどいときは咳止め薬もよいでしょうが、市販薬には多種類の薬が配合されているので避けましょう。

こんなときは病院へ

 インフルエンザで比較的多い合併症と言えば、熱性けいれんが挙げられます。これは、ほかの病気での熱性けいれんと同様に、10分以上続くときや、けいれんがからだの一部だけのとき、またとても心配なら救急車を呼ぶことです。
 息苦しさを訴える場合は、クループや肺炎を起こしている可能性も。息が早く、吸うときに肋骨の下が凹むようなら呼吸困難です。2009年の事例ですが、耳鼻科で受診中に呼吸困難になり、すぐに人工呼吸になったお子さんがいました。めったにないことですが、医師にかかっていても注意がいります。
 脳炎・脳症の原因の多くは、強い鎮痛解熱剤など薬によるものです。ぐったりしていたり、いつもとようすが違うなら、速やかに病院へ。

Cooyon 2014.12

予防接種、タミフル使用のウソ・ホント

インフルエンザの流行に伴い、さかんにすすめられる予防接種。これって、本当に必要なの? 処方されるタミフルも副反応が気になります。当たり前のようになっている世間の「常識」を、もう一度見直してみませんか?

もうすぐ1歳になる子どもを保育園に通わせています。集団生活を送るうえでは、やはり子どもにインフルエンザの予防接種を受けさせるべきでしょうか? また、予防接種を受けると、インフルエンザにかかったとしても、症状が軽く済むというのは本当でしょうか?(クリックで回答をみる)

 いまだに、インフルエンザワクチンの効果を科学的に証明した研究は世界的にもほとんどなく、莫大なひとびとに接種する根拠はないのです。この結論は、一部わたしの意見も入れた「コクラン共同計画」という世界的な権威のある研究組織が調査した結果です。ましてや、日本製のワクチンには効いたという科学的証拠がまったくありません。
とくに、2歳以下のお子さんにインフルエンザワクチンが効くかどうかを科学的に調べた研究は、世界にもたったひとつしかありません。その研究はピッツバーグ市で行われましたが、インフルエンザなどの呼吸器疾患の発生率に差はなかった、すなわち、まったく効かなかったのです。また、併発しがちな中耳炎を予防することもなかったのです。
 これで、お子さんには効果がないことはおわかりかと思います。
「軽くなる」ということは、症状がないひとも増えるはずですので、インフルエンザ様の症状が減るはずです。症状を減らすことも、軽くすることも証明されていません。「軽くなる」という表現は効果がないことを隠す手段です。

Cooyon 2010.12
6歳の子どもがいます。インフルエンザにかかったときに処方されるタミフルは、幼児がかかった場合にも処方されるものですか? タミフルの副作用で、幻覚が起きたりするという話もあるようですが……インフルエンザにかかった場合には、タミフルに頼るしかないのでしょうか。(クリックで回答をみる)

 日本では、タミフルをすべてのインフルエンザ患者に使うようになっています。
 ところで、タミフルは何のために使うのでしょうか? 1日早く解熱させるためでしょうか? それとも、肺炎など危険な合併症にならないようにでしょうか? 後者が目的なら、それを証明した研究はありません。
 タミフルを製造販売しているロシュ社は、カイザーというひとが書いた論文を根拠に、肺炎などを防ぐとして「備蓄」やインフルエンザ患者にどんどん使用するよう勧めていました。しかし、昨年末にコクラン共同計画のチームが、イギリスナショナルヘルスサービス(NHS)とオーストラリア政府の依頼で調査したところ、このカイザー論文のデータに信頼性がないことがわかりました。ちなみに、この調査に伴い(このカイザー論文の問題点を指摘したのはわたしでしたので)世界のマスコミでわたしの名前が紹介されました。日本でも1月に入り読売新聞に掲載されましたが、このことで、9月にロシュ社の本社があるスイス国営テレビからも取材を受けました。
 インフルエンザ自体でも精神症状を起こすことがありますが、ご指摘のように、タミフルはそれを1.5倍に増やし、時にビルから飛び降りるような事故も起します。また、嘔吐や低体温を起こします。わたしは脳症、突然死まで起こすと思っています。そんな怖い薬を、1日早く熱を下げるために使うことはないと思います。

Cooyon 2010.12
4歳の子どもがいます。インフルエンザによって引き起こされる「インフルエンザ脳症」は、怖い病気と聞きました。インフルエンザのワクチンは効果が証明されていないという話を聞き、予防接種は見送ろうかと思っていましたが……脳症の話を聞き、やはり念のため受けさせたほうがいいのか、迷っています。(クリックで回答をみる)

 インフルエンザが怖いと思わせる常套手段が「脳症」です。「インフルエンザ脳症」と命名しているのも、インフルエンザが怖いという印象をつけるためです。 
 実は、脳症の大部分は、非ステロイド性消炎鎮痛剤(N SAIDs)などの薬が原因です。以前、日本では商品名ポンタールやボルタレンなどのNSAIDsを多量に使っていました。脳症とNSA IDsとの関連を厚生労働省のデータから発見したのは浜六郎さん(NPO法人医薬ビジランスセンター〈薬のチェック〉理事長)でした。わたしたちも大阪小児科学会で調査をし、日本小児科学会に働きかけた結果、同学会や厚労省は先のNSAIDsを中止するよう勧告し、それまで毎年500名以上発生していた「脳症」が100人未満に激減しました。昨年は脳症が増えたとの発表がありますが調査法に疑問があります。また、脳症の一部はタミフルによるものと考えています。
 なお、インフルエンザワクチンが脳症を減らすという証拠はまったくありません。そこで、ワクチンは症状を「軽くする」から、脳症も減らすかもしれない、と宣伝されているようです。これも、前述のように根拠のない話です。

Cooyon 2010.12

わたしの観点

 わたしはインフルエンザをこのように考えています。
 インフルエンザは基本的には軽い病気です。ワクチンは効果がありません。タミフルやリレンザも重症化を防げません。発病すれば、基本的には何もせずしんどさに応じて安静にします。呼吸が苦しい、ぐったりするなど、とてもしんどいときには(肺炎などで急速に悪化する場合もまれにあるので)早く受診すべきです。

予防のポイント

手洗い・ガウンを使う・マスク・水でうがいをする。
 まずは患者に近づかないことがいちばんですが、患者が近くにいる場合にはこれ。あまり厳密でない研究ですが、感染の予防効果が示されている方法です。手洗い・ガウンの着用(患者と接するとき)は、患者から手を経由して感染する場合が多いからです。また、うがいは水だけで。うがい薬や消毒液を使うと本来の防衛機能が損なわれ、かえってよくならないようです。

インフルエンザにかかったら

 からだが寒ければ温かく、暑ければ涼しく、というように、本人のラクなようにするのがよいようです。冷たくてイヤがっているのに冷やすのはやめましょう。解熱はできるだけしないほうが早く治る可能性があります。痛みや解熱に使う薬は、アセトアミノフェンが最善です。

情報におどらされないために

 流行の時期になると、ニュースやさまざまな番組で、専門家や国の機関までを使ってワクチン(薬)の効果を宣伝します。これはワクチン会社の利益のためです。日本のほとんどすべての製薬企業は営利株式会社ですから、第一には株主の利益に責任を負っており、市民の利益ではないことに注意してください。
WHOでさえ「新型」インフルエンザに関して「正当化できない恐怖」を煽ったと、欧州委員会に非難され、ワクチンとタミフルなどの製薬企業との癒着が指摘されています。
 日本でとりわけ「鳥インフルエンザ」などの恐怖を煽ったのはNHKです。NHKも含めてすべてのマスコミを疑ってみることが必要かと思います。

Cooyon 2010.12

予防接種の効用、病中のケア

もはや「冬の風物詩」ともいえるインフルエンザ。勧められるまま予防接種へ行く前に、ちょっと立ち止まってみませんか?今年の「新型」の傾向などの新情報にも注目です。

今年はどんなインフルエンザが流行しますか? 現在1歳の子どもがおり、周囲に予防接種を勧められるのですが、やはり受けさせたほうがよいのでしょうか?(クリックで回答をみる)

 今年度(※2011年)は、A型としていわゆる新型「豚インフルエンザ(H1N1 2009)」と、従来流行っていたH3N2Aという型、それにB型が流行ると考えられているようです。
 H1N1 2009が恐いかのような宣伝は、インフルエンザ関連企業の儲けと直結しています。たとえば、インフルエンザの従来の診断キットはA型かB型かだけを区別するものでしかなかったのが、とくにH1N1 2009がわかるようになったものが医療関係者向けに新たに売り出されているぐらいです。
 みなさんは、H1N1 2 009が流行ったとき、専門学会や政府がどう発言したか覚えていますか?「40万人以上が死ぬかもしれない」などと脅かしていたのです。しかし、実際の死亡は約200人で、10年来の最低規模でした。あれだけウソを言っておいて学会は何の反省もしていません。まるで、原発事故を起こした専門家たちのようです。
 インフルエンザワクチンですが、本当に効果があったとする厳密な試験は、日本では皆無で、世界中を探してもほとんどありません。わたしだけでなく、とても権威のある「コクラン共同計画」という、製薬会社とは独立して世界中の研究を集めて薬などを評価する世界的なグループがありますが、その結論も「ほとんど効果なし」としています。
 また、2歳以下の厳密な研究は世界中でたったひとつしかなく、「まったく効かなかった」という結果でした。ですからワクチンはおすすめできません。また、今年から、ワクチンの量がなぜか「欧米並み」になり、3歳までは従来の2.5倍、13歳までだと2倍にもなるそうで、副作用が心配です。

Cooyon 2011.12
保育園に通う子どもがいます。もしインフルエンザにかかってしまった場合、肺炎や脳症などへの発展が心配です。重症化させない方法はありますか?(クリックで回答をみる)

 インフルエンザの重症化を防ぐ特別な方法はありません。 2009年のインフルエンザでの死亡数が欧米より少なかったのは、「タミフルなどを早期に使ったためだ」などと宣伝されています。しかし、日本で世界のタミフルの8割を消費していた間(02年〜08年)はずっと、欧米諸国よりインフルエンザの死亡数が多かったのです。わたしは、今年2月の医学雑誌『公衆衛生』にこのウソを暴く論文を発表しています。
 また、2009年12月に、前述のコクラン共同計画が詳しい調査をして、「タミフルなどの抗インフルエンザ薬は、肺炎や重症化を防ぐという証拠がない」との結果を発表し、世界的なニュースになりました。その調査のきっかけは、わたしがコクラン共同計画に送った電子メールだったので、スイス・テレビ局のタミフル批判のドキュメント番組に出演しました。ちなみに、タミフルの販売元は、スイスの巨大企業ロシュ社です。
「インフルエンザは脳症になる」と、専門家は皆さんを脅かしていますが、脳症の大部分の原因は薬です。強い鎮痛解熱剤はとくに危険です。頭などが痛い、不機嫌で寝ないときに使う鎮痛解熱剤はアセトアミノフェンのみ安全です。それ以外の不要な薬は使用しないことです。漢方も、効くとも安全とも言えません。
 インフルエンザはほかの風邪と同様、無理をしないで安静にすることです。寒がれば暖め、暑がれば少し薄着にする、要するに本人の気持ちがよいようにすることです。 ほかの病気と同様、ぐったりする、いつもと違いようすがおかしいと思うときは、早く受診してください。

Cooyon 2011.12
現在開発中の「万能ワクチン」ってどんなもの?

 確かに、「万能ワクチン」はときどきマスコミで取り上げられます。
 現在のほとんどのワクチンは、インフルエンザウイルスの表面のHA蛋白という、ひげのようなものに対する抗体をつくるようになっています。HA蛋白に抗体がつくと、ウイルスが人間の細胞に入れなくなるので効果があるとしています。
 しかし、このHA蛋白は刻々と形を変えているので、前年に流行ったウイルスでつくったワクチンでは、次の年のHA蛋白をうまくやっつける抗体はつくれないのです。ましてや、大幅にHA抗体が違う「新型」にはまるきり効きません。
 そこで、HA蛋白ではなく、変化の少ないウイルス内部の蛋白を標的とするワクチンや、表面の蛋白でも少し違った部位の蛋白を狙ってワクチンを開発をしようとしています。これらを「万能ワクチン」と呼んで、マスコミが宣伝しているようです。しかし、まだ実験段階のため、その効果はわかっていません。  わたしは「万能ワクチン」を開発していることこそ、現行ワクチンの効果がないことの証のようなものだと考えています。

Cooyon 2011.12

そんなに怖い病気なの?

インフルエンザが流行する季節がやってきました。予防接種を考える反面、ワクチンの副作用も気になるところ。ちいさい子どもがかかると脳炎になることもあるって本当?また、もしかかったらどうすれば? 林敬次さんに伺います。

毎年現れる「新型」インフルエンザ。予防接種はこの新型にも対応している? そもそも予防接種って、効果があるの?(クリックで回答をみる)

 まずインフルエンザには、A型とB型があります。新型が出るのはA型だけです。新型は何十年かに一度出現するもので、2009年に世界的に流行した、いわゆる豚インフルエンザ(H1N1型)は新型とされています。それまで流行していた香港型(H3 N2)とは違う型です。新型がまったく予測できないことは、この豚インフルエンザでも証明されました。
 しかし同じA型でも毎年少しずつ構造が変化し、違う「株」になります。そこで翌年に流行しそうな株を予測し、そのワクチンをつくっています。多大な努力を注いでつくられるワクチンですが、世界中の研究論文を集めて検討したコクランレビューという研究でも、ミネソタ大学の大がかりな研究でも「ワクチンはほとんど効かない」という結論です。まして肺炎や脳症を防ぐという証拠はありません。
 とくに日本のワクチンに関しては、効果を示したまともな研究はゼロです。2011年から突然子どものワクチン接種量を2倍ほどにしましたが、どの道効きません。現行のワクチンは、副作用の頻度は少ないものの、効果がないのだから問題です。
 しかし、新型に対するワクチンには充分な注意が必要です。鳥インフルエンザワクチンは効果がまったく不明なのに重篤な副作用が相当あるようです。今年は中国での鳥インフルエンザで大騒ぎをしましたが、これは「インフルエンザにかかると脳症になる」との脅かしと同様に、現行ワクチンの売り込みと、余計なタミフルの備蓄、さらに鳥インフルエンザワクチン開発への予算獲得や、インフルエンザの流行を理由にした集会の制限など、政治に利用されているように思います。

Cooyon 2013.12
息子がインフルエンザにかかり、タミフルを飲ませたら、夜間、突然大泣きしたり怒り出したりして、寝かせるのが大変でした。これはタミフルのせい? 確かに熱は下がりましたが……。(クリックで回答をみる)

 みなさんは、タミフルなどのインフルエンザの薬は何のために使われますか? 熱を早く下げるためでしょうか。それとも肺炎や脳炎などの合併症を防ぐためでしょうか。後者を求めても、その効果はありません。成人でその効果があるとした有名な論文は、実は元のデータが公開できない、ねつ造の可能性がある代物で、データ処理も製薬会社がしたものだとわかっています。ウソかと思われるかもしれませんが、最初にこれを指摘したのがわたしでした。
 さて、お子さんの熱が下がったのは、タミフルのためか、自然の経過なのかわかりません。インフルエンザの平均的な発熱期間は約3日で、一日で下がるお子さんも多々います。タミフルは「子どもで約1日半早く熱を下げる」とのデータがありますが、「たった10時間早いだけ」とのデータもあります。
 なお、1日半ほど早く熱を下げるためには、副作用の覚悟が必要です。ご質問のような幻覚や異常行動が、タミフルを飲むと約1.5倍に増えます。まれですが、ビルから飛び降りたりする事故も起こっています。また、かなり強い嘔吐が子ども17人にひとりの割合と、増えています。さらにわたしたちの調査では、脳症や突然死の危険性が高まると考えます。それでも皆さんはタミフルを使いますか? わたしは使いません。そのほかの、抗インフルエンザ薬についても、大なり小なりタミフルと同様です。

Cooyon 2013.12

インフルエンザにかかったら

 ほかの風邪でも同じですが、まず症状に応じて安静にすることです。やみくもに熱を下げようとすると、かえって病気を長引かせます。ちなみに、おでこに貼る市販のジェル状シートは解熱効果がなく、あかちゃんに使うとずり落ちて口や鼻をふさいでしまう危険性があります。
 震えて手足などが冷たくなっているときはあたため、高い熱が上がり切ったときには冷やすと気持ちがいいようです。お子さんが気持ちいいと感じることをしてあげてください。
 頭やからだが痛くて眠れないようなときに使う薬は「アセトアミノフェン」だけにしましょう。それ以外は脳症などの副作用があります。
 脚を痛がるときは、筋肉炎や関節炎のことがあるので運動は避けます。喉の痛み、咳などには、マスクや加湿でラクになることがあります。咳がひどい場合には咳止めもよいとは思いますが、よく気管支炎になるお子さんではその治療が必要です。
 受診するとタミフルなどの抗インフルエンザ薬が出されるかもしれませんが、それらの使用はおすすめしません。

Cooyon 2013.12
インフルエンザかも? インフルエンザの流行する季節。 盛んに呼びかけられる予防接種。 処方されるタミフルは 副反応も心配です。 インフルエンザの最新情報と 家庭でのケアについて、 小児科医の林敬次さんに うかがいました。

まずは知っておこう

インフルエンザが怖い病気だと思うのは、製薬会社などインフルエンザで利益を得るひとたちがつくり出したイメージだと思ってください。たとえば、2009年の「新型インフルエンザ」では「専門家」たちは死者が何十万人も出るなどと言って脅かしたのですが、結果は予想の1%にも満たないほどでした。インフルエンザは膨大な人数がかかる病気ですが、もっとも死亡率の少ない病気のひとつです。
 また、抗インフルエンザ薬は重症化を防げません。タミフルは1〜2日早く熱を下げますが、子どもでは嘔吐などの副作用があります。日本でもっとも売れているイナビルという、1回だけ吸入すればよいという薬は、アメリカでの試験で症状を緩和させる効果も証明できず、海外では売れていません。通常の風邪と同様、まずまず元気で、高熱、頭痛、筋肉痛、強い咳などの症状がないなら、受診する必要もないくらいです。
 インフルエンザの治療としては、せいぜい解熱・鎮痛薬や、さほど効果はありませんが咳止めや痰を切る薬を処方する程度です。

家庭でできる緩和ケア

頭痛、耳の痛み、筋肉痛などを強く訴えるなら、アセトアミノフェンのみの鎮痛薬を使います。筋肉痛は安静が第一です。中耳炎の痛みは大部分が1日以内で軽減し、中耳炎のほとんどが自然に治ります。喘息のお子さんでは、インフルエンザそのものより喘息発作の予防や治療をしっかり行いましょう。しんどさを軽減するために、冷やしたり温めたりしますが、本人がいやがることはやめ、気持ちよさそうなことを探してください。額などに貼る冷却シートは熱を下げません。咳・痰の軽減には、空気が乾燥していたら加湿と充分な水分補給を。
 マスクは加湿の意味もあるので、本人が好むならよいのでしょうが、無理にするものでもないと思います。

[チェックポイント]
●ぐったりしているか。
●呼吸が苦しそうか。
●意識がもうろうとしているか。
●嘔吐を伴う強い頭痛があるか。
●下腿などの筋肉痛はあるか。

こんなときは病院へ

チェックポイント欄で示したように、ぐったりしている、呼吸が苦しい、意識がもうろうとしている、嘔吐を伴う頭痛、そのほか、いつもの病気とようすが違う場合は、救急受診が必要です。極めて少ないとはいえ肺炎や脳炎などの合併症もあります。別の病気で何か薬を飲んでいる場合はとくに要注意です。
 2014年12月に、日本小児科学会はわたしに対し「季節性・軽症インフルエンザ(大部分がそうです)には抗インフルエンザ薬を推奨しない」との公的文書を送ってきました。以前より訴えていたわたしの主張がやっと公的に認められたものです。
 単にインフルエンザの診断と、効かない抗インフルエンザ薬を得るために、救急病院を受診する必要はまったくありません。

Cooyon 2015.12
アトピーとは、どんな症状?
 最近アトピーが増えている、と聞いています。子どもに湿疹ができると、「アトピー性皮膚炎なのでは?」とつい心配になります。アトピーの特徴とは、どんなものでしょうか?

アトピーには症状の基準があります。
 乳児健診で、もっとも多い質問のひとつが「この湿疹はアトピーではないですか?」というものです。
ところが、アトピー性皮膚炎(以下、アトピー)の湿疹の程度や質は実にさまざまで、ごく軽症から重症まで連続的に続いているものですから、どこからがアトピーかの判断は、大変難しいのです。
 しかし医学では、これがアトピーだ、という基準をつくっています。世界的によく使われるのが、この病気の権威者であるハニフィンの基準です。簡単に紹介しますと、(1)痒みがある、(2) 特徴的な皮膚疹(盛り上がったり、じくじくしたり、細かいしわがなくなり分厚く大きくなるなど)と、特徴的な発症する部位(肘や膝の内側やほっぺや乳頭など)、(3)慢性、あるいは慢性的に再発する皮膚炎、(4)本人や家族が喘息など、ほかのアレルギー疾患にかかっている、というものです。
 アトピーは歴史的に増加してきていると考えられ、その基本的な原因は、生活様式の変化や、家屋や大気の汚染など環境的要因だと言われていますが、はっきりしていません。食物やダニなどに対するアレルギーが症状を引き起こす直接的な要因の一部だと考えられ、アレルギー反応を引き起こす物質を〈アレルゲン〉と言います。それまでの経験で何かを食べたら発疹が出た、など、原因がわかればいいのですが、そうでないことが多いので、アレルゲンを特定する検査が発達してきました。Cooyon 2006.02

検査とは、どんなもの?アレルゲンを特定する検査とは、どのようなものですか?

血液検査やプリックテストがあります。
 まず、検査をする場合には、そのメリットとデメリットを天秤にかけて考えなければなりません。というのも、検査で、たとえば食事の卵と大豆が陽性、と出た場合、卵と大豆をやめることは、相当な苦労と栄養の偏りの危険性があります。猫などのペットが陽性と出た場合は、かわいがっているペットと、本人や家族との関係を今後どうするか、という大変な問題も出てきます。症状が軽い場合は、検査しても悩むだけになってしまいます。
 症状がひどければ、血液検査やプリックテストという皮膚反応検査で、アレルゲンを探ることになります。しかし、これらの検査の信憑性があまり高くないことはよく知られていません。研究によっても大分違いますが、検査が陽性に出ても、それが本当に原因である率は3割〜6割です。  食物がアレルゲンなら原因と推定したものをやめると症状が改善し、食べると悪化するかどうかで治療法を決めます。この場合、注意しなければならないのは、おかあさんが子どものために一生懸命、たとえば卵抜きの食事をつくると、「ひいき目」の評価となり、症状がよくなったような錯覚に陥ります。症状が改善したかどうかは、除去食をしていることを知らないひとにしてもらうほうがいいのです。また、栄養が偏る危険性があるので、医師と相談して実施してください。Cooyon 2006.02

アトピーの治療法は?
 3歳の子どもがひどいアトピーです。ステロイド剤はいけない、など、さまざまな情報がありますが、まず、基本的な治療方法について教えてください

症状を悪くするものを避けましょう。
 まず原因となっているアレルゲンや、症状を悪くするものを避けます。現実的に実施しやすいのは食事制限です。前述のように検査の信憑性は低いですが、検査が陽性に出た食物、たとえば卵・大豆・牛乳などをやめると、何割かの子は症状が改善します。授乳中のおかあさんの食事制限も、効果があるかもしれません。あかちゃんのアレルゲン検査で陽性の結果が出た食物を、おかあさんの食事から除去すれば、症状が改善することはしばしば経験します。妊娠中の食事制限は、生まれてくる子どもに対して、効果はありません。
 これらの食事制限は充分な注意が必要です。本人に厳しい制限をして、重度の栄養障害から死亡したり、発達障害を起こした例も多数報告されています。食事制限は、栄養専門家の指導のもとに行われるべきです。
 血液や皮膚検査で、もっともよく陽性と出るのがダニです。マットレス(西欧の研究なので)をダニを通さない布で覆い、ダニスプレーを使ってマットレスに潜むダニを殺し、同時に高フィルターの掃除機(ただし「食品と暮らしの安全基金」の小若順一さんによれば、スウェーデンのエレクトロラックス社のもの以外は性能が悪いそうです)でダニを減らすと症状が軽減した、という厳密な研究があります。しかし、ダニスプレー、掃除機のそれぞれを別々に使った実験ではよい結果は得られていません。
 衣類の布は繊維の種類よりも、織り方が繊細なもののほうがよい、という研究結果があります。繊維では昔から綿がよいとされているので、繊細な織り方の綿製品だとさらによいと思われます。羊毛は刺激性が高いので避けたほうがいいです。おむつは木綿もいいのですが、最近のセルロースでつくられたものや、それに吸収剤(化学物質)を付けたものとくらべても、湿疹の程度に変わりがないとの調査があります。
 保湿剤は世界中で使われています。ステロイド塗布だけよりも、ステロイド塗布+保湿剤のほうがよかった、という、保湿剤の効果が示された厳密な研究結果があります。どんな保湿剤がよいのかはあまり研究されていませんが、刺激性が少なく効果の持続性があるワセリンや、それを基材としたクリームなどがよく使われているようです。治療はこれが基本となります。
 アトピーで効果がもっとも証明されているのがステロイドの塗り薬です。数週間の研究で明らかに効果がありますが、何年にもわたる厳密な研究はなく、ひどくなったときに短期間使うのが無難です。弱いステロイドは短期的にも長期的にも重篤な副作用は観察されていませんが、強いステロイドを長期に使うべきでありません。
 また、抗炎症剤を入れた塗り薬がよく使われています。この薬自体でかぶれを起こすことがあるので、漫然と使う薬ではありません。もうひとつ、日本では抗ヒスタミン剤を含んだ塗り薬がかゆみ止めとしてよく使われますが、効果は不明です。
 アトピーのような治りにくい病気では、漢方のようなミステリアスな薬に頼ることがしばしばです。しかしどんな病気であっても、漢方には副作用がないなどと考えないでください。アトピー用の漢方薬も例にもれず、多数の重篤な副作用が報告されています。わたしが経験した例では、漢方の塗り薬と入浴剤を使っていた乳児が生命に危険な「低ナトリウム血症」になり、入院しました。ホルモン異常を伴ったり、死亡した例も含めて多数報告されています。効果も厳密には証明されていません。
 そのほか、効果も副作用も科学的に検証されていない民間療法や、医者が風評や自分の経験だけで行っている療法がたくさんあります。お子さんには、理屈や、何人治ったなどという曖昧な情報でなく、科学的なデータを示された治療法を実施してあげてください。  乳児期のアトピーは、2〜3歳までに軽減することが多く、6〜7割は10代のうちに治ります。焦らずに、特殊な治療をして子どもを危険な目に遭わせないようにしてください。 Cooyon 2006.02

なぜ子どもは「夜泣き」するのでしょうか。
 6ヶ月の子どもですが、毎晩夜中になると泣き出します。
 抱っこをしても、おっぱいをあげても泣きやみません。昼間は元気ににこにこしているのが嘘のようです。

原因がはっきりしないのが「夜泣き」です。
 昼間は元気だということ、そのほかに異常がないことなどを考えると、いわゆる「夜泣き」だと思います。
 日本の文献では「夜泣き」のピークは生後6〜8ヶ月で、以後1歳半ぐらいまで多いとされています。それに対して、英語圏では「乳児疝痛」という、あかちゃんが昼夜関係なく、原因もなく泣くことが知られています。生後数週よりはじまり、1〜3ヶ月では30%ほどがなり、4〜5ヶ月までに7〜11%に減るとされています。日本と英語圏のこのふたつの「泣き」がどのように関連するのか、いまもはっきりしていないようです。  原因がはっきりせず、夜、泣きはじめると泣きやまず、そのほかの時間は大変元気で、発達もよい場合を「夜泣き」と言います。おしっこやうんちをしていたり、おなかがすいていたり、暑かったり、と原因があるものは「夜泣き」と言いません。生後3〜4ヶ月では、それまでの昼か夜かわからないほどの睡眠と覚醒リズムが、大人と同じ形に形成されはじめる時期ですので、その関係がある、と言う専門家もいます。
 0〜3歳までの乳幼児をもつ253人の母親を対象にした「夜泣き」の実態の調査があります。それによりますと、「夜泣き」は29・4%の子どもに、生後6〜8ヶ月をピークに起こり、泣く時間は午前2〜3時をピークとして、回数はひと晩に1〜3回というのが多かったそうです。夜泣きがはじまる月齢がちいさいほど、その後、長く続くようで、生後4ヶ月に発生した「夜泣き」の継続期間は、それ以降に発生したものと比較して有意に長かったそうです。「夜泣き」とはだいたいこんなものです。Cooyon 2006.07

わたしのほうが、まいってしまいそう……。
 1歳の子どもですが、「夜泣き」がひどく、なかなか寝付かずに、困っています。  いつまで続くのかと思うと、憂うつです。「夜泣き」が治る前に、わたしが、まいってしまいそうです。

「夜泣き」では、多くのおかあさんが悩んでいます。
 いわば発達の一段階ですから、過ぎてしまえば思い出話になってしまうのですが、渦中にいる、とくに母親は大変です。男と違い母親は、子どもがくすんくすんとでも泣くと目を覚ましますね。睡眠不足が続きますとまいってしまいます。
 母親は、出産後すぐから子どもが「夜に泣くこと」を心配しています。1ヶ月健診時でも「湿疹」などと「夜泣き」を心配しているという報告があります。この早い年齢の夜に泣くことは、むしろ乳児疝痛か、単に夜にお腹がすいたり、おしっこやうんちのためかと思います。
 一方、1歳6ヶ月までの子育てでとくに困ったことの調査では、「母親の病気」21・2%、「子どもの病気」13・4%、「仕事の妨げ」16・5%に続いて、「しつこく夜、泣くこと」が14・6%と上位になっています。この場合は前述した、「夜泣き」だと思われます。
 より深刻な報告もあります。乳児の母親679名中、子どもを憎らしいと思った経験のある母親は293名で、憎らしいと思ったのは「泣くとき」と「寝ないとき」が多かった、というものです。「夜泣き」に対して夫が協力してくれないと、よけい憎く思うという結果も出ています。
 わたしは、おかあさん方に「夜泣き」の相談を受けたとき、夫がぐうぐう眠っているなら、けっ飛ばしてはどうですか? と言っています。これは、わたしの経験でもあるわけですが、それで気が済むなら夫も理解してくれるかもしれません。仕事で疲れ、眠れず、ではかわいそうとも思いますが、まあ夫もそれくらいの子育ての苦労をすべきかと思います。Cooyon 2006.07

「夜泣き」の治療薬って、効くのでしょうか。
「 夜泣き」に処方される薬とは、どんなものでしょうか。  なるべく薬を飲まずになくせればいいと思っていますが。

母親に安心感を与える効果はあるようです。
 「ヒヤキオウガン」という薬のコマーシャルの歌は、ご存知の方も多いと思います。これは「キオウガン」という漢方を「ヒヤ」という薬屋さんがつくっているものだそうです。わたしは漢方が、本当に効果があることはほとんどないと思っています。行きつけの飲み屋で何かのついでに、「ヒヤキオウガン」の悪口を言ったところ、そこの「ママ」が「わたしはヒヤキオウガンに助けられた」とのことでした。そこでいろいろ調べたところ、「ヒヤキオウガン」のことがわかってきました。もちろん、これの効果を証明した研究は見つかりませんでした。しかし、これによって「助けられた」ひとも多いため、長年売れ続けているのでしょう。この効果はたぶん「これを飲ませれば夜泣きが減る」という親の安心感が子どもに伝わり、「偽薬効果」として夜泣きを減らすのだと思われます。副作用がなければ、それなりに意味をもつと思います。
 では科学的に証明された、単なる偽薬効果ではない薬はあるのでしょうか? 残念ながら「夜泣き」に関して科学的な研究は見つかりませんでした。
 欧米の乳児疝痛については科学的な研究が相当ありますが、加水分解したアレルギー用のミルクを飲ますことと、カウンセリングが多少いいかもしれない、ということ以外は効果のある方法はありませんでした。
   申し訳ありませんが、わたしには「『夜泣き』はそのうちきっと治ります」と言うほかないのです。もちろん、多くのおかあさん方は母乳やミルクなどを与えたり、日中よくあやすなどを試みて、それなりに「治して」いるようです。自分の子どもが何で泣きやむか、いろいろ試す以外にないようです。Cooyon 2006.07

ひどい「夜泣き」は、病気の可能性も?
 オルゴールを聴かせてみたり、夜は早く寝るようにしたり、食事のとりすぎなどにも気を配っていますが、「夜泣き」が治りません。薬は飲まずに治したいと思っていたのですが、ここまでひどいと、何かほかの病気なのではないかと心配です。

苦しそうだったり熱が出たりしたら、要注意。
 早く寝ることは、たとえ「夜泣き」が治らなくても大切だと思います。人間は日光を浴びるときは起きて、夜になれば寝るというのが自然ですから。前述のように、「夜泣き」は、母親のお腹の中の光とあまり関係のない生活から、昼と夜の生活に育っていく上の、適応の一過程と思われます。その過程で早く寝る習慣をつけることは重要かと思います。日本の中学生はアメリカより30分、ヨーロッパより90分も睡眠時間が少なく、弊害も生じているそうです。
 ところで、「夜泣き」が治らないと病気でないかと心配します。ちょうど「夜泣き」と年齢的に重なるのが腸重積です。特徴は、本当に苦しそうに泣くことで、最初はしばらく泣きやんで再び激しく泣きます。しばらくして吐いたり、血の混じった便が出たりすれば、すぐ受診が必要です。下痢をしているときに多い傾向があります。
 高い熱が出る場合は、さわればすぐわかりますが、高くなくてもあまり機嫌が悪いなら、中耳炎なども疑う必要があります。耳が痛いと訴えれば、鎮痛・解熱剤を使います。かならず副作用の少ないアセトアミノフェンにしてください。そのほか、さまざまな病気で夜に泣くことはあります。普段と違う感じでつらそうなら受診が必要です。
 ただ、前述しましたように、昼間はケロッとしていて、夜も、激しいが元気よく泣く習慣的な「夜泣き」は心配なく、いずれ治ります。Cooyon 2006.07

薬になるべく頼りたくないけれど……。
 近所の小児科は薬をよく出します。薬はできるだけ飲みたくないのですが、処方された中で何が本当に必要なのか、自分で判断する方法はあるのでしょうか。また、そのように自分で判断してしまっていいのでしょうか。

処方された薬をよく確かめること。
「よくもこれだけ薬を出せるな」と感嘆するほど、不要な薬を数多く出す医者のほうが患者は集まるようです。しかし近年、質問者のような薬に疑問をもつ方が増えていることは、こころ強いことです。
 日本では、まるきり効かない薬が大変よく使われています。また、効果はあるにしても、大部分の薬は症状を多少軽減したり、少し早く治したりする程度です。
 たとえば、中耳炎には多くの医師が抗生物質を出しますが、痛みの軽減・治癒までの時間の短縮以外はあまり効果がなく、下痢などの副作用も出ます。ですから、その薬が「本当に必要」かどうかは、親や本人の価値観によって、判断が違ってくることもあります。出された薬にどのような意味があるのか、説明をきちんと聞いたうえで、どうするか自分で判断することも大切です。
   また、病院や薬局では、薬の効果や副作用を簡単に説明した「薬品情報」がもらえますので、その説明と医師の説明の間に矛盾がないか、確かめてください。たとえば、「かぜ」と診断したのに、喘息の薬「ホクナリンテープ」などを平気で出す医師が多数います。「薬品情報」には喘息用と書いてあるのを見て、「かぜだと聞いたのに、薬は喘息用だったのですが」と疑問をもち、ほかの病院を受診する方が多いのです。Cooyon 2007.11

飲むとき、注意すべき薬は?
 タミフルのように、安全性が確認されていない薬はありますか? これだけは注意すべき、というものを教えてください。

どんな薬も安全とは言い切れません。
 タミフルの副作用でよく知られているのは、異常行動のためマンションから飛び降りたりすることですが、幼児に突然死を起こすことのほうがより大きな問題で、わたしも浜六郎さんとともにそのことを最初に指摘しました。また、タミフルの問題は、脳炎などインフルエンザの重大な合併症を防ぐ効果がないのに、まれに重大な副作用を起こすところにあります。
 薬の安全性は、その効果との比較で考えなければなりません。ビンクリスチンという抗ガン剤は、血液をつくる機能などへの多数の致命的な副作用がありますが、白血病への効果は抜群によく、効果と副作用のリスクとを比較しても、抗ガン剤のなかでは「安全な薬」と言えます。
 喘息の薬でテオフィリンという薬があります。注意して使っていても、たまにけいれんなどの重大な副作用が出ます。しかも、テオフィリン以上の効果をもちながら極めて安全な吸入ステロイドという代替え品があるので、テオフィリンは「安全でない」薬です。
 薬でまるきり安全だというものはありません。安全性はつねに効果やほかの薬との比較によって考え、それぞれの薬についての安全性に注意しなければならないのです。その点、漢方薬は安全と思われる方が大変多いのですが、決してそうではありません。効果も安全性もあまり科学的に評価されていないので、西洋医学の薬より余計に注意しながら使用する必要があります。Cooyon 2007.11

薬の基本的な利用法は?
 薬を飲むときの基本的な注意点を教えてください。

薬局でもらえる「薬歴」を利用する方法も。
 薬は少々量を間違っても副作用が表れないものが優れたものです。たとえば、前述のテオフィリンは倍の量を摂取すると致命的な副作用が出ますが、吸入ステロイドではそのようなことはありません。また、ペニシリン系の抗生物質を2倍使っても、重大な副作用が出ることはまれです。
 ですから、出された薬の効果と副作用をよく説明してもらうことが大事です。そのうえで量や回数などに充分注意してください。
 また、何かの薬で副作用が出たことがあるひとは、薬局でもらえる「薬歴」を使って、どのような薬でどのような副作用が出たかを明確にしておくことが大事です。医師はそのことを知らずに薬を処方することもありますので、薬を処方されるたびに、以前からだに合わなかった薬でないかどうかを確認する必要があります。子どもには、確認するまでは飲ませないほうが無難です。
 くり返しますが、外来で出る薬は、一部を除き、症状を軽減したり少し早く治す程度の効果です。何らかの副作用かも知れないと思われる症状が出たらすぐに中止して、医師や薬剤師に連絡することが大事です。

薬の情報入手方法
・薬局で「薬品情報」をもらう。
・医者に薬についてよく説明してもらい、「薬品情報」と矛盾がないかどうかを確かめる。
・薬局で、自分がかつて飲んだ薬の情報、「薬歴」をもらう。

重大な副作用のある注意すべきクスリ
・タミフル……インフルエンザの特効薬といわれるが、異常行動や幼児の突然死を引き起こす可能性がある。またインフルエンザの合併症である脳炎などを防ぐ効果もない。
・テオフィリン……喘息の薬。けいれんなどの重大な副作用がある。テオフィリンを使わなくとも、吸入ステロイドなど安全な薬もある。Cooyon 2007.11

「溶連菌」って、どんな病気?
幼稚園の子どもが、「のどが痛い」と言うので近所の医院で診てもらいました。のどの検査をしたら「溶連菌」だと言われました。
 溶連菌感染症とは、どんな病気なのでしょうか?

症状は、さまざまです。 「溶連菌」というのは、正式には「溶血性連鎖球菌」という細菌です。
 ひとに病気を引き起こす細菌には、大きく分けて「球菌」という丸い菌と、「桿菌」という棒状の菌があります。丸いか棒状かは、顕微鏡で千倍に拡大するとわかります。
 その際、顕微鏡で見やすいように菌に色をつける染色法を「グラム染色」といいます。この染色でよく染まるのを「グラム陽性菌」とし、染まりにくい菌を「グラム陰性菌」といいます。陽性の球菌で、ブドウの房のように集まっているものを、「ブドウ球菌」といいます。MRSA(耐性ブドウ球菌)という抗生物質が効きにくい菌のことは、聞かれたことがあるかもしれません。
 また、球菌がまるで鎖のようにつながっているのが、問題の「連鎖球菌」です。「連鎖球菌」のなかで、羊などの血液を含んだ液の中で繁殖させると赤血球を溶かすものを、「溶血性」といいます。合わせて「溶血性連鎖球菌」という名前になります。ややこしいですね。まあそんなもんだと思ってください。
 この溶連菌には大きく分けてA群とB群があります。A群は大人でもかかりますが、主に3歳から中学生ぐらいの子どもに、のどの痛みや発熱、リウマチ熱などの合併症を引き起こします。
 溶連菌に感染して、のどが紅色になる、細かい赤い発疹が出る、舌がイチゴのようになる、白目が赤くなる、などの症状が重なると「猩紅熱」といいます。
 そのほか、この菌が引き起こす病気に、トビヒ(溶連菌よりもブドウ球菌のほうが多い)、中耳炎、産褥熱(お産の後の感染)など多数あります。
 診断は、のどを綿棒でこすって、細菌培養検査をするとわかりますが、2日間ほどかかります。インフルエンザのように、短時間の「迅速検査」でわかるウイルスと違い、抗生物質を飲んでいると検査で陽性が出ないことがあります。
 溶連菌は患者からの痰などによって、幼稚園や家庭などでうつります。うつってから1〜3日で発病します。
 もう一方のB群は、まれに新生児期にきわめて重症の感染症になることがあります。突然発症して菌が血液中に入り、全身にまわり、通常量の10倍ほどのペニシリンを使用しても治らない場合もある、大変こわい病気です。おかあさんの産道からうつりますので、いまは出産前に検査をして、この菌が出れば、出産時にペニシリン系の抗生物質をおかあさんに使います。最近、おかあさんの感染は増えているように思います。  横道にそれましたが、質問のお子さんの溶連菌はA群だということです。Cooyon 2005.06

抗生物質は、長期間飲む必要がありますか?
「溶連菌なので、抗生物質を10日間きちんと飲まなければいけない」と言われました。
 症状がおさまっても、そんなに長期間、飲まなければいけないのでしょうか?

抗生物質に効果があることは確かです。
 治療は抗生物質ペニシリンで、ペニシリンにアレルギーがあれば、エリスロマイシンの類などで代用します。治療開始が発病後1〜2日であれば症状はすぐおさまります、と教科書には書いてあります。
とは言っても、抗生物質にどれくらいの効果があるのか、に関しての厳密な調査では、抗生物質を飲んだすべてのひとに、すぐに効くわけではないことがわかっています。
 のどの痛みに対する効果を見てみます。抗生物質を使った治療を開始してから3日目で58パーセントが治り、抗生物質を使わないと29パーセントしか治りませんでした。これが抗生物質を使用して1週間目になりますと98パーセントが治り、抗生物質を使わないと88パーセントしか治りませんでした。わたしの臨床経験からの印象では、もっと早く効いているように思えるですが、データを残していませんので正確には言えません。ともかく、抗生物質に効果があることは、確かなようです。
では、10日間飲み続けたほうがよい、という理由は何でしょうか? それは抗生物質を早く止めると再発があるからです。症状が治っても、3割ぐらいのひとは溶連菌がまだ残っていて、抗生物質を止めると再発する場合があります。
 再発についての厳密な研究はひとつしか見つけられませんでした。それは、抗生物質を3日間飲むよりも7日間飲んだほうが、再発率は少なかった、という研究結果でした。これは、わたしや、まわりの医師の経験ともよく一致しています。
 しかし、多くの教科書に書かれている10日間続けるべきである、という根拠についてはよくわかりません。7日間より10日間のほうがよかったという研究があるはずなのですが、そういう厳密な研究は見つけられないのです。なんらかの理由があるのかもしれませんので、以前はわたしも10日間出していましたが、最近は7日間にすることもあります。Cooyon 2005.06

溶連菌感染症は怖い病気ですか?
 溶連菌にかかると、腎炎やリウマチ熱にかかるという話も聞いたことがあります。それは、そんなに怖い病気ですか?

怖い病気です。きちんと治療を。
 溶連菌をきちんと治療しましょう、という理由には、溶連菌感染症の後に、おしっこの量が少なくなり、おしっこに血や蛋白が混じって顔などが腫れ、血圧が上がる急性腎炎や、高い熱が続き、心臓の内膜炎から弁膜症などをおこすリウマチ熱になることがあるからです。
 急性腎炎の発生率は抗生物質を飲んでいれば2、556人中0人、飲まないと1、834人中2人の確率で発生するというデータがあります。もっと怖い、リウマチ熱になる確率は、1975年までのデータでは、抗生物質を飲んでいれば4、208人中37人(0・009パーセント)で、飲まない場合の3、409人中74人(0・022パーセント)の半分以下になります。しかし、1975年以後の研究では飲んだひと1、079人、飲まないひと650人で誰もリウマチ熱を発病していません。日本でも急性腎炎やリウマチ熱の発病は減少していますから、どれだけ効果があるのかは厳密にはわかりません。
 急性腎炎のほとんどは、後遺症を残さずに治りますが、入院しての治療が必要な場合も多く、苦痛もあるので、発病しないにこしたことはありません。さらに、リウマチ熱の発症頻度は極めて少ないのですが、かかると心臓弁膜症などの一生の問題になることもあります。
 したがって、抗生物質は症状を早く改善し、めったにありませんが怖い合併症も少なくすることは確かなようですので、抗生物質を7〜10日間きちんと飲むほうがよいと思われます。ペニシリンやエリスロマイシンなどは安全性が高いので、副作用を考慮しても使ったほうがよいと思います。
 最後に蛇足かもしれませんが、溶連菌に感染した後に血液検査をするとASO(ASLO)が高くなっているのは当然なのですが、それが高くなっているので治療が必要だ、と長期に抗生物質を飲ませる医者がいると聞いたことがあります。この検査結果と合併症の発症との間に、どのような関係があるのかを示す厳密な研究はないと思われます。もしそのように言われた方は、飲まなければどのようになるのかを聞いてみて、わたしに教えてください。Cooyon 2005.06

風邪と溶連菌、どう見分ける?
 3歳の娘が高い熱を出し病院へ行ったら、風邪との診断。その後、しばらく様子を見ても治らないため、別の病院で受診したら溶連菌感染症だと診断されました。
 風邪と溶連菌とは、どう見分けるのでしょうか。

症状から見分けるか、菌を調べます。
 溶連菌にはA群とかB群など、いろいろな種類がありますが、今回は、いちばん多く、昨年より相当増加してきているA群に限り、お答えします。そのほかの種類については、昨年の6月号をごらんください。
 溶連菌感染症の典型的な症状は、のどが痛く、熱が出て、咳や吐き気などもあります。お腹を中心にとても細かい赤い発疹が出ます。のどを見るとほかの感染症では見られないほど赤くなっており、表面も荒れたようになっています。唇が赤くなって紅をつけたように見えます。舌も赤くなって、イチゴのようにプツプツとした表面になり、これは「イチゴ状舌」と呼ばれています。これらの症状がそろうと「猩紅熱」という名前がつけられます。
 しかし、多くの溶連菌感染症は、これらの症状の一部、とくにのどの痛みや、のどの赤みだけで終わってしまいます。のどの赤みも、初期ではプツプツとしたちいさな赤いものが散発的にできているだけのときがあります。このような場合は、慣れていないと、溶連菌感染症だと気づかないことがあるようです。
 ご質問のように、最初に「風邪」と診断された原因には、ふたつの可能性があります。ひとつは、先ほど述べたように、溶連菌感染症の初期で、溶連菌だと気づかず「風邪」と診断した、ということ。もうひとつには、溶連菌感染症も一種の「風邪」であり、のどの痛み、咳、熱などで治ってしまう場合がほとんどなので、溶連菌感染症と思ったけれども「風邪」と言ったのかもしれません。
 ともかく、ほかの病院で溶連菌感染症だと診断されたとのことですが、この場合の診断が、溶連菌特有のさまざまな症状による「診断」なのか、溶連菌を検出したことによる診断なのかわかりません。検出方法は、のどの粘膜を綿棒でこすって採取した溶連菌の混じった粘液を材料にして、免疫反応による短時間で結果が出る迅速検査と、溶連菌が繁殖しやすい培養液の中で育てて菌の種類を確定する方法があります。いずれも、すでに抗生物質を使用していれば陰性に出ます。Cooyon 2006.06

溶連菌は、からだの中でどれだけ生きる?
 溶連菌にかかった後、熱も下がったので登園しようとしたら保育園側から登園を拒否されました。溶連菌は、症状がなくなってから、からだの中でどのくらい生きているものなのでしょうか。

症状がなくなっても、その内3割のひとがまだ保菌者。
 たぶん溶連菌感染症の診断がついているので、抗生物質を飲んで、熱が下がった状態だと思われます。抗生物質を飲むと、24時間以内に感染性を失い他人に移らなくなります。そうすると、「感染性はない」ということで、登園はできることになります。しかし、そのことを医師が確認して「登園許可書」を出さないと登園できなくなってしまいますので、園側から、そのように言われたのではないでしょうか。診断をして抗生物質を処方した医師に「登園許可証」を出してもらえば、保育園は登園を拒否できません。
 さて、抗生物質を飲むと24時間以内で感染性を失うと述べましたが、このことと症状がなくなること、さらに体内で溶連菌がまだひそかに生きているのかどうか、という点は別問題です。
 たとえば、抗生物質を服用した場合の症状の改善の調査では、抗生物質を飲んだ3日目に58%のひとがのどの痛みが消え、1週間目になってやっと98%のひとが治ります。一方、体内での溶連菌の生存状況は、早期に症状が治まっても、3割くらいのひとでは溶連菌がまだ残っていて、その時点で抗生物質を止めると症状が再発することがある、とされています。
 そこで、教科書には合成ペニシリンなどの抗生物質は10日間飲むように、と記載されています。3日間程度の抗生物質の服用では、前述のように体内にまだ溶連菌が残っていて再発率は高くなり、抗生物質の服用は3日間よりも7日間のほうが、明らかに再発率が少ないというかなり信頼できるデータがあります。しかし、10日間以上のほうがよりよいというデータは、見つけることができませんでした。結論的には、服薬は7〜10日間が適当と思われます。Cooyon 2006.06

症状が出たら、すぐに病院へ?
 子どもが溶連菌にかかり、急性腎炎になりました。もう少し早く受診していたら急性腎炎にならなくて済んだのでしょうか。

早く治療するのが無難です。
 溶連菌の代表的合併症には、ご質問の急性腎炎があります。溶連菌の感染から1〜2週間して、体重が増え、顔などが腫れてきて、おしっこに赤血球や蛋白が出てくると、急性腎炎です。この急性腎炎はほぼ全員が治癒しますが、数週間の入院が必要になることもあります。
 早期に抗生物質を飲んで治療すると急性腎炎の発生率は極めて少ないようです。ある確かなデータでは、「溶連菌感染症での急性腎炎の発生率は抗生物質を飲んでいると、2556人中、1人もいなかったが、飲んでいないと1834人に2人発生した」となっています。ですから、お子さんの場合には、早く受診し抗生物質を飲んでいれば急性腎炎にかからなかった可能性が高いと思われます。しかし、900人ほど飲んでひとりの腎炎患者が予防できる程度ですので、考えようによっては飲まなくてもよいのかもしれません。
 溶連菌感染症の合併症は、急性腎炎だけでなく、血管性紫斑病という病気もあります。これは、溶連菌以外でも引き起こされる病気ですが、急に足や顔が腫れたり、皮膚に大小さまざまな出血(紫斑)や赤い発疹が出たり、お腹をひどく痛がったり、関節が腫れたりする多彩な症状をもつ病気です。この病気の最悪の状態が、尿にタンパクがたくさん出て腎臓がどんどん悪くなることです。
 そのほか、極めて少ないのですが、リウマチ熱があります。高い熱が続き、とくに心臓が障害を受け、弁膜症などになることもありえる恐い病気です。
 合併症は抗生物質の使用で、ある程度防げますので、早く治療したほうが無難だと考えます。Cooyon 2006.06

溶連菌感染症は、皮膚からも感染する?
 溶連菌感染症で手の皮がひどくむけてしまいました。この部分からほかへ感染することもあるのでしょうか。
 アトピーや虫さされの傷がきっかけになり、皮膚のただれが起きるという話も聞いたことがあります。

皮膚から感染する場合もあります。
 溶連菌感染症で発疹が出て、手の平が赤くなった後に、指先から手の平側の皮がむけてくることがあります。この症状は、イチゴ状舌などと同じく、川崎病と似ています。しかしこの部分から菌がほかのひとへ感染することは考えられません。溶連菌感染症の大部分はのどで増殖して前述のような症状を起こすので、咳などで移ります。
 しかし溶連菌が「とびひ」という皮膚の病気を引き起こすこともあります。とびひの場合は溶連菌が原因と言っても、また別の病気になります。とびひは菌が皮膚でも増殖するので、皮膚を検査すると溶連菌が検出されることがあります。その場合は「ただれ」が周囲の皮膚に感染して全身へ広がっていきます。アトピー性皮膚炎や虫さされの部分から溶連菌に感染し、とびひが発病することもあるので、とびひは「傷がきっかけになる」と言えます。Cooyon 2006.06

子どもがタバコを食べてしまったら、どうしたらいいでしょうか?
 子どものタバコの誤飲は、いのちにかかわると聞きました。
 万が一飲んでしまった場合、応急処置方法はあるのでしょうか。

口から出させてから、病院に行ってください。
 子どもが誤ってタバコを飲む事故は大変多いものです。誤飲については多くの報告がありますが、いずれの報告でもタバコがトップを占めています。誤飲全体に占めるタバコの割合は、1986年から2003年にかけてほとんど変化がなく、4〜5割を占め続けています。
 男性の喫煙率は1980年代の約60%が2003年には47%に、女性は同時期に15、16%から、13%に減っているだけです。タバコの販売本数は1988年の3、064億本から、2004年には2、927億本へと、少ししか減っていません。子どもたちは、誤飲という形でも大変な迷惑を被っているのです。
 昔、早朝にふと目を開けると、当時6ヶ月だった娘が、タバコを口に含んでいました。わたしは、口からタバコを出させた後、近くの病院に駆け込み、チューブと注射器を貸りて家に帰り、泣き叫ぶ娘を押さえつけて胃洗浄をしました。
 しかし最近では、タバコの誤飲は以前ほど怖くないとされています。アメリカの中毒コントロールセンターの15、235件の調査では、タバコを誤飲した子どものうち、23%のみが病院で治療され、そのうち97%は症状がないか軽度の症状で、死者はなしでした。日本の1、000件の報告(中村らによるもの)、スウェーデンの355件の報告では、入院が必要な子どもはいなかったとしています。
 先のデータなどから医師の千代孝夫さんは、タバコの「2分の1本以下の摂取や症状のないものでは、胃洗浄などの侵襲を伴う処置を行わずに、服用後2時間の外来観察(30分ごとに診察する)を行って帰宅させる」としています。わたし自身は、どのくらい胃に入ってしまったかわからないときなどは、胃洗浄を試みてしまいます。
 もちろん、千代さんもタバコ1本には10〜20ミリグラムのニコチンが含有され、乳幼児の致死量であり、頻脈・皮膚蒼白・発汗・興奮などの症状が出ること、子どもが致死量を超えてタバコを大量に摂取することは極めて少ないとしながらも、その場合は呼吸停止があり得るとしています。
 何より、タバコを食べさせないことが第一です。6ヶ月から1歳までがいちばんタバコを食べてしまう年齢です。
 タバコを吸うときは、ベランダにでも出て、子どもが絶対届かない位置に、蓋のついた灰皿を置くべきです。わたしもいろいろ工夫をした末、子どもが少し大きくなってからですが、禁煙しました。娘ばかりか、孫にもタバコを食べさせた、と娘や妻にしかられることがないようにです。
 回答が最後になりました。万が一食べてしまったら、口の中から取り出して、なるべく早く受診するほうがいいと思います。Cooyon 2006.05

子どもの誤飲で多いものは何ですか?
 子どもは、どんなものを誤飲してしまうことが多いのでしょうか。

誤飲するものはタバコに次ぎ、薬が多いようです。
 子どもの事故にはどんなものが多いか、京都の幼稚園と保育園で調査したものがあります。事故の9割は家庭で起こっていて、誤飲は、打撲に次ぐ第2位だそうです。
 さて、この調査では、子どもが誤飲してしまうものの第1位はタバコ、それに続き、第2位は薬です。報告者にもよりますが、誤飲の10〜30%が「医薬品」で、たいてい2位になっています。
 子どもが本当に飲まなければならない薬は大変少ないものです。不要な薬はできるだけ使わず、大人の薬も含めて、家庭に置く薬自体を少なくすることが、誤飲予防になります。
 また、使う薬も、少々間違って飲んでも強い副作用が生じない薬がいいのです。たとえば喘息用のテオフィリンという薬は決められた量の何倍も飲めば危険です。しかし同じ効能の吸入薬であれば、量を間違うことは少なく、誤って口にしてしまったとしても、大きな副作用は出ません。もちろん、子どもの手の届かないところに置くのが原則です。薬の誤飲の治療は、誤飲した薬の種類・量を考え、胃洗浄や薬を使う場合があります。
 最近増加しているのが、玩具などに使われている乾電池の誤飲です。電池にはコイン型のちいさなものから大きなもの、種類もリチウム、マンガンなど、多数あります。誤飲すると危険な場合もあります。医学文献は、リチウム電池が電力も強く大きいので問題を起こしやすいとしています。
 とくに、食道に停滞している場合は、食道の壁を溶かして穴を開けるので、取り出す必要があります。胃まで入ってしまえば比較的安全ですが、食道、胃に入ったどちらの場合も、磁石をつけたチューブなどで取り出すことができます。そのまま様子を見て、腸に行かないときには取り出すという方針もあります。いったん、腸に入ってしまえば、うんちと一緒に出てくることが多いので、とくに症状がなければ出てくるのを待ちます。
 乾電池に限らずほとんどのものは、消化管に障害を与えず排泄されます。少し前、ガラスの瓶をかみ割った子がいました。調べてほしいと言われレントゲンを撮ったら、腸に入っていました。翌日には何事もなくうんちに混じって出てきたのですが、相当鋭いガラス片でした。
 そのほかに多いものは、コインです。たいていは、問題なく排泄されますが、食道から逆流して喉に詰まり、呼吸がおかしくならないかをみておく必要があります。そのほか、中性洗剤や化粧品も、念のため手の届かないところに置くべきでしょう。安全ピンも針がしまわれずに開いていたのを飲んで、腸に刺さって手術になった例が報告されています。子どもは何でも口に入れ、飲んでしまいます。1〜2歳までは本当に注意してあげてください。Cooyon 2006.05

気管に食べものが入ってしまったら?
 幼い子どもは、ピーナッツなどの豆類が気管に入りやすいと聞きました。
 気管に食べものや、誤飲したものが入ってしまった場合はどうなるのでしょうか。

咳や発熱、呼吸困難や嘔吐を引き起こします。
 気管に異物が入ることなど、なかなか考えにくいのですが、わたしがよくお世話になる近くの小児外科では22年間に40例あったと報告しています。88%が2歳以下で、種類はピーナッツが6割を占めたそうです。別の報告では6ヶ月〜3歳が多く、やはりピーナッツが44%と多く占め、症状としては、咳が8割、ぜいぜいする44%、発熱28%、呼吸困難22%、嘔吐11%などでした。ピーナッツなどの豆類は、脂肪分が多いせいか、気管に入っても腐敗することも溶けることもないのでやっかいなのです。豆類を食べた後、こんな症状があれば、早く医療機関を受診することが必要です。
 小学1年ぐらいの女の子が、肺炎になりなかなか治らない、と紹介されて来たことがあります。よくよく聞くと、学校で急に咳き込んだことがあるとのことで、異物を疑いました。そこで、専門の医師に気管支鏡で気管支の奥を見てもらいますと、ボールペンのキャップらしきものが見えました。一生懸命引き出そうとしてくれたのですが、全く動きません。とうとう外科医に胸を開ける手術でキャップを取り出してもらいました。ご両親には大変感謝いただきましたが、本人は「(治療は)すぐ済んで、あそべるから」と聞いていたものですから、麻酔が覚めてから手術されたことがわかると、とても怒り、みんなでご機嫌を取るのに大変でした。
 子どもはビーズや豆などを鼻につっこんだり、吸い込んだりすることもあるので、異物がからだの中に入ってしまった疑いがあれば、耳鼻科などでみてもらう必要があります。気管にまで入らないうちに発見できれば、比較的容易に摘出できるからです。ともかく、ピーナッツやビーズなども、ちいさいお子さんの周囲には置かないことです。Cooyon 2006.05

幼児でも花粉症になるのでしょうか?
 3歳の子どもですが、春が近づいてきてから目がかゆいようで、しきりに目をこすります。花粉症でしょうか?

3歳での花粉症は、めずらしいものです。
 なかなか難しいご質問です。確かに、春に向かう頃になると、花粉症がはじまり、その症状の一部として目がかゆくなることは、多くの大人も訴えるところです。
 1993年の厚生省(いまの厚生労働省)の調査をもとにした計算では、15歳未満の子どもの12〜16%(15歳以上は15〜21%)がアレルギー性結膜炎を有しているとされています。花粉症もアレルギー性結膜炎の原因のひとつですので、お子さんも花粉症かもしれません。
 しかし年齢によっても、花粉症である確率は、相当違ってきます。詳しいことはわかりませんが、3歳での花粉症は、頻度としてはかなり低いものだと思います。
 ところで、アレルギー性の結膜炎ですが、アトピー性皮膚炎や喘息のひとがなると「アトピー性角結膜炎」、春に結膜が腫れ、ゼラチンのようなものが目についてくる場合は「春季カタル」、コンタクトレンズなどの刺激による結膜炎として「巨大乳頭性結膜炎」などもあります。
 アレルギー性結膜炎の診断は、これらの症状の特徴を備えているかどうかの診察が重要です。検査には、アトピー性皮膚炎や喘息と同じく原因を見つける「アレルゲン検査」のほかに、結膜をこすってとれる細胞の検査などがありますが、いずれも眼科を受診することが必要です。
 アレルギー性結膜炎であれば、冷たいもので目をおさえると、かゆみをやわらげることができます。薬としては、当然ですが点眼薬がよく効きます。抗ヒスタミン剤やいわゆる「抗アレルギー剤」の入ったものがよく使われます。それでも治らない頑固なものには、ステロイド剤が入ったものを使いますが、長期に使うのは問題がありますので、眼科医と充分相談して使ってください。  アレルギー以外にも目がかゆくなる病気はたくさんあります。まず、ウイルスや細菌による結膜炎があります。これらは、また別に説明します。
 それ以外にも、目にごみが入ったという単純なものから、まつ毛が内側に曲がっている「サカまつげ」、挙句はまつ毛につく毛じらみまで、多くの原因があります。  このような病気のほかに、しきりに目をこする場合、考えておかなければいけないのは、一種のストレスの表現かもしれない、ということです。
 まず、眼科で病気があるのかないのかをはっきりさせたうえで、病気がなければ、ストレスによるものかもしれないことも考えて、子どもに対する親の態度など、周囲に注意を向けてあげてください。Cooyon 2006.04

目やに・充血がひどい。これは結膜炎?
 5歳の子どもです。目やにがひどく、白目が充血しています。結膜炎でしょうか。
 結膜炎は移るといいますが、幼稚園も休ませたほうがいいでしょうか。

結膜炎でも、いろいろな種類があります。
 目やにがひどく、白目(=眼球結膜)が充血する病気の代表は結膜炎です。結膜炎を起こすのは細菌とウイルスがあります。
 昔の細菌性の結膜炎の代表は、淋菌や、トラコーマ(クラミジアトラコマチスという細菌によるもの)でしたが、両者ともいまでは少ないようです。しかし、新生児の場合は別です。クラミジアトラコマチスによる性病が蔓延しているため、産道から移る新生児期のクラミジア結膜炎は衰えていません。新生児の結膜炎では、まず考えなければならない病気です。
 そのほか、いろいろな細菌でも起こります。乳幼児期ではヘモフィルスという細菌が多く、成長するにつれて肺炎球菌、ブドウ球菌による結膜炎が増えてきます。近年問題になっているのが、耐性黄色ブドウ球菌やペニシリン耐性肺炎球菌など、薬が効きにくい細菌による結膜炎が増えていることです。そういう意味でも、かぜなど抗生物質が不要な病気に抗生物質を使ってしまって、薬の効き目に慣れてしまわないことが求められているのです。
 ウイルスとして有名なのは、アデノウイルスによる2種類の結膜炎です。ひとつは、「流行性角結膜炎」というもので、日本では年間約100万人がかかるとされています。わたしが医者になりたての頃、喘息で経過を見ていた子どもの目がひどく赤くなっているので、「なんだろう」と思っていましたところ、それから1週間ほどして、わたしも目に違和感が出てきました。鏡を見ると、白目が真っ赤になっています。眼科で診てもらうと「流行性角結膜炎」でした。「10日間病院への立ち入り禁止」を命じられ、「診るだけで移る(そのくらい移りやすい)ものだから注意すべき」と、しかられました。それ以後、目の赤いお子さんは少々苦手です。この病気は年中ありますが、夏に多くなります。
   もうひとつのアデノウイルスの結膜炎は「プール熱」。のどの発赤と結膜炎がおもな症状なので、「咽頭結膜熱」とも呼ばれています。「プール」と言うので夏だけかというと、そうではありません。1〜3月が28%、4〜6月が30%、7〜9月が18%、10〜12月が24%と、むしろ冬から春にかけて多いわけです。アデノウイルスかどうかかなりの正確さでわかり、すぐ結果が出る検査があります。インフルエンザの検査と同じく、綿棒でのどの粘膜をこすって検査をします。
 また、白目がべったりと真っ赤になる急性出血性結膜炎という、エンテロウイルスで引き起こされる結膜炎などもあります。
 そのほか、たとえば川崎病のように全身の病気のひとつの症状としての結膜炎があります。白目が真っ赤に充血しますが、発熱を伴い、舌や唇も真っ赤になり、発疹などの症状をともないます。溶血性連鎖球菌による感染でも、目が充血し、川崎病とまぎらわしい症状が出ることがあります。麻疹でも白目の充血を伴います。
 いずれにしても、明らかに白目が充血していれば、眼科や小児科でそれなりの診断を受ける必要があると思います。幼稚園への通園などは、そのうえで決めてください。Cooyon 2006.04

あかちゃんの目やには病気でしょうか?
 3ヶ月の子どもです。生まれてから目やにがひどく、目が開かないことも。自然に治るものでしょうか? また、最近目をしきりにこすります。目を傷つけるのではないかと心配です。

6ヶ月を過ぎてから、受診をおすすめします。
 もし、白目が赤くなく腫れていなければ、涙の排水管のような「鼻涙管」が先天的につまっているか、流れが悪くなっているためと思われます。
 涙は目玉の外側にある涙腺というところでつくられます。それが瞬きなどで目を潤して、その後は目の内側(鼻側)の鼻涙管に入って鼻の奥に流れていきます。涙が多く出ると鼻水も多くなるのは、鼻に行く涙も多くなっているからです。
 新生児期の約6%のあかちゃんは、鼻涙管が細くて詰まりやすかったり、閉鎖している場合があります。そのために涙が目からあふれ、目やにもたまります。流れが悪いと目の保護機能が弱くなるので、結膜炎などになりやすくなります。また、鼻涙管自体が炎症を起こして目と鼻の間が赤く腫れてくることがあります。めったにないことですが、白目が赤くなったり目の周辺に異常があれば眼科を受診してください。
 しかし、先天性鼻涙管閉塞は月齢とともに自然とよくなり、1歳までには95%程度が治ります。わたしの印象では6ヶ月を超えると相当少なくなるので、それまでは待って、6ヶ月を過ぎるときは念のため、眼科を受診するようにすすめていますが、1歳まで待ってもよいかと思います。それまでは、ガーゼを水道水や湯冷ましで濡らして、目やにをふき取ってください。清潔な指先で、目と鼻の間を上から下へマッサージをすると、早く治るという研究があるので、おすすめします。
 最後に目をこすることですが、あかちゃんの発達の一段階として、目をこする時期があります。あかちゃんの手の発達は、目や唇に手をこすりつけたり触ったりする練習からはじまります。最初はぎこちないので、目を強く圧迫して、傷つかないか心配になるほどです。しかし練習の過程で少しずつ上手になり、軽くこすれるようになります。3ヶ月である程度うまくこすれるようになっています。いずれにしても、目を傷つけることはないようですが、手や顔の清潔は適当に保つことは必要でしょう。Cooyon 2006.04

何だか子どもの目がいつもより赤い。そのうち治る? 何かの病気の前触れ? プール熱などが流行しはじめる初夏、「目が赤い」ときの家庭でのケアや症状の見極めについて(クリックで回答をみる)

まずはここをチェック

 目が赤くなる症状は、多くの全身的な病気で現れます。ほとんどがウイルス疾患で、その代表がプール熱です。結膜炎で目が赤くなるほか、熱や喉の赤みや痛みを伴うことが多いです。原因はアデノウイルスで、自然に治ります。
 ほかにも、たとえばインフルエンザなど多くのウイルス性の病気でも目が赤くなることがありますが、自然に治ります。ただ、あまりに真っ赤な場合は早めに眼科を受診してください。
 細菌感染による病気として、溶連菌感染症という病気でも、目の充血、熱(ない場合もある)と喉が真っ赤になるのが特徴です。抗生物質がよく効く病気です。
 また、感染ではないのですが、発熱とともに目が真っ赤になり、そのうち発疹が出たり、唇や手のひらなどが赤くなり、首のリンパ腺が腫れてくるような場合は、川崎病が疑われます。そのほか、薬の副作用でも目が赤くなる場合がありますし、口の粘膜などに水泡を伴う場合はすぐに受診が必要です。
 いずれの原因にしても、グッタリするなど全身状態が悪ければ、すぐ受診してください。

家庭での緩和ケア

 結膜炎で目が赤くなっている場合は、多少とも目やにが出ます。目やにが気になるようなら、湯冷ましなどで軽く拭き取る程度がよいと思われます。また、結膜炎になると、目がかゆいことが多く、ついこすってしまいがち。そんなときは、少し冷たくぬらしたガーゼなどで冷やすと、かゆみが緩和されることもあるようです。
「目が赤い」というのは、結膜の血管が拡張して多くの血液が流れているということで、病気を治すためのからだの反応のひとつです。血管を収縮させるような目薬を使えば一時的に赤みが取れるかもしれませんが、解熱剤と同様、あまり多用しないほうがよいでしょう。ただ、アレルギー性結膜炎だとわかっているような場合は、抗ヒスタミン薬が入った目薬を試みてもよいと思います。

こんなときは病院へ

 まず、眼の打撲や外傷、化学薬品・熱湯・花火などが目に入って赤くなっている場合は、すぐに眼科を受診すべきです。強く目を痛がる場合も早く眼科を受診してください。
 それから、ひどく赤くなる、赤みが黒目の周囲に強く出ている、膜のようなものや膿がつく、あるいはまぶたが腫れたりする、などの症状がある場合も、早めに眼科を受診したほうがよいでしょう。
 また、冒頭で述べましたように、目が赤くなる以外に、熱が出たり、発疹が出たり、そのほかの症状が出た場合は、とりあえず小児科・内科を受診するようにしてください。
 最後に、花粉症のようにアレルギー性結膜炎の場合は、薬がよく効きますので、かゆみなどの苦痛があれば、受診するとよいでしょう。

Cooyon 2014.06
どうして鼻血が出るのでしょうか?
 3歳の子どもですが、よく鼻血を出します。体質でしょうか。鼻血の原因には、どんなものがあるのでしょうか。

原因はアレルギー、外的要因などがあります。
 鼻血は子ども、とくに小学校入学前の子どもに多いと言われています。この年頃の子どもは、どんどん活発になり、鼻に玩具を突っ込むなど、いろいろ変わったこともするようになるためかもしれません。また、女の子より男の子のほうが多いようです。わたしが診ている限り、男の子のほうが動きが激しく、鼻を打ったりもします。そんなことも影響しているかもしれません。
 体質による鼻血、と言うと、特別な感じがしますが、何か異常があるから鼻血が出るとは限らず、よく出る子と、出ない子がいることは確かです。
 また、季節的には、夏に多いとされています。夏には鼻の穴の入り口が細菌で汚染されやすいから、などという説明もあるようですが、わたしは、あまり納得がいきません。
 さて、鼻血の原因としては、まずアレルギー性鼻炎があげられます。アレルギー性鼻炎そのもので、鼻の粘膜に傷がついたり、痒いので鼻をこすって粘膜に傷をつけたりで、血が出ることになります。
また、玩具やビーズなどを鼻の穴に入れてしまって、それらが直接的に粘膜を傷つける、ないし異物のために炎症が起こり出血することもあります。
 ケンカで手が鼻にぶつかったり、柱などに鼻をぶつければ、純粋にケガのために出血します。この場合は、鼻の骨が折れていることもありますが、鼻の形が変化していなければ骨折の心配はあまりないそうです。
 以上は、はっきりしている原因ですが、小児でもっとも多いのが、原因が明らかでなく、突然血が出るタイプです。鼻の真ん中の壁の一部の「キーゼルバッハ」という部分から突然出血します。キーゼルバッハでは鼻の真ん中の薄い骨に、血管の豊富な粘膜が直接密着していますので、骨と血管の間に緩衝物がないために傷つきやすく、大変出血しやすい場所です。原因が明らかな場合でも、ここから出血することが大半です。
 鼻血が出やすい食べものについては医学論文では見受けられませんでした。
 最後に、血液に問題があり、出血しやすい状態になっていることもありますが、それらについては、次のご質問で詳しく書きます。Cooyon 2006.08

鼻血の原因が、重大な病気の場合もある?
 重大な病気によって鼻血が出ることもあるのでしょうか?

血液の病気が原因になっている場合もあります。
 前述しましたように、出血が止まりにくくなる血液の病気があります。
 血液中には赤血球と白血球という細胞がありますが、もうひとつ、400倍の顕微鏡で見てもゴミと間違うほどちいさい「血小板」という細胞があります。これは、出血をさせないように、また出血してもすぐ止めるための大変重要な働きをして、骨髄の中でつくられています。そこで、この骨髄が傷害される「白血病」や、「再生不良性貧血」という病気になると、血小板の数が減って鼻血が出やすく、また止まりにくくなります。
 そのほか、血小板を外から来たウイルスなどの異物と間違え、自身が血小板を壊してしまう「特発性血小板減少症」という病気があります。血小板が減少しますと、皮膚にちいさな紫色の斑点ができたり、鼻血が出て止まりにくくなります。さらに、アスピリンなど消炎鎮痛剤を飲んでいると、血小板の機能が弱くなって出血が止まりにくくなります。
 血液には、血小板以外にも血を止める働きを担う液体成分があります。それを「凝固因子」といいますが、この凝固因子の病気の代表例に、血友病があります。この病気は先天的なもので、関節内や筋肉内など深いところに出血するのが特徴ですが、鼻血が止まらないこともあります。
 凝固因子の病気では、そのほかに「ビタミンK欠乏症」があり、これは鼻血というより、へそや胃、また頭の中に出血します。この病気は、以前は、母乳哺育の2〜3000人にひとりのあかちゃんに、人工ミルクでも頻度はさらに低くなりますが、出現していました。しかしいまではビタミンKを、母乳、人工ミルクに関係なく、生後すぐと生後1ヶ月などで補給しているので、きわめて少なくなりました。
 鼻血でも大量に出血すれば、危険な状態になる場合もあります。前述の血液の病気があれば、鼻血がなかなか止まらないため、貧血が進んでショック状態になることがあります。白血病などの治療では、鼻血対策が大変で、耳鼻科の応援を受けて、さまざまな処置をします。
 逆に、血液の病気をもっていなければ鼻血の出血で貧血になったり、まして血圧が下がってショックになったりすることは極めてまれです。もっともわたし自身は「昨夜から鼻血が何回も出た」という子どもの検査をしたとき、大変な貧血になっており、よくショックにならなかったものだとびっくりした経験があります。この子は、血の止まりが悪くなるような病気を持っていませんでしたが、キーゼルバッハ部に大きな傷があったためと思われました。Cooyon 2006.08

鼻血は、どうやって止める?
 うちの子どもは、よく鼻血を出します。なかなか止まらないのですが、鼻血はどうやって止めたらいいのでしょうか。

ティッシュをつめては、いけません。
 鼻血がなかなか止まらないで受診される方に、ティッシュなどを鼻の穴に詰め込んで、止まったのでティッシュを取り出すと、再び出血することをくり返している場合が多々あります。
 これは、せっかく血が固まって、出血が止まっていたものが、ティッシュをとることでその血の固まりが傷からはがれて再び出血するためです。また、ティッシュなどを詰め込むときにデリケートな粘膜を余計傷つけることにもなりますので、ものを詰め込むのはよくありません。また、上を向かせて、首筋をとんとんとたたいて止めようとしている方もおられますが、全く効果がなく、また後でも述べますが、上を向くと、止まったかどうかもわかりませんので、これもよくありません。
 鼻血を止める方法について、対処方法を紹介します。まず、慌てないで(と言っても無理なときもありますが)、
(1)鼻血を飲み込まないように、いすにでも座らせ、下を向かせます。これは、上を向いていると鼻血を飲み込んでしまうからです。
(2)次に、ここがこつですが、鼻の中に何も入れず、鼻全体を左右からつまみ、鼻中隔(鼻の真ん中の壁)を強く圧迫します。こうしますと前述のキーゼルバッハ部を中心にうまく圧迫でき、血がよく止まります。どちらか片方から出ていても、そちらだけ圧迫するのではなく、両側からできるだけ鼻全体をつまみます。
(3)そのまま、15分間ぎゅっとつまんだままにします。15分は結構長いので指が疲れますが、急に離さず、疲れたら力を緩めてもつまみ続けることが大事です。
 大抵はこれで止まりますが、止まらなければ受診が必要です。
 注意点は、仰向けに寝かせたり、座ったりして上を向かせないこと。鼻血が鼻から喉に流れ込んでしまい、止まっていなくても一見止まったかのように見えることがあることです。かならず下を向いたままで止まっているかどうかを確かめてください。Cooyon 2006.08

転んで鼻をぶつけたり、 鼻の穴を指でほじほじしたり…… まだ粘膜の弱い子どもたちは、 何かと鼻血が出やすいもの。 とはいえ、急に鼻血が出ると ちょっとびっくりすることも。 鼻血の応急処置や 鼻血と病気との関係など、 小児科医・林敬次さんに うかがいます。 (クリックで回答をみる)

まずはここをチェック

 子どもの鼻血のほとんどは、とくに病気がなくても起こります。なぜか、3歳頃から小学低学年の男の子に多いようです。激しい運動で鼻をぶつけたり、強くこすったりするのかもしれません。ほとんどの場合は短時間で止まります。
 出血部はたいてい、鼻の入り口の内側の「キーゼルバッハ」と呼ばれる部分で、鼻の真ん中を通っている軟骨に接しています。そこには細かい網の目のような細い血管がありますが、その外側には何のクッションもなくすぐに、空気に接する粘膜が覆っています。そのため、ちょっとした衝撃や病変でも、粘膜と血管が傷つきやすくなっています。
 鼻血が出やすくなる局所の病気としては、アレルギー性鼻炎やポリープなどが考えられます。
 とくに問題なのは、全身性の病気で出血が止まらなくなるような、血小板減少などを引き起こす病気です。この場合はなかなか止まらなく、かつ鼻血以外の症状(たとえば出血班など)を伴うことがあるので、皮膚の状態をよく見ることが大切です。

家庭での緩和ケア

 血を見るとびっくりするお子さんもいるので、まずは血を止めて、血を拭き取るなどして、安心させてあげることです。
 つい鼻の穴にティッシュを詰め込みたくなりますが、一時止まったかに見えても、ティッシュを引き出すとまた出血することが多いようです。前述のように、出血する部分はほとんどが鼻の穴のすぐ入口で、鼻の真ん中の粘膜からです。その出血している部分を圧迫すると止まりますので、鼻の先の真ん中(小鼻の上あたり)を指でつまみます。5分もつまめばたいていの鼻血は止まります。
 首を後ろに傾けたり、上向けに寝かせるという対処方法も聞きますが、これは単に血を喉の奥に流しているにすぎません。その体位を取るにしても鼻はつまんでください。

[チェックポイント]
●止まるまでの時間
●皮膚などの紫斑(うちみ)のようなものはないか
●出血している部位(わかる範囲で)
●全身状態(顔色や、ぐったりしているかどうかなど)

こんなときは病院へ

 鼻の局所的なトラブルで出る鼻血のほとんどは問題ありません。しかし、とくに全身的な病気がなくても、相当な出血をして、貧血が生じている場合もあります。かつて血液に詳しいわたしの小児科の師匠が、寝ている間に鼻血を出し、貧血になるまで出血していた例をおしえてくれました。実際、後にわたしもそのようなお子さんに出会いましたが、あまり出血の量が多そうなら、一度受診したほうがいいでしょう。
 鼻血が出ている時間も問題です。たとえば20〜30分止血してもなかなか止まらない場合や、止まったように思ってもまた出てくるときは、すぐ受診してください。  鼻以外にも出血を伴っていたり、皮膚に紫斑のようなものがあれば、全身の病気も考えて受診すべきです。
ぐったりするとか、顔色が非常に悪いときなどは、緊急に受診を。

Cooyon 2015.09
肥満の基準はありますか?
 5歳の子どもですが、おなかも出て、やや肥満ぎみの印象。「肥満」は、具体的にどのような症状を言うのでしょうか?

身長と体重のバランスから、肥満かどうかを診断します。
 肥満ぎみ、ということですが、まず肥満とは何かをはっきりさせておく必要があります。大人と違い、子どもの肥満の診断は、かなりややこしくなっています。
 よく使われる「肥満度」というのは、実際の体重からその年齢の「標準体重」を引いた値を、「標準体重」で割ります。その値が20%以上ですと肥満、50%以上は高度肥満です。「標準体重」は文部科学省調査による、年齢別・性別・身長別の値を用います。インターネットでは、自動的に計算してくれるものもあり、便利です。
 そのほか乳幼児ではカウプ(Kaup)指数(体重〈kg〉/身長の2乗〈cm〉×10)が栄養の評価としてよく使われ、15〜18が正常とされています。小学生以上の児童ではローレル(Rohrer)指数(体重〈kg〉/身長の3乗〈cm〉×10)が学校でよく使われる方法です。160以上が肥満児の指導対象とされているようです。
 大人の場合は世界的によく使われるBMI(Body Mass Index)があります。これは、体重〈kg〉を身長〈m〉の2乗で割ります。標準値は22で、25以上が肥満度I、30以上がII、35以上がIII、40以上はIVとされています。Cooyon 2005.12

肥満体質は3歳で決まる?
 3歳の子どもですが、食欲旺盛。育ち盛りなので多少太っても大丈夫だと思っていましたが、肥満体質は3歳までの食事で決まるという話を聞きました。本当でしょうか?

3歳で「決まる」というのは言いすぎ。
「決まる」という言い方は強調しすぎているように思います。確かにちいさい子どもの太りすぎは、成人になったときの肥満につながるというデータはあります。1976年発表のアメリカの研究では、1945年から1955年に生まれた子どもを対象に、乳児のときの体重と、20〜30年後の肥満の程度との関連を調べています。平均的な体重の乳児は大人になってから14%が肥満になったが、体重の重いほうから10番目までの乳児は大人になってから36%が肥満になった、など、身長にかかわらず体重の重い乳児は将来肥満になりやすい、という結果でした。もうひとつ、300人のアフリカ系アメリカ人を20年間も追跡した調査があります。やはり乳児のときにどんどん重くなった子どもは20年後でも、乳児のとき標準体重だったひとの5倍程度の割合で、肥満になっていました。
 そのほか、3歳まで肥満だった子は、7歳の時点でも肥満である確率が、そうでない子の15倍だったというイギリスのデータもあります。日本では確かではありませんが、肥満児童の3割以上が成人肥満になった、肥満治療で入院した児童の5割以上が成人肥満になった、というデータがあります。これらの肥満の原因が食事によるものかどうかは不明であり、子どもの頃から食事に注意していれば大人になって肥満にならないかどうかは、はっきりしていません。しかしながら、乳幼児の肥満を避けることは将来の肥満を避けることになる可能性は残されていますので、食事にも注意は必要かと思います。Cooyon 2005.12

太ってしまったらどうすればいい?
 すでに肥満ぎみの息子です。改善すべきことは何でしょうか?

適度な運動と食事に気を配ること。
 まず乳児について気をつけることを考えてみます。ひとつは母乳と「ミルク」の関連です。この問題に関して、世界中の31の研究を調査してまとめた論文がありました。それによると、母乳のほうが将来肥満になる確率が13%ほど低下したとのことです。しかしこのような調査では、ミルクを使用するのは忙しい共働きの家庭が多いことや、与えるミルクの分量の問題など、さまざまな事情が重なっている可能性があります。いちがいにミルクの成分だけが肥満の要因とも考えられないので、あまり確かなことは言えません。
 3歳までの生活の中でどのようなことに気をつけるかに関しては、イギリスの大規模な調査が比較的、科学的な結果を示してくれます。週8時間以上テレビを見る子は、見ない子の1・5倍、また1日10・5時間以下しか眠らない子がそれ以上眠る子の1・45倍、それぞれ肥満になりやすいということです。
 わが国の5歳児の調査では、1960年代に20・9%だった食事中の脂質が、1980年代より33%程度となっており、食事の内容が肥満児増加の要因ではないかと考えられ、肥満の程度によっては、食事に含まれる脂肪分を減らすことも重要かと思われます。
 もうひとつ大事なことは、大人の肥満でもそうですが、運動量が極端に少なくなっていることです。少々古いのですが7年前の調査では小学3、4年生で、運動(どんな形でも)する時間が、週6時間以内の子が全体の4分の1程度になっています。子どもの運動に関する世界の研究では、学童で少なくとも1日1時間以上の相当激しくたのしいさまざまな種類の運動をすることが、発達全体によいことが明らかになりました。その論文の中では、1日30〜60分、週3〜7日間の相当きつい運動は肥満の子どもによいこととしています。Cooyon 2005.12

肥満は遺伝するのでしょうか?
 4歳の息子は平均体重を越えています。太る家系なので、 子どもが肥満になるのではないかと心配です。肥満は遺伝するのでしょうか?  また、肥満の治療法はどんなものなのでしょうか?

遺伝というより社会環境が原因。
 ご質問の方のように、肥満の方が多い家族は多々あります。しかし、肥満が遺伝するかどうかはまた別の話です。単にその家族では食事内容やテレビばかり見て運動をしない生活パターンが、親から子に伝わっただけかもしれません。遺伝に関する膨大な研究をまとめた論文が昨年アメリカから出ています。大変まれな肥満をきたす疾患を除き、遺伝ははっきりしないという結論です。
 日本では、1970年からの20年間に学童肥満児が約3倍に増加、2000年では学童初期で約5%、学童後期で約10%が肥満児になっています。テレビの見すぎ、運動不足、睡眠不足などのほかに、ファーストフード、コンビニに頼る食生活や、スポーツドリンク、清涼飲料水、ジュースの摂りすぎ、食事における脂肪の増加、ストレスの増強などが、社会が子どもに押しつけた肥満の要因だと考えられています。
 ところで、「生活習慣病」という一般名が肥満にもつけられています。なるほど、と思われるかもしれませんが、この名前には、そのような生活習慣をもたらした社会的背景が隠され、病人個人の生活習慣の問題とされる危険性があります。子どもたちは社会を変えるわけにいきません。この病は、わたしたち大人の社会が子どもに与えたものであり、大人が社会を変えていかなければならないと思います。
 もちろん現在肥満になっている子どもにとっては現実的な治療が必要です。子どもの肥満は、成人と比べて極めて少ないとはいえ、糖尿病、高コレステロールや高尿酸血症になることがあります。このような身体的問題点もさることながら、肥満になると運動が困難になり、クラブ活動や友だちとのあそびなどに支障をきたします。また、容姿を気にするなど、心理的に困難になる場合がありますので、むしろそのほうが大きな問題かもしれません。
 肥満の治療法で効果が科学的に厳密に証明されたものはまだないようですが、飲食物と運動が改善の中心であることは言うまでもありません。産業医科大学の朝山光太郎さんは肥満を防止するために親と子に、(1)毎食ひとり分を盛りつけて食べはじめる(2)1日3食、食卓で食べる(3)食品の大体のカロリーを目分量で知っておく(4)給食の牛乳以外はノンカロリー飲料を(5)パンに何もぬらず、サラダにも何もかけない(6)テレビゲームは自分の家(親の目の届く場所)でする(7)体重計測は週に1回朝に測ること、を約束させることや、運動不足や生活リズムの乱れを防ぐため、生活自己管理チェックリストをつけるなどを提唱しています。ご参考にしてください。Cooyon 2005.12

乳幼児突然死症候群、Sudden Infant Death Syndrome(以下、SIDS)とは、どのような病気なのでしょうか。

SIDSは、原因がわかっていません。
 大変怖い病気ではありますが、最近では年間200人強、5000人にひとりの割合ですので、めったに起こる病気でないことを前提にして、この先を読んでください。
 昨夜まで元気にしていたあかちゃんが朝には亡くなっていた、お昼寝の後にミルクをあげようとして、死亡していたことに気づいた、というように、何の前触れもなく眠っている間に死亡し、その原因がわからないのが「乳幼児突然死」です。ですから、正確な診断には、解剖でその子の死因が、窒息などの病変によるものでないことを確認しなければなりません。
 年齢は、世界的には1歳までです。日本では最近まで2歳未満としていましたので「乳児」ではなく「乳幼児」という名称になっているものと思われます。最も発病の多い年齢は、寝返りができない6ヶ月までのお子さんで、以後は急速に減ります。
 1980年代から、いわゆる先進国では、出生1週間以後の乳児死亡のトップが、この病気でした。SIDSを減らすことができれば、それは乳児の死亡率全体を大幅に減らすことができる画期的なできごとです。わが子や孫の死を悲しむ家族を大きく減らすこともできることを意味しています。Cooyon 2005.11

予防方法はあるのでしょうか?
 突然起こるということですが、不安です。予防する方法はありますか?

予防には、仰向け寝が基本です。
 さまざまな予防策が提案されていますが、明らかに効果が証明されているのが、うつ伏せや横向けにでなく、仰向けに寝かせることです。SIDSは眠っている間にしか起こりませんので、正確には仰向けで「眠らせる」ことです。なお、6ヶ月を過ぎて自由に寝返って、あかちゃん自身でうつ伏せになるような場合は、危険性は少ないと考えられています。
 1987年にオランダ医学会が乳児をうつ伏せに寝かせないよう勧告しました。SIDSの子どものほうが、SIDSでない子どもより、うつ伏せに寝かされていた子がずっと多いことがわかったからでした。続いて90年から91年にかけて、ノルウェー、オーストリア、ニュージーランド、イギリスなどで、「仰向けで寝かせよう」キャンペーンがはじまりました。88年当時、それらの国で30〜60%以上だったうつ伏せ寝の率が、キャンペーンで半分以下になりました。すばらしいことに、うつ伏せ寝の減少と並行してSIDSもどんどん減少しました。それを見たアメリカ小児科学会も92年にはキャンペーンを開始、92年のうつ伏せ寝率70%が2年後には43%に減少、SIDSも15〜20%減少しました。
 ところが、88年当時の日本では、女性週刊誌などで「うつ伏せ保育」が「プロポーションが抜群になる」などと宣伝されていましたので、世界に逆行して、うつ伏せ寝が増えたと思われます。その後も日本のほとんどの専門家たちは、うつ伏せ寝がだめだ、と言いませんでした。96年までに発表されたSIDSに関する多数の論文のうち、うつ伏せ寝の危険性を訴えたものはわずか5編で、内ふたつがわたしのものでした。
 うつ伏せ寝がだめだ、と明言しない理由を厚生省「乳幼児突然死研究班」の方々に電話や学会で訊ねても、わからないということでした。仕方がないので、92年より準備をはじめて、まず93〜94年にわたしの専門である乳児の運動発達と関連させ、うつ伏せ寝の危険性を学会で訴えました。それでも日本小児科学会や厚生省研究班が動かないので、96年に大阪小児科学会や保健所などの多大な協力を得て、うつ伏せ寝の実態調査をし、加えて日本のSIDSのデータを全て集め、うつ伏せ寝の危険性を盛り込んだ大阪小児科学会としての報告書を、97年4月に発表しました。  同年12月に厚生省は突然、それまでの「乳幼児突然死研究班」とは別の「乳幼児の死亡の防止に関する研究班」により、ごく簡単な調査をしました。その結果として、98年6月1日、うつ伏せ・たばこ・人工栄養がSIDSと関連する、とマスコミに発表しました。アメリカに遅れること6年でした。
 ここで強調しておきたいのは、わたしたちとは別に、「SIDS家族の会」などの皆さんがうつ伏せ寝の危険性を広く一般にキャンペーンされていましたので、厚生省の発表には、その力が大きな影響を与えたと思っています。Cooyon 2005.11

仰向け寝キャンペーンにより、SIDSは減ったのでしょうか?
 仰向け寝キャンペーンにより、日本でもSIDSは減ったのでしょうか? そのほかにSIDSを予防できる方法があるのでしょうか?

SIDSは明らかに減っています。
 日本では98年以後、うつ伏せ寝や喫煙率がどうなっているか正確な調査はありません。しかし、わたしの経験では、うつ伏せ寝はずいぶん減ったと感じています。また、SIDSは、98年以後、どんどん減少しています。出生10万人当たりのSIDSは95年44人(全国で526人)、96年40人、97年42人、98年30人、99年31人、2000年27人、01年25人、02年22人、03年21人(全国で244人)でした。
 厚生労働省は、仰向け寝のほかに、子どもの周辺での禁煙、母乳保育を推薦しています。
 確かに、母親など周囲の大人のたばこも関連するのですが、アメリカの調査では禁煙キャンペーンにもかかわらず、喫煙は減りませんでした。また、母乳保育とSIDSとの間には弱いながらも関連が認められるという報告もありますが、どの程度予防になるかどうかは証明されていませんので、母乳の出ない方も、あまり気にする必要はありません。
 そのほか、あかちゃんの寝る布団は薄く硬めのもので、鼻や口にまとわりつくものは置かないこと、親子同室なども意義があるかと思います。添い寝の良し悪しはわかりません。Cooyon 2005.11

人為的な原因も考えられる?
 人為的な原因、たとえば予防接種や薬が原因となる、と聞いたこともありますが、どうでしょうか?

人為的な原因と区別する必要があります。
 一時期、SIDSと予防接種中の水銀との関連が問題にされたことがありますが、その証明はされなかったと記憶しています。薬によるショック死などもSIDSと間違えられることはあるかもしれません。最近増加している虐待による死亡や、保育所や医療機関での事故による死亡との区別が難しいことがあります。かならず、解剖が必要です。
 実は、わたしがこの問題に取り組んだのは、あるとき友人から「いま病院の霊安室から連絡している。子どもが保育所で突然死した」という連絡を受けて、返すことばがなかったからです。保育所のミスによる事故も考えられましたが、聞いた範囲では明らかにSIDSでした。保育所を非難するのは、それが事実に基づいていなければ、よけいに傷つくのではないかと思いました。
 SIDSは元気なあかちゃんが亡くなるので、悲しみはひとしおかもしれません。重要なことは、わかっている予防法を徹底すること、もし不幸にして亡くなられた場合は、そのほかの事故や病気との区別をきちんとすることではないでしょうか。そのうえで、その子の死が意義あるように、我々が生きなければならないと思います。わたしの友人は、その後も、子どもたちのいまと未来のための「子ども全国交歓会」という、アジアの子どもたちとの交流も含めた、子どもと親の集いの世話役をしており、たまにはわたしも招かれることがあります。Cooyon 2005.11

揺さぶられっこ、乳児突然死症候群

乳児特有の話題としてマスコミでも取り上げられる「揺さぶられっこ症候群」や「乳児突然死症候群」。また、「うつぶせ寝」での死亡事故も後を絶ちませんが、それと突然死との関係は? 林敬次さんにうかがいました。

抱っこしてゆらゆら揺られるのが好きな0歳3ヶ月のわが子。義父母から「あまり揺らしてばかりいると『揺さぶられっこ症候群』になるのでは?」などと言われるのですが……。(クリックで回答をみる)

「揺さぶられっこ症候群」の原因は、抱っこしてゆらりゆらり揺られるのとは、まったく違います。
 アメリカ小児科学会の説明では、「まわりから見れば『あんなことをしたら子どもが危険だ』と、誰もが思うほどに激しく、乳幼児が揺さぶられたときに起こる頭部損傷です」となっています。ですから、平常心でいるときに大人がするような普通の行為では起こらないことです。まして、あかちゃんが気持ちよさそうにしているような揺らし方では、頭部損傷の起こりようがありませんので、ご安心ください。
「揺さぶられっこ症候群」は、あかちゃんが泣き止まないなどで、母親などが睡眠不足に陥ったり、精神が不安定になっているときに自制心を失い、思わずあかちゃんを激しく揺さぶってしまうときに生じます。
 先述のアメリカ小児科学会では、もし、イライラしたら、@誰かを呼ぶ、Aあかちゃんから離れるようにする、B10回深呼吸をする、C親しいひとに電話をする、などの対応策を提案しています。
 基本は、育児でのしんどさを母親にばかり任せないで、夫はもとより家族で和らげるのが大事だということです。
 あかちゃんへの対応で悩んでいるときに、横からいろいろ言われるのはよけいにストレスになります。おばあちゃん、おじいちゃんにお願いです。孫への気遣いも大切ですが、それ以上に、子育てに必死になっている両親、とくに母親の立場で考えてあげてください。曖昧な知識で口を出すことで、思わぬ悪影響を与えることもありますので、充分ご注意くださいね。

Cooyon 2012.10
生後7ヶ月の息子は、最近うつぶせで寝るのが好きで、仰向けに寝かせてもすぐにまたうつぶせに戻ってしまいます。うつぶせ寝で睡眠中に窒息死したあかちゃんのニュースなども聞くので心配です。(クリックで回答をみる)

 それまで元気だったあかちゃんが、眠った後で、親が気づいたときにはすでに亡くなっており、解剖をして原因を調べたが何も異常はなかった、というのが「乳児突然死症候群」で、窒息死とは別です。誰も死ぬ瞬間を見たことがない不思議な病気ですが、0歳の死因の第3位です。
 この病気の最大の誘因は、あかちゃんがうつぶせで寝る(正確には、眠る)ことです。世界的にはすでに1990年代に入ると仰向けに寝かせることでこの病気が激減することが確定しました。しかし、日本の「専門家」たちは知らん顔をしていました(このうちのひとりが、日本SIDS乳幼児突然死予防学会の理事長です)。わたしは、黙っていられず、1993年頃よりこの問題に取り組みはじめ、研究発表や大阪小児科学会で多くの「専門家」を呼んだシンポジウムを開催しました。
 その後、厚生労働省が態度を変え、やっと1997年にうつぶせ寝を止めるキャンペーンをはじめると、この病気の発生は年間約500人だったのが激減しました。このキャンペーンの遅れで日本で千人以上がよけいに亡くなったのではないかと思っています。
 ただ、ご質問のお子さんのように、仰向けに寝かせていてもすぐにうつぶせになることができ、寝返りを自由にしているお子さんの場合、うつぶせ寝を止めさせるのは困難ですが、それが死亡につながることはほぼないと思います。実際、寝返りができるようになる生後7〜8ヶ月以後では乳児突然死の発生は極めて少ないのです。

Cooyon 2012.10
「突然死」は防げないの?

 原因不明といわれる「乳児突然死症候群」を防げるかもしれない方法は、さまざまな調査結果から提案されています。
 もっとも効果的なのが、「うつぶせ寝」をしないことです。自由に寝返りができるようになるまでは、横向きでもなく、仰向けで寝かすことがもっとも安全です。
 厚生労働省は、母親の禁煙と母乳の推奨も併せてキャンペーンしています。いずれも大切なことですが、できない方々もいます。世界的に見ると、それらに加えて、この病気を予防する可能性がある方法が多く推奨されています。
 たとえば、イギリス政府は、日本よりきちんとしたデータをもとに、@アルコールや睡眠薬を飲んでの添い寝をしない、A生後6ヶ月までは同じ部屋で寝る、Bソファーで乳児と一緒に寝ない、C暖めすぎない、D顔に毛布などをかぶせない、ということを呼びかけています。
 アメリカ小児科学会は、さらに、「硬い敷布団にする」に加えて、「生後6ヶ月までは寝るときにおしゃぶりを使う」、「ワクチン接種をする」、などを推奨しています。いずれも、やってみる価値はありますが、おしゃぶりやワクチン接種には、異論もあります。

Cooyon 2012.10
よだれは、何歳で止まる?
  1歳半の子どもです。よだれがよく出ます。友人の同じ年齢の子どもは、よだれはあまり出ないそうです。  よだれが多く出ても、何歳ぐらいまでは、心配ないのでしょうか?

1歳台ならば、とくに心配はありません。
 あかちゃんのよだれはとくに心配ないというか、あたりまえですね。乳児で少々よだれが出てもだれも心配しません。生後3ヶ月ぐらいでよだれが目立ちはじめます。歯が生えてくる9〜12ヶ月頃にもよだれが多くなり、これは歯が生えてくるのが気持ち悪くてよだれが出るのではないか、などと言われています。この頃は「よだれかけ」はあたりまえのファッションです。
 それでは何歳になるとよだれが止まるのか、というと、よくわかりません。というのは、医学文献を調べてみましたが、2歳以後は、ほとんどの子どもがよだれを出さなくなる、と書いている識者もいれば、とくに病気がなくても3〜5歳では唾液の量が多くなるので、よだれが続いたり、少し多くなったりするとしているひともいます。あまり厳密な調査がないようです。ともかく、お子さんのように1歳台では、とくに心配ありません。
 唾液は、成人で1日1〜2リットルも出るそうです。普通はとくに自覚もなく飲み込んでいます。また、時間当たりの量は、昼に多くなり、夜には減少するそうです。
 おしっこのコントロールは、昼間は2歳で25%、3歳で98%ができるようになりますが、漏らす子も少数います。夜の「おねしょ」をする子は、5歳で15〜20%、15歳でも1〜2%います。よだれも、おしっこのコントロールのように、発達の一段階で、止まる時期は子どもにより大幅に違うものかと思います。
 小学生でもとくに病気でなくよだれが出る場合もあります。いまでは大学生のおかあさんである義理の妹は、中学になっても、テレビを見ているときや授業中にもタラーッとよだれが出ていることがあったそうです。よだれが話題になるとそのことを思い出し、思わず笑ってしまいます。しかし、妻の話では、本人は相当に悩んでいたとのことです。その妻も受験勉強をするとすぐ眠ってしまい、本やノートがよだれでべとべとだったとのことです。わたしの同僚も大学生のときでも、よだれが出てしまい、あわてたことがよくあったそうです。
 とはいえ、幼稚園に入ってもよだれが出っぱなしなら、口の機能などに病気がないかどうか、念のため一度耳鼻科を診察されたほうがよいと思います。Cooyon 2006.10

よだれが多く出る病気もある?
 1歳の子どもです。熱が出て急によだれが多くなりました。どんなことが考えられるのでしょうか?

口の中に傷ができれば、よだれも出ます。
 よだれの原因のひとつに、口の中の炎症があります。たとえば、口内の粘膜が直径1〜5ミリ程度に白く穴が開いたようになる「アフタ」ができると、よだれがたくさん出ます。
 乳幼児の間に単純ヘルペスというウイルスにはじめてかかると、数日間高い熱が出るとともに、口の入り口に近い粘膜にアフタができ、歯肉も赤く腫れ上がったり、歯肉にもアフタができたりします。確かにこのときは、よだれをたくさん出す子がいます。  同様に、水痘症でも皮膚の水疱以外にアフタができます。「夏風邪」とよばれているヘルパンギーナでは、のどの奥のほうにアフタができます。そのほかアデノウイルスや溶連菌による扁桃腺炎やのどが痛くなる風邪など、のどの炎症でもよだれが出ます。質問のお子さんは、溶連菌感染の可能性は年齢からみて否定的ですが(溶連菌は3歳くらいからかかりやすい病気なので)、これらのどれかと思います。
 また、魚の骨がのどに刺さるなどで、のどに傷ができることもよだれの原因になります。のどに傷ができると唾液を飲み込むのが痛いから、飲み込まずよだれとして口から出てくるのかもしれませんし、そのような傷があると唾液の分泌が盛んになって傷を守るのかもしれません。
 以上のような場合は、原因となっている、口の中の傷が治ると、よだれも自然になくなっていきます。Cooyon 2006.10

治療が必要になる場合が、あるのでしょうか。
 よだれの原因になる病気で、治療が必要なものはあるのでしょうか?

治療できるものと、そうでないものがあります。
 口内炎を起こすヘルペスやヘルパンギーナなどは、ウイルスの感染症で、特別な治療法はありません。水痘症は、抗ウイルス剤が多少効くとされていますが、口内炎が早く治るかどうかはわかっていないと思います。
 もちろん、口の中の傷で、魚の骨などは除去する必要があります。
 また、感染症でも溶連菌による扁桃腺炎は、抗生物質がある程度は効果がありますので、合成ペニシリンなど、もっとも効果があり、かつ副作用の少ない抗生物質で治療します。
 舌小帯といって、舌の下側の真ん中に、前後に薄い膜のようなものがあり、舌とその下の組織をつないでいますが、これが極端に短く頑丈で舌の動きを妨害している場合にも、よだれが出るといわれています。その場合は手術が必要ですが、極めて珍しいことです。
 舌小帯といいますと、最近はあまり聞きませんが、お乳の飲みが悪いなどの症状があると、すぐ「舌小帯が短いから切開が必要」として、遠方の病院に紹介して入院による手術をする医師もいました。これに対し、日本小児科学会は、手術が必要な舌小帯は極めて少ないと勧告しています。小児外科医によれば、ほとんどは、切開するとしてもごく簡単に少し切開するだけで充分だそうです。Cooyon 2006.10

よだれそのものを止める方法は?
 よだれそのものの治療法は、あるのでしょうか?

よだれによる湿疹は、治療の対象となります。
 わたしが担当している、知的発達〈障害〉の方がいます。この子がよだれをひっきりなしに出し、おかあさんはいつもタオルを持ち歩いて口をぬぐっています。
「けいれん」があるということで、いくつかの専門病院で検査や入院治療もしましたが治らず、何年か経って、わたしの外来に来られました。よく観察しますと、けいれんの前か後で大きな息をすることに気づきました。けいれんで酸素が欠乏するので大きく息をする、と思われていたのですが、わたしは息をしすぎて(過呼吸)、「けいれん」が起こるのではないかと考えました。
 世界中の文献を調べたところ、顔貌などからこのお子さんはある珍しい病気で、過呼吸はその特徴的な症状であることがわかりました。また頻発する過呼吸には、不思議なことにある種の血圧を下げる薬が有効であることもわかりました。
 この薬で過呼吸は激減し、「けいれん」もなくなりたいへん感謝してもらったという自慢話ですが、おかあさんから、「先生、ついでによだれも治してよ」と言われたことがあります。「よっしゃ」といって一生懸命調べたのですが、残念ながらよだれそのものの治療方法を見つけることができませんでした。
 知的〈障害〉のある方を家族にもつひとにとってよだれは、衣服などを濡らす、匂いが気になるなど、よだれそのものも問題になりますが、よだれによる湿疹なども問題になります。湿疹の治療には、第一に水でよく拭くことが大切であるのは言うまでもありません。それでも治らなければ皮膚を保護する軟膏やクリームを使います。もちろん、よだれには食べたものも混じっているので、湿疹は食物のアレルギーによるとも考えられます。ひどくなればステロイド軟膏を短期間使うことになります。あごは、からだのほかの部位より薬の吸収率が高いので、軽いものを短期間使うほうが無難です。Cooyon 2006.10

急におしっこが近くなりました。
子どもは4歳の男の子です。急におしっこが近くなったので、心配になり、近所の医院で受診しました。
 医院では、「おしっこに白血球が少し混じっているので、抗生物質を出します」と言われ、1週間飲ませていますが、よくなりません。おしっこが近いだけで、元気に走りまわっています。夜、眠っている間はおもらしもしませんし、起きておしっこに行くわけでもありません。

膀胱炎、または神経性頻尿の疑いが。
 急におしっこが近くなる病気で多いのは、尿の中に細菌が入って起こる、膀胱炎です。近所のお医者さんは当然、尿を調べます。
 尿に白血球が混じっていた、ということですが、白血球は細菌をやっつけるときに増えるものです。それが尿と一緒に排泄されたということは、細菌性の膀胱炎である可能性が高くなります。そこで医院では、尿の中の細菌をさらにやっつけるため、抗生物質を出したわけです。しかし、結果は症状が改善していないとのこと。薬が効かないのには、いくつかの原因が考えられます。
(1)細菌性の膀胱炎だが、飲んでいる抗生物質が、その細菌には効かない。
この場合は、尿の細菌を調べ、その細菌に効果のある抗生物質に代える必要があります。
(2)ウイルス性の膀胱炎である。
この場合、抗生物質は効きません。ウイルス性の膀胱炎では、尿の中に白血球より、赤血球のほうが多く含まれていることが多く、ほぼ1週間以内に自然治癒します。そのほか、子どもでは少ないのですが、化学物質でも膀胱炎は起こります。たとえば、リザベンという抗アレルギー薬が膀胱炎を起こすことをわたしは学会で発表したことがあります。
(3)膀胱炎ではなく、精神的な原因で起こる神経性頻尿(※心因性頻尿という場合もあります)である。
この場合には尿の中に白血球は混ざりません。
 しかし、ご質問のお子さんの場合は、白血球が「少し」出ていたということです。尿を採るときに、尿が出てくる尿道口のまわりについていた白血球が、混じってしまう場合があるのです。後に述べますが、これは男の子より女の子のほうが、よく起こります。また、正常な尿にも白血球はほんの少し、混ざっているものです。
 もう少しほかの病気も考えながら、経過をみる必要があると思いますが、元気で、眠っているときは尿意を訴えていない、ということから、膀胱炎ではなく、神経性頻尿である可能性が高いと思われます。Cooyon 2005.05

神経性頻尿の治療法は?
 神経性頻尿とは、子どもによく起こるものなのでしょうか。精神的なことだとしたら、病院に行かなくても大丈夫ですか?

まず、精神的原因を考えること。
 神経性頻尿は、急におしっこが近くなって、ひどい場合は10分間隔ぐらいでトイレに行きます。膀胱炎とは違い、おしっこをするときに痛みを感じません。ただし、子どもは痛くなくても、「痛いの?」と聞くと「うん」と言う場合もあります。また、おしっこが近いのは目が覚めているときだけで、夜や昼間でも、眠ると、尿意がなくなります。
 4〜7歳の子どもに多く、わたしが座右の書にしているアメリカの教科書には、男の子のほうが多いと書いてありますが、アメリカとフランスからの具体的な報告では、男女ほぼ同等の確率とあり、わたしの経験と一致します。
 精神的ストレスで、腹痛やチックになることがありますが、神経性頻尿も、それと同じような原因だろうと考えられます。アメリカからの報告では、神経性頻尿の子ども13人のうち5人が、家族の死亡などを契機に、死に対する恐怖を感じており、それが原因だとしています。ほかには、家やベッド、学校の先生が替わったこと、学校の再開、両親の離婚などが原因と推定でき、不明は3人だったとしています。一方、フランスからの報告では48人中19人しか、原因らしきものがわからなかったとしています。わたしの経験でも、この病気の原因は、家庭の事情や学校行事などによる精神的ストレスが関係していると思われ、原因が推定できたのは診察した子どもの半数ほどでした。
 治療としては、予測できる原因を除去することです。解決できないことであれば、子どもとそのことについてよく話し、安心させてあげましょう。原因がわからない場合は、子どもをじっと抱きしめたり、やさしく接してあげてください。そうすると、ほとんどは1〜2ヶ月で治るようです。  薬の効果は証明されていません。ただし青年や大人の場合で長く症状が続くときは、精神安定剤や膀胱を安定させる薬などを使います。わたしは、中学からはじまって高校を卒業するまで治らない子を、薬で治療していたことがあります。
 以上が神経性頻尿ですが、この診断をつけるためには、膀胱炎などのほかの病気でないことを確かめなければなりません。まずは医療機関で受診して、診断を受ける必要があります。Cooyon 2005.05

子どもの膀胱炎は、大人と一緒?
 子どもの膀胱炎は、大人と同じでしょうか。女の子と男の子では、違うのでしょうか?

症状が違う場合があります。
 3歳以上の大きい子どもは大人と同様、尿が出るときに痛みがあるのが特徴です。しかし、とくに2歳以下の子どもは、症状は発熱だけで、膀胱に入った細菌がすぐに腎臓のほうに行き、それが血液に移行して大変重症の病気になることがあります。早く見つけて抗生物質で治療すれば、腎臓の障害も少なくなります。風邪と違い、細菌による尿路感染症は抗生物質の威力が発揮できる病気。比較的よくある病気なので、原因がはっきりしない熱の場合は尿を調べることが重要です。
 また、子どもは腎臓から尿道までの機能が未熟で、膀胱から腎臓に尿が戻りやすく、形態に異常があることも。一度尿路感染症になったら、ほかに大きな問題がないかどうかを調べる必要があります。幸い、いまは超音波で腎臓から膀胱までほとんど苦痛なくかなりの精度で調べられます。より正確に、レントゲンで調べることもあります。
 それでは、尿路感染症であるかどうかの診断はどのようにするのでしょうか。最終的な決め手は尿の中の細菌の数ですが、尿の中の白血球の数でもかなりの確かさで診断できます。大人の場合は尿道の出口をきれいに拭いておき、最初に出てくる尿でなく、途中の尿(中間尿)を採ることで確かな診断ができます。しかし、ちいさな子どもの場合はそういうわけにいかないので、正確な尿の検査ができず、正常なのに尿路感染症と間違われることもあります。尿道口周辺は、尿が付き、蒸れて皮膚が荒れやすく、白血球があることも多いのです。とくに女の子はからだの構造上、尿が皮膚に付きやすく、尿道の周辺から白血球や細菌が尿に入り込みやすいので注意がいります。
 友人のひとり娘が近所の病院で尿路感染症と診断され、長く抗生物質を飲んでもいっこうに治らない、と受診に来ました。尿道のまわりを充分に洗浄して尿を採取したところ、全くの正常な尿でした。学生時代よくあそんだ友人なので、わたしを医者としてあまり信用していなかったようですが、それ以後はよく相談されるようになりました。
 男の子のほうが尿は採りやすいと思いますが、出はじめでなく中間尿が採れれば、より正確に診断できます。できれば、それで検査してください。それでも診断がはっきりしない場合は、膀胱に注射針を刺して尿を採る方法を用います。Cooyon 2005.05

痛くもかゆくもない、白い「いぼ」。いったいこれ何?
3歳の子どもですが、去年の秋頃から、直径2〜3ミリ程度の真珠のような白色の固い、いぼができました。最初は脇の下に数個でしたが、次第にそのいぼに接する腕の皮膚にも広がり、いまでは15個ほどになっています。別に痛くもかゆくもないようですが、これは何でしょうか?

それはおそらく、「水いぼ」です。
 たぶん、そのいぼの表面はつるっ、としていると思います。長く消えないいぼで、色も白色ですので、ほぼ間違いなく「水いぼ」だと思います。  水いぼは、直径2〜5ミリ程度のものが多いのですが、昔、直径10ミリほどの大きなものができている患者さんを何人も見たことがあります。最近はそんなに大きなものは見なくなりました。
 世界的にみると、暖かい国で、水いぼにかかる子どもが多いようです。1歳以下ではほとんど見られません。思春期や大人では発病は大変少ないですが、あるようです。とくに、性的な感染が重要な問題になっているようです。
 水いぼをつくる原因は、水いぼウイルス(Poxvirus科molluscipoxvirus)で、腫瘍をつくる典型的なウイルスとしても知られています。
 もうひとつ、ウイルスが腫瘍をつくる有名なものに、主に首のリンパがどんどん大きくなる、アフリカに多いバーキットリンパ腫という悪性の腫瘍があります。水いぼは、これとは逆に極めて良性の腫瘍です。
   水いぼを潰すとその中に白い実のようなつぶが見られます。このいぼを軟属腫と言います。ウイルスの伝染による病気ですから、水いぼの正式な呼び名は「伝染性軟属腫」、つまり感染する軟らかい腫瘍、という名になっています。Cooyon 2005.07

水いぼは治療が必要でしょうか?
 保育園に通う4歳の子どもですが、プールに入るために、「水いぼを治療してください」と言われました。
 水いぼは良性の腫瘍ということですが、治療しなければいけないのでしょうか?

通常、水いぼの治療は、必要ないと思われます。
 確かに水いぼは、プールなどで皮膚と皮膚とをくっつけると移るので、そんな機会の多い子どもに多く発病します。
 感染してから発病するまでに、2週間から6ヶ月ぐらいかかるとされています。とても幅がありますね。
 発病すると徐々に大きくなりますが、一つひとつのいぼは、2ヶ月ほどで徐々に消えて行きます。ときには6〜12週で直径5〜10ミリになることもあります。病気自体は、6〜9ヶ月間でいつの間にかなくなっているのが普通です。
 まれに3〜4年続く場合もあるようですが、ウイルス感染ですから、体内にウイルスをやっつける抗体ができて、ウイルスを体内から排除し、いぼ自体がなくなっていきます。
 この病気は放っておいてもいずれは自然に治っていくので、何も治療しなくてもよいと思います。また、病気自体は本当に軽いもので苦痛もほとんどないのですから、移ってもどうということはないし、一度治れば二度とかからないので、一度かかっておいてもよい病気です。
 そう考えると保育園や幼稚園で水いぼにかかるのを予防する意義はとくにないように思います。
 学校における伝染病の予防を目的とする学校保健法でも、水いぼは通常、登園を制限する病気ではありません。また、プールを制限する必要性もないとされています。インフルエンザのように、出席停止が「決められている」病気ではありませんので、保育園側も、治療を強制できるわけではありません。
 ただ、ほかの親の意向や、以前からの間違った知識による思い込みにより、とくにプールに入るのを問題にする施設もあるかも知れません。先に述べた学校保健法の施行規則などがどうなっているのかを園側に聞いてみるのも、ひとつの方法です。
 水いぼには、いくつかの合併症があります。いちばん多いのは、いぼをひっかいて、出血することです。そこから細菌が入って膿が出ることもありますが、これは極めてまれなようです。普通に清潔にしていれば、問題はありません。
 もうひとつ、水いぼのまわりに、アトピー性皮膚炎のような湿疹ができることがあります。これは、水いぼが治るとなくなりますが、水いぼを治さなくても、湿疹に軽いステロイド軟膏などを塗れば治ります。逆にアトピー性皮膚炎の子どもに水いぼが移るとひどくなるような気もしますが、わたし自身はあまりひどくなった例を見たことがありませんし、教科書的にもほとんど記載がありません。Cooyon 2005.07

治療方法は?
 水いぼを治したいのですが、大変痛いと聞きました。どんな治療法があるのでしょうか?

自然治癒が望ましいのですが……。
 水いぼを治療する理由には次のようなことが考えられます。1、美容上好ましくない。2、社会的にいやがられる。3、移さないようにしたい。4、かゆみや出血などの症状を抑えたい。5、痕が残ったり、二次的な細菌感染を起こしたくない――などです。この中で、1から3は社会的な問題ですから難しい点もありますが、前述の学校保健法からも基本的には無視できることです。4は大したことがないようですが、もともとアトピー性皮膚炎があるお子さんは、いぼの周囲に湿疹ができてかゆくなるので、湿疹の治療は必要です。5は大変少ないようですが、赤く腫れてきたり触って痛ければ、皮膚科か小児科を受診する必要があります。
 治療法はいろいろあります。まず、ピンセットでいぼをつぶして、中から白いつぶを取り出す方法があります。これは、いぼが大きいとあまり痛くないようですが、いぼがちいさいと皮膚をつねるようなものなので、相当痛いようです。一種の拷問のような感じもあり、わたしはできるだけしたくありません。そのほかに、硝酸銀でいぼを焼く方法や、液体窒素でいぼを凍結する方法があります。これらの方法を発表されている方は、この治療方法は痛みも少なく、成功率も高いとしています。残念なことにわたしはやったことがないので、実際はよくわかりません。
 治療中、子どもは動かないように押さえつけられるので、多大な恐怖を味わいます。前述したように、この病気自体は自然に治っていき、苦痛もほとんどないので、基本的には治療は必要ありません。ですから、わたしはやはり、あまりやる気にならないのです。
 とは言っても、ご質問の方のように「プールに入るには水いぼを治してからでないとだめ」と言われる場合もあるでしょうし、めったにないでしょうが、子どものお友だちの親が移されるのをいやがるする場合もあるかもしれません。いままでは、わたしはどうしてもとってほしいと言われる方だけピンセットでとっていました。しかし、今回の文章を書くために、多少の教科書や論文を勉強したところ、皮膚の表面の硬いケラチン層を溶かすいぼ用の塗り薬を使っていぼの表面を溶かして、中の白いつぶを取り出す方法が痛くないのでよく使っている、というフィラデルフィアの皮膚科医の論文を読みました。治療法についてもう少し勉強しようと思ったところです。Cooyon 2005.07

日光浴は必要ですか?
 日光浴をしたほうがいい、と言うひとと、しないほうがいい、と言うひとがいます。日光浴には、どんな効果があるのでしょうか?
   日光浴をするとしたら、どのようにすればよいのでしょうか?

適度に日光に当たることは、必要です。
 日に当たらないためになる代表的な病気に、ビタミンD欠乏症があります。もうずいぶん昔のことですが、大阪市内の保健所で冬に3ヶ月検診をしていますと、頭の骨が軟らかく一部がぺこぺこへっこむ子がいました。頭蓋骨軟化症という病気で、ビタミンD不足による、くる病の軽いものです。母親が日に当たらず、食事にもビタミンDが少ないうえに、その母乳を飲んでいる子どもも日に当たらないためでした。当時は、暗い屋根裏で貧しい生活をされている方も多かったので、保健師さんがよく日光浴を指導していました。
 日光浴は最初は足から日光を当てはじめて、徐々に手や胴体に当てるように、と指導しています。また、ビタミンDは日光中の波長296-310ナノメートルの紫外線によって合成されますが、この紫外線は普通のガラスを通りません。しかし日本の多くの地域では、ある程度日当たりがよい開放できる窓があり、普通に外出するような環境なら、日光不足になるようなことは少ないと思われます。最近は母子手帳からも日光浴の指導は消えているようです。
 もちろん、日光浴には、皮膚を鍛えたり、病気を治したりする力もあります。たとえば、アトピー性皮膚炎に紫外線を当てると治療効果があることが科学的に証明されています。イギリスの研究では、子どもたちがバカンスに行った先によってアトピー性皮膚炎の改善度が違い、イギリスに留まったグループがいちばん悪く、フランスの保養地がその次で、いちばんよかったのは地中海だった、それは日光の強さに関係している、という論文を読んだことがあります。
 アトピー性皮膚炎には、日光浴より紫外線治療を受けるほうがよいと思いますが、実施している医療機関は少ないようです。日光浴をするのなら、決して水膨れや発赤ができない程度に、軽く当てることが大事なようです。また、汗をかいたら湯や水でよく洗い流して、保湿剤を塗るといいでしょう。Cooyon 2005.08

日焼け予防方法を教えてください。
 子どものときに日に焼けすぎると、皮膚ガンになったり、シミが残ったりするのでしょうか?

日本人は、日焼けに強い、と言います。
日焼けに関して、いまほど話題になっていることは、かつてなかったように感じます。冬でも日焼け予防の化粧品を塗っている娘に、「夏でもないのにそんなもの要らないだろう」と言いますと、「何を言っているの、おとうさん。日焼けするとシミが残るし、皮膚ガンになりやすいの知らないの?」などと返ってきます。この頃は、スポーツをするにも日焼け止めの重装備をするようですね。
 わたしたちが子どもの時代は、日々、真っ黒になってあそんでいましたし、中学や高校でも、農業などの実習、あるいは野球などのクラブ活動で真っ黒になっていたものでした。大学のときに好きだったひとの顔は真っ黒だと思い込んでいたのですが、そのひとがテニスをやめて何年かすると、シミもない真っ白な顔になったのに驚いたこともあります。
 皮膚ガンが増えているかどうかの厳密な調査は日本ではほとんどないようです。黒色腫という皮膚ガンに関して、大阪府のガン統計を活用した研究がされています。これによりますと、1964年から71年の8年間と比較して、88年から95年の8年間では、男性が1・07倍、女性では1・66倍に増えています。これだけ見ると大変なこと、と思われますが、黒色腫は日本人ではとても少なく、1年間で百万人当たり、男性が2・47人から2・67人に、女性では1・4人から2・33人に増えただけです。また、増えているのは四肢と、日光が当たらない胴体です。逆に、日光がよく当たる顔も含めた頭と首では、男性で半分に、女性で7割に減っています。ですから、この統計から原因を日焼けに求めるのは無理があります。そのほかの皮膚ガンに関しては、実態を把握することは困難なので増えているかどうかはわからない、とガンの統計で有名な大島明先生から私信で教えていただきました。
 たしかに、欧米や、とりわけ紫外線のきついところに白人が住んでいるオーストラリアなどでは皮膚ガンと紫外線の関係は相当明らかであり、紫外線・日焼けから身を守る方策が意味をもつかもしれません。しかし、メラニン色素が多く、日焼けに対して強くできている日本人では、どれだけの意味があるかはわかりません。子どもに日焼け止めクリームを勧めている論文でも、具体的なデータの提示は全くなく、推察でしかありません。Cooyon 2005.08

日焼け止めクリーム、どんなものを選んだらいい?
   日焼け予防は、具体的にどうすればよいのでしょうか? 日焼け止めクリームは必要ですか? 塗るとしたら、どのようなクリームが安全でしょうか?

日焼け止めは、選んで使いましょう。
 日焼け予防には、(1)帽子をかぶる、(2)長袖の上着を着る、(3)日焼け止めクリームを塗る、の3つが挙げられます。(1)(2)については、あまり説明する必要もありませんが、わたしの母が真夏に野良仕事をするときには、顔を覆う白い頭巾のようなものに加え、麦わら帽子をかぶり、暑い日でも作業服で手の平以外は覆っていたことを思い出します。それでも母の顔は真っ黒でした。女手ひとつで育ててくれている母なのに、学生時代は母の黒い顔を恥ずかしく思ったことがありました。強い日差しから逃れられない職業に就いておられる方やクラブ活動などのときには、日焼けで真っ赤に腫れあがったり水疱ができたりしないよう、それなりの工夫は必要かと思います。それには衣服や帽子、物理的に日光を遮る傘を使ったり、日陰を利用したりすることが、まず第一です。
 日本人にとって、日光を遮ることが本当に皮膚ガンを少なくする効果があるかどうかはわかりません。日焼け止めクリームが皮膚ガンを少なくするかどうかは、よりいっそうわかっていません。逆に、日焼け止めクリームで多くの皮膚障害が報告されています。化粧品による皮膚炎の調査(93〜96年Hinoらによる)では、原因として日焼け止めクリームが目立ったと報告しています。また、化粧品による皮膚炎の患者、313名のうち、日焼け止めクリームの主成分であるサンスクリーン剤に反応したのが22名であったと報告(Abeらによる)しています。
 このような皮膚障害を起こすのは、サンスクリーン剤の中でも化学反応で紫外線を吸収する薬品が多いとされています。このほかに、物理的に光を散乱させる物質をサンスクリーン剤として使っている日焼け止めクリームもあります。後者は少々色がつくようですが、皮膚障害が少ないようです。「紫外線吸収剤」を使っていないことを明示しているものがありますので、子どもには必ずこちらを使い、大人もこちらがより安全かと思います。Cooyon 2005.08

水疱ができていますが、水ぼうそうでしょうか?
 顔、胸、背中と頭にも、水疱のような発疹ができています。近所では水ぼうそうがはやっているそうです。
 とくに熱はないようですが、水ぼうそうでしょうか?

ほぼ間違いなく、水ぼうそうです。
 水ぼうそうは、急に発疹ができて、頭の皮膚にもできることが、ひとつの特徴です。
 さらに特徴的なのは、最初は直径1ミリから数ミリの、赤く、少し盛り上がった発疹ができて、次にその発疹の真ん中に水分がたまります。最初の水分は透明感がありますが、徐々ににごってきます。しばらくするとそれが、黒い固まりになります。このような発疹の段階が一度に混在している症状は、水ぼうそうだけです。
 口内炎ができることも多いです。熱が出るとしたら発疹といっしょに出ます。40度近い高熱が2〜3日続くこともありますが、ほんの微熱しか出ないこと、全く熱が出ないこともあります。いずれにしても、健康なお子さんの場合、重篤化することは極めてまれです。
 もうずいぶん前になりますが、娘を保育所に送っていくとき、背中に数個の水疱ができていました。水ぼうそうだ、とは思ったのですが、そもそも水ぼうそうは子どものうちにかかっておくほうがよい、と思っていましたので、黙って連れて行きました。そうすると、ベテランの保育士さんは「どーれ」と言いながら服をめくって、「おとうさん、これは水ぼうそうですよ。休まないといけません」と教えて(?)くれました。いまでもそのときの様子が目に浮かんできます。Cooyon 2006.09

症状がひどくならないためにはどうする?
 水ぼうそうの特効薬があると聞きますが、治療はどのようにするのでしょうか?
   また、水ぼうそうはひどくなると危険、とも聞きます。感染した場合、症状が重くならないためには、どうすればいいのでしょうか?

免疫力が低下しているときは、要注意。
 特効薬とは、〈アシクロビル〉という薬のことと思います。水ぼうそうは帯状ヘルペスウイルスによるものですので、それに効く薬です。日本では、インフルエンザに対する〈タミフル〉と同様に、健康な子に大量に使われていますが、世界的にはそうでもないようです。その理由は、水ぼうそう自体が大変軽い病気で、かつ健康な子の場合には、アシクロビルが水ぼうそうの重篤な合併症を減らすことが証明されていないからです。
 ただし、熱や水疱を約1日早く治し、水疱の数を減らすことは証明されています。
 しかし、まれにですが、重篤な薬の副作用が起こることも否定できません。もうひとつ問題なのは、発疹が出現して24時間以内に薬を飲みはじめなければ、効果は充分ではないことです。48時間以内でも効果はあるようですが、24時間以内と比較すると効果は劣ります。ところが、日本で薬に添付される添付文書には「発疹出現後3日以内に投与を開始」となっており、その根拠はわかりません。わたしは、基本的には勧めていませんが、みなさんはどうお考えでしょうか?
 他方で、水ぼうそうは健康な子どもにとっては軽い病気ですが、免疫力の低下した子どもにとってはとても怖く、致命的なこともありますので、入院のうえ、アシクロビルの点滴注射が必要です。また、慢性の病気をもっている子どもや、アトピー性皮膚炎など水疱がひどくなりやすい子どもには、状況に応じて内服薬や注射を使うべきです。大人がかかった場合も、症状が激しいので使うべきでしょう。
 水ぼうそうは結構痒いようです。痒みには抗ヒスタミン剤の飲み薬が世界的にも使われています。日本ではフェノール亜鉛化リニメントという白い塗り薬がよく使われます。やさしく塗ってあげると、痒みもなくなるようです。
 熱が出ても、消炎鎮痛剤は絶対使わないでください。脳症になる可能性があります。また、アセトアミノフェンという消炎作用のない鎮痛解熱剤は安全ですが、それでも1日3回も使い続けると、病気そのものの治りが1日遅れるというデータもあります。アシクロビルを使ってもせいぜい1日早く治るくらいだということを思い出してください。Cooyon 2006.09

ひとに感染する期間は、どのくらいですか?
 共働きで、保育園を休ませるのは大変ですが、どれだけ休まなければいけないのですか。また、予防方法はあるのですか。

症状が出る前から、ひとに移ります。
 感染の多くはハナ水などからの空気感染です。一部、水疱への接触で移ることもあるようです。ひとへ移してしまう期間は、発疹が出る5日前(発疹が出る1〜2日前が移す確率が強い)から、水疱が出て約5日間(全ての水疱が黒く変わるまで)です。休む期間は水疱が出てから5日間ということになります。しかし、発疹が出る5日も前から移りますので、発疹が出てから休んでも、すでに遅く、どんどん感染していきます。移されると、2〜3週間で症状が出ます。
 予防は、感染しているひとに近寄らないことですが、子どもでは水ぼうそうの症状は軽く、一生に一度しかかかりませんから、子どものうちにかかっておいたほうがよいのです。大人になってかかると、肺炎になるなど、重症化しやすくなります。とくに、妊婦がかかると、妊娠初期では胎児に異常が出ることがあり、また、出産の5日前から、出産後2日間に症状が出たときは、子どもの20%が重症の水ぼうそうになり、その死亡率は30%、と大変危険です。水ぼうそうは感染すると、症状が出ないことは少ないものです。水ぼうそうになった覚えのない女性は妊娠前に検査をして、必要ならワクチンをしたほうがいいかと思います。
 さて、そのワクチンですが、大変効果があり安全性も高いようです。子どもだと、1回の注射で10年後でも94・4%のひとに抗体ができており、2回すると98%だったというデータもあります。また、抗体が少なくなっていても症状を軽くできるそうです。しかし、水ぼうそうは症状が軽くほとんど重症化しないことから、ワクチンを子ども全員にしている国は少なく、日本も採用していません。もちろん、免疫の弱っている子や、重症のアトピー性皮膚炎などの子どもと、水ぼうそうにかかったことのない大人は接種したほうがよいでしょう。
 予防とは言えませんが、移ってから症状を和らげる方法もあります。水ぼうそうにかかっていない大人が水ぼうそうの患者と接触した場合、72時間以内にワクチンを打ちます。免疫が弱っている場合は、できるだけ72時間以内に、水ぼうそうの原因である帯状ヘルペスに対する抗体がたくさん含まれている血液製剤を打ちます。Cooyon 2006.09

水ぼうそうになると、ヘルペスにもなる?
 水ぼうそうになると、ヘルペスにもなる、と聞きました。ヘルペスと水ぼうそうはどのような関係なのでしょうか。

ウイルスが神経に潜んでいて、なることも。
  ヘルペスウイルスには帯状ヘルペスウイルスと単純ヘルペスウイルスがあります。水ぼうそうは、帯状ヘルペスウイルスによるものです。〈帯状ヘルペス〉は、顔や肋間などの知覚神経にそって水疱ができ、大変痛む病気です。子どもでは、まれです。
 帯状ヘルペスウイルスは、水ぼうそう(ときには〈帯状ヘルペス〉)になったときに神経に侵入し、治っても神経に住み込んでじっと潜んでいます。多くのひとは何の症状も出ないのですが、何らかの原因で免疫機能が弱ると、帯状ヘルペスウイルスが神経から出てきて水疱や痛みを起こします。そして、その水疱は治っても強い痛みが残ることがあります。
 治療は、点滴注射でアシクロビルなどの抗ヘルペス薬を使います。Cooyon 2006.09

赤いじんましんもあるの?
 3歳の子どもですが、急に顔やおなかに少しふくれたような赤いぽつぽつができて、しばらくすると場所が変わります。おばあちゃんはじんましんだと言うのですが、お友だちは、こんな赤いじんましんは見たことがない、と言います。何でしょうか?

ときには、赤みを帯びることも。
 じんましんかと思います。じんましんの多くは、少しふくれた感じで、色はつかないことが多いのですが、ときには赤みを帯びていることもあります。
 じんましんは、何らかの原因で、皮膚の浅い場所の細い血管の壁が障害を受け、血液の液体成分だけがもれて、皮膚にたまるので皮膚がふくれるのです。また、血液の液体成分は薄い黄色ですから多くのじんましんは肌の色です。
 しかし、何らかの刺激で皮下の血管が拡張して、血液が普段よりたくさん流れますと、少し赤っぽくなります。ちょうど、おでこを何かにぶつけると、ふくれると同時に多少赤くなるのと同じです。ですから、赤いからじんましんでない、とは言えません。
 じんましんの最大の特徴は、一つひとつのじんましんを見ていきますと、何時間かの間になくなってしまい、別の場所に別のじんましんが出現することです。あちらに出ては消え、今度はこちらに出て、また消えては別の場所に出ながら、たいていは数日以内に消えてしまいます。しかし、長いものでは何年も続くことがあります。急に出現することも特徴です。また、かゆいのがじんましんの特徴です。かゆいのでひっかいて皮膚が傷だらけになることもよく見ます。
 全体的には赤く、中心部分が白っぽくなるものもあり、「環状じんましん」と呼ぶことがあります。この場合は、多形性紅斑という病気の軽いものとの区別が難しいのですが、多形性紅斑は一つひとつの紅斑が簡単には消えず、数日間は続きます。 Cooyon 2006.11

じんましん、医師に診せるのはどんなとき?
 幼稚園の子どもですが、夜中にじんましんが出て、あまりかゆがるので救急病院を受診しました。急いで医師に診せなければならないのは、どんなときでしょうか?

症状が皮膚だけなら自然に治ります。
 症状でいちばん困るのがかゆみです。質問のお子さんのように「かゆいよー」と泣いて寝てくれない場合もあります。こんなときは、受診せざるを得ませんね。しかし、皮膚だけの症状なら治療しないと危険だということはありません。多くは1〜2日でおさまります。冷やしてみたり、服の上から撫でるなどで子どもが眠れば、受診をする必要はありません。
    しかし、じんましんとともに息が「ひゅーひゅー」と鳴ったり、息が苦しくなる場合は、喉の奥の粘膜が腫れ、空気の通るところが狭くなっていて大変危険な状態ですので、救急車を呼ぶべきです。喘息のお子さんでは、強い喘息発作が起こることがあります。発作らしき症状が出ましたら、早めに発作用の吸入をしたり、受診してください。
 また、じんましんがぽつぽつと出るのではなく、全身の皮膚全体が腫れたようになると、血圧が急激に下がるショックになる可能性が高まり危険です。急にぐったりする場合もショックを考え、救急車を呼ぶ必要があります。Cooyon 2006.11

じんましんは、風邪の症状?
 4歳のわが子は、最近、3回もじんましんが出ました。食事を調べたのですが、3回とも共通のものは見つからず、医者には「風邪のせいかもしれません」と言われました。じんましんの原因は食べものと思っていましたが、風邪でも起こるのですか。

ウイルスや細菌の感染でも起こります。
 じんましんの大部分は原因がわからないまま治ってしまいます。原因だろうと推定されるもののうち、子どもで多いのが風邪などウイルス感染やマイコプラズマや溶連菌などの細菌感染です。もちろん食べものが原因の場合もあります。何回も起こすようでしたら、そのときに食べたものをカレンダーにでも書いておきますと、共通する食物がわかることがあります。食事そのものだけでなく、ほとんどの加工食品に大量に入っている添加物にも注意が必要です。加工食品の場合はその商品の成分表などを保管しておくのがよいでしょう。
 薬を飲んでいれば薬を疑う必要があります。どうしても続けなければいけない薬でなければ、一度中止して、主治医と相談してください。
 そのほか、物理的な刺激で生じるじんましんがあります。皮膚が冷たい空気などにふれると出る「寒冷じんましん」のほか、日に当たる、からだに圧力がかかる、などでも出ることがあります。Cooyon 2006.11

じんましんに点滴は効果的?
 子どもがじんましんをよく出しますが、受診しますと点滴をしてくれ、飲み薬と塗り薬をくれます。よく治るのですが、子どもは点滴をいやがります。とくにひどいじんましんと思わないのですが、点滴までしないといけないのでしょうか?

ショックの前触れやひどい症状では効果的。
 通常のじんましん治療は「抗ヒスタミン剤」を使います。これは、アレルギー性鼻炎などに広範に使われていますし、乗りもの酔いにも効く薬です。また、なぜか風邪にはまるきり効果がないのに、多くの風邪薬に配合されています。
 たいていのじんましんには抗ヒスタミン剤の内服がよく効きます。一度じんましんが出たら、薬局や医師から保管しやすい粉薬や錠剤を買っておいて、冷蔵庫に入れて保管しておいてください(ちなみに、ほとんどの薬は暗くて冷たく、乾燥している冷蔵庫に入れておくとよいのです。ただし、食品と間違わないように注意してください)。もちろん、ほとんどは何も治療をしなくても自然に治ってしまう病気ですから、かゆみなどがとくに苦痛でなければ、薬は使わなくてもよいのかもしれません。
 ご質問の方は、軽いじんましんで受診したところ、注射や点滴をしてもらったという話です。確かに前述しましたようにショックの前触れの症状や、かゆみがひどく直ちに治したい場合は、エピネフィリンという注射剤を使いますと即効性があります。抗ヒスタミン剤の注射をすることもあるようですが、この薬は飲み薬でも充分効果があると思いますので、わたしは一度も注射したことはありません。
 また、抗ヒスタミン剤が入った塗り薬を使っている方もいますが、一つひとつのじんましんは数時間以内に消えてゆき、ほかの場所に新しいじんましんが出るのですから、原理的にあまり効果がなさそうです。さらに、抗ヒスタミン剤は皮膚からの吸収が大変悪いようです。急性じんましんに効いたことを証明した厳密な研究はありません。ただし、塗ってあげることによりお子さんの気が紛れてかゆみがとれる「偽薬効果」はあると思われます。なにしろ「かゆみ」は、そのときの心理状況によって感じ方が大変違いますから。
 じんましんがなかなか治らない場合には、じんましんの原因を調べることが必要です。原因になっている食物などをアレルゲン検査などで調べてわかれば除去します。中耳炎、膀胱炎や溶連菌などの細菌感染があれば抗生物質で治療します。
 それでも慢性的(6週間以上)に続く場合は、基礎に慢性的な病気、たとえば膠原病などの一部の症状としてじんましんが出ているのではないか、甲状腺が悪くないかなど、考える必要があります。Cooyon 2006.11

子どもでも花粉症になるのでしょうか。花粉症になる原因は、何でしょうか。

最近では幼児期から花粉症になることが問題に。
 花粉症は、花粉によるアレルギー性鼻炎・アレルギー性結膜炎のことです。スギ花粉症が有名ですね。関西では毎年スギ花粉が飛ぶ2月の中旬になると、目がかゆい、くしゃみ・鼻水が出るなどの症状で憂鬱になるという大人が増えてきます。いままで花粉症は学童以降、主に成人で発症すると考えられてきました。しかし、最近では幼児期から花粉症になることが問題になっています。
 花粉症は花粉に対するIgE抗体ができるために発症すると考えられています。それは花粉に反応するアンテナのようなものですが、たとえばスギ花粉に対するIgE抗体があると、スギ花粉とIgE抗体が反応した結果、目や鼻の粘膜にあるマスト細胞からヒスタミンなどの化学物質が遊離され、眼がかゆい、くしゃみ・鼻水・鼻づまりなどの症状が引き起こされます。
 ではなぜIgE抗体ができるのでしょうか? スギ花粉に対するIgE抗体は、スギ花粉の飛散量が多いこととIgE抗体をつくりやすい体質(遺伝)のためと考えられてきましたが、それだけでなく、大気汚染などの環境の影響でもできやすくなっていると考えられています。残留農薬、大気汚染などの複合汚染の結果、わたしたちの体質が変えられていっているということです。 Cooyon 2008.03

花粉症は、子どもと大人では、症状は同じ? 乳幼児期の花粉症は大人と同じ症状なのでしょうか?

子どもの症状は、しつこい咳、鼻血などをともなう場合も。
 乳幼児の花粉症は、大人のようなくしゃみ・鼻水・鼻づまりの症状を示す場合もありますが、咳がいつまでも続く、鼻血が出やすい、いつも鼻水を流している、乳児では、鼻づまりのため口で息をして寝苦しそうだ、などの症状も目立ちます。また、花粉症(アレルギー性鼻炎)には、副鼻腔炎(蓄膿)や気管支炎を合併しやすいことも指摘されています。また、年長児では頭痛をよく訴えるのでストレスのためかと思っていたら、実は副鼻腔炎だったということもありますので、注意が必要です。副鼻腔炎は4〜5歳児であればレントゲンで簡単に診断がつくことも多く、治療にもよく反応して、咳や頭痛が治ったということもよく経験します。こうした症状があれば一度検査して花粉のアレルギーや副鼻腔炎のチェックもしておくといいですね。Cooyon 2008.03

花粉症の予防策は? 花粉症にならないために、予防策はありますか?

日頃から汚染の少ない食品や環境を。
 スギなどの花粉に対するIgE抗体は、先ほど述べたように生まれつきの体質だけでなく、環境、とくに大気汚染、食品の添加剤、農薬の摂取によってできやすくなると考えられているので、日頃から汚染の少ない食品を選んで食べる、道路ぎわではあそばない、など日常生活の注意が必要です。
 また花粉症は突然発症するのではなく、食物アレルギーからダニアレルギー、そして花粉アレルギーという順序でアレルギーが進行することが多いものです。食物アレルギーの症状、たとえばアトピー性皮膚炎やじんま疹が出たり、また、ダニアレルギーの症状、たとえば気管支喘息になれば、それぞれの原因を明らかにして対策をきちんとしておくことが過敏な状態から体質を改善するきっかけにもなります。ダニ対策では、床・布団・ぬいぐるみをよく掃除することが重要です。Cooyon 2008.03

花粉症のケア方法を教えてください。 花粉症になったら、どのようにケアすればいいでしょうか?

薬を利用しつつ、 自律神経が乱れないからだづくりを。
 食物アレルギーなら原因食物を食べなければ症状は出ませんが、スギ花粉などの花粉は空気中を飛んでいるので原因花粉との接触を避けるのは非常に困難です。したがって、花粉症になってしまったら、医師の診断によって、花粉の飛ぶ時期に合わせてアレルギー反応を抑える抗アレルギー剤やアレルギー反応の結果出てくるヒスタミンやロイコトリエンの作用を抑える薬を上手に組み合わせて飲んだり、目や鼻にさしたりして症状が出ないようにコントロールすることが必要です。原因花粉に慣らして症状が出ない体質に変えるという減感作療法が以前より行われていますが、いまのところ毎週の注射を長期間続けなければならないので乳幼児には不向きです。また鼻粘膜に対するレーザー療法も乳幼児では一般には行われません。しかし、アレルギー反応は一般に自律神経を鍛えると軽くなることが知られていますので、自律神経が乱れないように規則正しい生活をしたり、風呂あがりに水をかぶる(するなら夏からですよ!)などの鍛錬が効果があると考えられています。皮膚炎がなければ乾布摩擦もいいでしょう。また、漢方薬では昔から小青竜湯などがアレルギー性鼻炎や喘息に有効であることが知られています。
 付け加えると花粉を飲んで慣らすという舌下免疫療法が注目されていますが、今後に期待したいという段階です。

花粉症の原因
花粉症の原因は、花粉に対するIgE抗体ができるため。

花粉症の予防
・汚染の少ない食品を選んで食べる。
・道路ぎわであそばない(排気ガスや車に巻き上げられたちりなどを吸い込まないようにする)。
・花粉症以外のアレルギーがあれば、対策をきちんとする。

症状を抑えるために
・自律神経が乱れないよう、規則正しい生活をする。
・風呂あがりに水をかぶる(夏から)、または、乾布摩擦をするなどして、からだを鍛える。Cooyon 2008.03

夏風邪って、何のこと?
   夏風邪、とよく言いますが、冬にひく風邪と、どう違うのでしょうか。

夏の風邪には、独特の症状があります。
   インターネットでは、夏の季節にかかる風邪のような症状の病気、などと書かれていますね。夏の風邪にはいろいろありますが、6〜8月ごろをピークにはやる、手足口病、プール熱、ヘルパンギーナが特徴的な夏風邪と言えます。手足口病とプール熱はわかりやすいニックネームがつけられているので、わかりにくいヘルパンギーナを夏風邪と考えておられる方もいるようです。
 ヘルパンギーナの特徴は、のどをアーンと大きくあけると、奥の上の中央にぶら下がっている口蓋垂の両側に、周囲が赤く真ん中が白く抜けた直径数ミリメートルの斑点があることです。時期により水疱や赤い斑点の場合もあります。
 そのほか、嘔吐や腹痛、40度ほどの高熱をともなうこともあります。この病気はコクサッキーウイルスAの感染で流行します。コクサーキーウイルスBやエコーウイルスでもほぼ同様の症状を起こしますが散発的です。
 これらのウイルスに効く薬はなく、3〜6日で自然に治ります。のどが痛くて水分もいやがる場合は、脱水用の飲みものが刺激が少なくよいと思います。熱は下げないほうがよく、あまり不機嫌なときだけ、鎮痛解熱剤のアセトアミノフェンだけを使ってみてください。熱は下げなければならないと思っておられる方がいますが、それは間違いです。また、ウイルスですから抗生物質は効きません。Cooyon 2007.08

手足口病は、幼稚園を休ませるべき?
   手足口病になったら幼稚園を休ませる、と聞きましたが、本当でしょうか。

特別の場合を除き、休む必要はありません。
直径1〜3ミリメートル程度の水疱ができて、口にもヘルパンギーナと似た斑点ができます。手や足の側面や、おしりなどにも水疱ができることがあります。手だけ、足だけの場合もあります。
 口だけ見ていますと、ヘルパンギーナと区別がつかない場合がありますので、手や足にも水疱ができていないかどうか確かめる必要があります。「おかあさん、ヘルパンギーナだと思いますよ」と言った後で、「手にぷつぷつがあるんですが」と言われて、「あ、これは手足口病でした」などと、恥ずかしかったこともあります。どちらにしても、治療は変わりません。
 ほとんどのお子さんは熱もなく元気ですが、保育園や幼稚園では休むように言われるようです。ヘルパンギーナとともに、手足口病は「学校伝染病」には分類されておらず、第3種学校伝染病としての扱いをすることがあり得る病気程度の扱いです。手足口病は、特別に免疫の低下した子どもさんがいる場合などを除き、休む必要性はないと思います。
 手足口病は、コクサッキーウイルスやエンテロウイルスなどの感染で起こり、効く薬はありません。1週間もあれば症状はなくなります。Cooyon 2007.08

プールに入っていないのに、プール熱?
 プール熱は、プールに入らなくても移るのでしょうか。

プール以外でも移ります。
 プール熱は、夏にプールを介して移ることが多いので、プール熱と名前がつけられていますが、プール以外でも移ります。  いま、大変なニュースになっている麻疹と同様に、プール熱は第2種の伝染病「放置すれば学校で流行が広がってしまう可能性がある飛沫感染する感染症」と分類され「主要症状が消退した後2日を経過するまで」、出席を停止させることになっています。プールだけで移るのなら、プールだけ止めればよいことになりますものね。
 白目が真っ赤に充血していることが特徴です。目やにも出て、かなりの苦痛があると思われます。苦痛を緩和する方法はあまりありませんが、アセトアミノフェンが多少効くかもしれません。のども痛く、赤くなり、39度以上の発熱が4〜5日続くことがあります。そこで病名は「咽頭結膜熱」となっていますが、目の充血だけの場合もあります。頚のリンパ節が大きくなることも多いです。
 原因はアデノウイルスの3型によることが多いですが、他の型のこともあります。診断はのどや目の粘膜を綿棒でこすって、アデノウイルスを直接検査する、10分ほどの「迅速検査」でわかります。
 アデノウイルスに効く薬はありません。なおこのウイルスでは、白血球やCRPなどの炎症反応が強く出ることがありますが、迅速検査が陽性で症状も合っていれば抗生物質の適応にはならず、自然に治癒します。

●ポイント

夏風邪の種類

  ○ヘルパンギーナ
【特徴】口蓋垂の両側に斑点ができる。斑点は周囲が赤く真ん中が白く抜けたもの、時期により水疱や赤い斑点の場合も。嘔吐や腹痛、高熱を伴うこともある。
【手当て】3〜6日で治る。脱水に注意し、熱は下げない。抗生物質は効かない。

○手足口病
【特徴】手の平、足の裏に直径1〜3ミリメートル程度の水疱ができ、口にもヘルパンギーナと似た斑点ができる。
【手当て】1週間もあれば、よくなる。抗生物質は効かない。

○プール熱
【特徴】目が真っ赤に充血する。目やに、のどの痛みがある。39度以上の発熱が4〜5日続くことも。
【手当て】自然治癒。抗生物質は効かない。

○学校において予防すべき
伝染病(編集部まとめ)
【第一種】エボラ出血熱、クリミア・コンゴ出血熱、ペストなど。出席停止期間の基準は治癒するまで。
【第二種】インフルエンザ、百日咳、麻疹、流行性耳下腺炎、風疹など(結核を除く)、飛沫感染するもので、児童生徒などの罹患が多く、学校において流行を広げる可能性が高い伝染病。出席停止期間の基準は、各病気により定められている。ただし、病状により学校医その他の医師において伝染のおそれがないと認められたときは、医師の判断による。
【第三種】学校教育活動を通じ、学校において流行を広げる可能性がある伝染病。出席停止期間の基準は、病状により学校医その他の医師において伝染のおそれがないと認められるまで。Cooyon 2007.08

子どもの平熱がわかりません。
 子どもの平熱は、どのくらいが正常なのでしょうか? 年齢によって変わってくるのでしょうか。

子どもの平熱は大人より高いものです。
 子どもの平熱はだいたい36・5度〜37・5度程度と考えればよいと思います。ただし、これはわきの下で測ったときの温度です。
 直腸で測るのがより正確ですが、わきの下より0・5度程度高く出ます。舌下で測る婦人体温計では、直腸とわきの下で測った場合の、中間的な温度が出ます。
 平熱は年齢によって多少違います。大人は低いことが多く、わきの下で35・3度〜37・1度としている教科書もあります。多くのひとがこの範囲に入るというだけで、健康なひとでもこの範囲をはずれることがあります。
 1歳以後に、一日の生活リズムができはじめると、体温は早朝の3時頃がいちばん低く、夕方にいちばん高くなります。朝夕の差は、大人では約0・7度、子どもは1度以上違うこともあります。この傾向は、発熱しているときでも同じことが多く、朝は熱が下がっていたので幼稚園に行かせたが、午後には熱で帰された、という話はよく聞きます。
 ともかく、子どもでもわきの下で37・5度以上は熱を疑い、38度を超えれば、ほぼ熱がある、と考えています。
 反対に、直腸で測って35度以下を低体温と言い、危険な状態です。いま問題になっているインフルエンザの薬、タミフルは脳神経に作用して低体温を起こします。これは動物実験でも確かめられていて、とくに、ちいさい子どもは危険です。Cooyon 2007.05

熱は早く下げたほうがいいの?
 うちの1歳の子は、熱をよく出します。熱が出たときは、早く下げたほうが、からだに負担がなく、いいのでしょうか。

熱は自然に下がるのを待つのがいちばん。
 お子さんが高熱を出すと、心配ですね。娘たちの熱で何となく不安になった昔を思い出します。
 ところで熱はたいへん大事な働きをしています。まず、人間に病気をもたらすウイルスや細菌のほとんどがよく育つ温度は、38度以下です。発熱することで、病原微生物が発育する環境を悪化させて、身を守っているのです。また、発熱とともに、さまざまな防御機構が活発化します。
 動物実験では、薬やからだを冷やして熱を下げると死亡率が上がることや、病気の治りが悪くなることが証明されています。極端な例では、山羊にトリパノソーマという病原菌を感染させて、その後解熱剤で熱を下げたところ、100%が死亡したのに、熱を下げないと6%しか死亡しなかったという実験結果があります。
 また、人間の病気でも、肺炎になった子どものほうが解熱剤を多く使っていたとか、水ぼうそうでは解熱剤で熱を下げると治りが一日遅れた、というデータなどもあります。逆に、熱を下げたほうがよかった、というデータは見つかりません。
 ですから、熱への対処法はできるだけ下げないことです。でも、熱がよいからといっても無理に暖めすぎると、たくさん汗が出て脱水になるなどよくないので、冷やしたり暖めたりするのは、本人が気持ちよい程度、言い換えれば自然にするのがいちばんです。Cooyon 2007.05

熱性けいれんが、怖いんです!
 熱性けいれんの話を聞くと、怖くなります。どんなときになってしまうのでしょうか? 予防法はありますか?

理解すれば、怖がることは、ありません。
 子どもは、6ヶ月頃〜5歳頃に、38度以上の熱とともにけいれんを起こすことがありますが、髄膜炎や脳炎など、特別な病気がない場合を「熱性けいれん」と言います。
 急に熱が出て、突然手足をぴくぴくさせ、目は上転したり、顔は真っ青になりますから、ご家族にとって熱性けいれんは本当に怖いようです。しかし、そんなにおびえる必要はありません。熱性けいれんでそのまま亡くなったり、〈障害〉を起こすことはありません。静かに寝かせておくのがいちばんです。
 のどがごろごろするなら少しからだを横にすると、ごろごろする症状が少なくなるかもしれません。口に指やものを入れたり、からだを激しく揺すったりしてはいけません。5分もすればほとんどが止まります。止まらない場合は、救急車を呼べばいいでしょう。ともかく、よけいなことをしないのがいいです。
 実は予防法はないのですが、多くの教科書には、熱が出たときに急いでけいれん止めの座薬を使うように書いてあります。しかし、けいれん止めの座薬で効いたという証拠はありません。ふらついたり長い間意識がもうろうとすることがありますので、使わないほうがいいでしょう。また、解熱剤で熱を下げてもけいれんの予防にはなりません。

●ポイント
一日の体温の高低差
1歳以降
・早朝の3時頃がいちばん低く、夕方にいちばん高くなる。朝夕の体温の差は1度以上違うことも。
大人
・朝夕の差は0・7度程度

子どもの平熱の平均
36・5〜37・5度(脇の下で測った場合)
大人の平熱の平均
35・3〜37・1度(脇の下で測った場合)

けいれんで救急車を呼ぶべきとき
・熱がない。
・年齢が6ヶ月未満か5歳以上。
・けいれんがからだの片側や、手足や顔など、部分的。
・けいれんが10分以上続く。
・一日に2回以上起こす。
※以上の場合は、熱性けいれんでない可能性が高いので、すぐに救急車を呼びましょう。

熱性けいれんの対処法
・よけいなことはしない。
・5分待って止まらなければ救急車を。
Cooyon 2007.05

咳の原因は?
 なかなか止まらない咳。そもそも、咳はなぜ出るのでしょうか? また、どんな働きがあるのでしょうか。

咳はからだを守るための反応です。
 まず、咳は鼻水などと同様、からだを守る重要な働きをしていることに注目してください。咳が出ないと、たいへんなことになります。
 わたしの病院は呼吸リハビリもがんばってやっています。呼吸リハビリのひとつに去痰(痰を出すこと)があり、この手技の中心になるのが、咳をうまくしてもらうことです。咳を出すことができれば、肺炎などの治りがまるきり違ってくるのです。
 咳がからだを守る大事な反応だとしても、咳が出っぱなしではたまりません。咳は、あくまで通常のクリーン機構(異物を排除しようとするからだの自然な働き)がうまく働かない場合に臨時に出現する、鼻・喉・気管や肺をきれいにするための予備的な機構だと言えます。
 他方では、咳が出るということは、通常のクリーン機構が崩れている証拠でもあります。咳があるからこそ、肺炎や喘息など重大な病気の存在を知ることができるのです。
 咳の大多数は、感染やアレルギーなどで気道に炎症が起こり、通常の気道の清潔を保つクリーン機構が働きにくくなったときに出て、病気が治れば出なくなります。少ない例ですが、粘膜の細胞の表面に生えている〈繊毛〉というごくちいさな毛の動きが、先天的にうまく働かない病気があります。鼻水のとき([クーヨン]3月号参照)に述べましたが、〈繊毛〉は空気中のごみや微生物を捕らえて、きれいな空気だけを体内へ送り込む働きをしています。そのクリーン機構が弱い場合、咳がこの働きを補助・代用します。
 そのほかに、気道以外の原因でも咳が出ます。その代表が「咳チック」です。目をぱちぱちしたり、首を振ったりする動作の代わりに、咳を出します。こういう精神的なものは、眠っている間には起こらないことが特徴です。
 咳の原因としてもっとも多いのは、ご存じの風邪です。鼻や喉が炎症を起こして通常のクリーン機構が一時的に破綻して咳が出ます。その風邪がこじれて副鼻腔炎になることが多々あります。そうすると、膿のような鼻水がのどの奥に垂れていきます。大人だとエヘンと痰をきることができるのですが、子どもはそれができないので咳で代用します。風邪の後、比較的長く続く咳の多くはこの状態で、咳は痰がからんだ「ゴホンゴホン」という感じになります。
 喉のもっと奥の、声を出す声門の周辺の炎症や痙攣で、声がかれると共に息がしにくくなる「仮性クループ」という病気があります。これは「ケンケン」というような、かれた咳をします。
 気道のもっと奥の原因には、ウイルス性や喘息などによる気管支炎があります。痰が絡んだり、「ゼイゼイ・ヒューヒュー」という音と共に咳をします。気管支より奥は肺胞で、そこに膿が溜まると肺炎です。肺炎を起こした菌の種類や状態でいろいろな咳が出ますが、マイコプラズマ肺炎では乾いた感じの咳が強いのが特徴です。咳を起こす病気や咳の種類は、まだまだいろいろありますが、ここではこれぐらいにしておきます。Cooyon 2005.10

子どもの喉がゼイゼイします。
 6ヶ月の子どもです。風邪でもないのに、喉でゼイゼイという息の漏れるような音が聞こえます。元気なので病院には行っていませんが、これは何なのでしょうか?

長く続くようなら、一度受診を。
 残念ながら診察しないと、原因はわかりません。しかし、あかちゃんでこのような症状が出てくる病気として、もっとも多いものは風邪などです。さらさらとした鼻水がとろっとしたものになったり、痰がミルクとまじって鼻や喉の奥にたまってゼイゼイとかゴロゴロするのです。それでしたら、とくに病気というほどでありませんから、様子を見るだけでよいと思います。
 もうひとつは、いわゆる喘息性気管支炎、または乳児の喘息が考えられます。この場合は、吸う息より吐く息のほうで、ゼイゼイとかヒューヒューという音がよく聞こえることがあります。こちらの場合は、喘息発作の薬を吸入したり、薬を飲めば改善します。最近では、喘息のゼイゼイに対し、乳児でも簡単なマスクを使って薬を吸入できるようになりましたので、飲み薬よりこちらのほうが効果的です。そのほかにもこのような症状が出る病気もあるので、長く続くなら元気でも一度受診されたほうがよいでしょう。Cooyon 2005.10

自宅でどこまで様子をみる?
 子どもが咳をしているとき、どこまで様子を見ればいいか判断しかねるときがあります。病院へ急いだほうがよい基準はありますか?

苦しそう、と感じたら受診を。
 熱と違って咳は、その原因により、治療したほうがよい場合と、何もしないでよい場合とがあります。たとえば風邪と喘息では治療法がまったく違うのと同じことです。
 まず咳そのもので判断する場合、咳のために嘔吐したり、夜眠れないような場合は受診すべきでしょう。とくにちいさなあかちゃんでは、咳をして顔色が変わったり、息苦しそうにするようなときは、百日咳や細気管支炎などの危険な病気もありますので、すぐに受診してください。大きなお子さんでも、「コンコンコン」と連続して咳き込み、その後「ヒー」と深く吸い込むような場合は百日咳の可能性大です。咳でかわいそう、と思うときは受診すべきでしょう。咳自体はたいしたことがなくても、元気がないとか、数日以上熱が続くとか、ほかに症状が重なるようなら受診すべきです。肺炎や喘息など、きちんと治療する必要のある病気である可能性が高まります。Cooyon 2005.10

咳止めの薬は安全でしょうか?
 咳止めの薬は、副作用はあるのでしょうか? できれば薬なしで咳を止めたいと思っています。咳を抑えるよい方法はありますか?

薬の効果はよく証明されていません。
 前述したように、咳を引き起こす病気にはさまざまなものがあり、その病気を治すための薬が選択されます。たとえば、細菌性の肺炎なら抗生物質を使います。それで、肺炎が治れば結果的に咳もおさまります。
 ここでは、病気自体を治すのではなく、咳を抑える薬について考えてみます。咳止めの強力な薬として、昔からあるのが〈燐酸コデイン〉です。これは麻薬の一種で、わたしの経験では、多くの咳は軽くなるように思いました。しかし、この薬の咳止め効果を厳密に調べたふたつの実験では、効果がなかったという結果になっています。この実験以上に大量に使えば効くかもしれませんが、逆に咳を止めることで気管支炎に進展するかもしれませんし、便秘などの副作用が出てきますので、普通の咳にはおすすめできません。
 そのほか、わたしもよく使う咳止めの商品名〈メジコン〉は、厳密な試験ではふたつが効いた、ひとつが効かなかったとしています。そのほかの咳止めは科学的な臨床試験がないようです。いわゆる「痰きり」という部類の薬は咳をラクにしたという結果でした。〈粘液溶解剤〉は痰を柔らかくすることで咳を軽減するようです。〈抗ヒスタミン〉は効果なしでした。以上は大人での試験です。子どもの実験では〈粘液溶解剤〉のみが効果を示しました。
 結論的に言うと、咳止めというようなもっともよく使われている薬でさえ、科学的に効果が証明されていないのです。したがってわたしは、軽い咳には咳止め薬は使わず、ある程度しんどそうなら〈粘液溶解剤〉を使い、ひどいときは〈メジコン〉を使うのがよいかと思っています。〈メジコン〉の副作用は悪心約1%、めまい0・37%です。これは〈燐酸コデイン〉と同様に、中枢神経を抑制して咳刺激を鈍くする薬ですから、間違って大量に飲むと呼吸が止まることがあります。
 前述したように、咳自体は病気の進展を防ぎ、治す重要な機能でもありますので、咳止めは原因となっている病気を考えながら使うことが必要です。Cooyon 2005.10

幼児の風邪、甘くみないほうがいい?
 風邪は万病のもと。風邪から、肺炎や扁桃腺炎や気管支炎、副鼻腔炎などを併発するとも聞きます。
   たかが風邪、と病院に行かないことが多いのですが、甘くみないほうがいいのでしょうか。病院に行くべき症状の基準はありますか?

ぐったりしていたら要注意です。
 風邪は、簡単に言えば、鼻水、咳や熱などの症状があって、肺炎、気管支炎、喘息、アレルギー性鼻炎などがない状態を言います。風邪の初期には熱だけ出て、しばらくしてから鼻水や咳が出てくる場合もありますので、熱だけの場合でも「風邪」ということにしてしまうことも多々あります。ですから、鼻水、咳や熱などの症状だけで風邪か肺炎など別の病気かどうかを見分けるのは困難な場合があります。しかし、肺炎であっても、その日のうちに受診しなければならないことは、そんなにありません。
 そこで、どんな状態だと早く受診しなければならないかを考えてみます。まず、苦しそうにしていたり、ぐったりしているときです。咳や熱がなくても、このような状態のときはすぐに受診すべきです。たとえば、あかちゃんの場合、「咳だけかな」と思っていると、急に呼吸が苦しくなる細気管支炎というものがあります。この場合でも、やはりぐったりし、お乳も飲めなくなるなどの「元気のなさ」が重要な判断の基準になります。
 次に、3ヶ月ぐらいまでのあかちゃんで38度以上の熱がある場合は、細菌による肺炎や髄膜炎の率が3ヶ月以上の子どもと比べるとたいへん高いので、少々元気でも早く受診したほうがよいでしょう。また、熱が4日以上も続く場合は、肺炎やほかの病気の可能性が高くなりますので、一度受診することは必要でしょう。その場合でも、ぐったりしていれば早く受診するべきです。ある程度元気であれば、そんなに重症ではありません。
 幼稚園以上になりますと、肺炎の原因としてマイコプラズマという細菌の割合が増えます。比較的軽症で多くは自然に治りますが、マクロライド系という抗生物質などが症状を短期間に抑えます。
 気管支炎は、ウイルスで起こる場合がほとんどですので、呼吸が苦しそうでなければそんなに焦る必要はありません。しかし、ウイルス感染に引き続く喘息の発作が起こることがあるので、その場合は喘息の治療が必要になります。
 扁桃腺炎の一部は溶血性連鎖球菌という細菌で起こることがあります。この場合はペニシリンなどの抗生物質で症状を短期間に抑えられますが、多少治療が遅れたからといってとくに問題はありません。そのほかの扁桃腺炎はほとんどウイルス性のもので、薬はありません。抗生物質は溶連菌かどうか調べてもらってから飲むほうが無難です。
 副鼻腔炎というのは、いわゆる「蓄膿」です。風邪の合併症としてたいへん多いものです。たいていは自然に治り、治療はいりません。ただ、重症となり、目の下の皮膚が赤くなるとか、目が痛いとか、ひどい頭痛などを伴う場合は充分な治療が必要です。また、何となく元気がない、頭が痛い、と言って幼稚園や学校に行けない子どものなかには、副鼻腔炎が相当含まれていると思われますので、小児科や耳鼻科に相談してください。ただ、長期にわたって抗生物質を出したり、1ヶ月以上、週に何回も通院させるような場合は、本当に必要かどうか確かめてください。多くは不必要です。Cooyon 2005.09

風邪と思ったら中耳炎。中耳炎の予防方法はあるの?
 5歳の子どもですが、熱が出たので風邪だと思い、病院に行くと「中耳炎」との診断でした。痛がらなかったので、まさか中耳炎とは思いませんでした。中耳炎は慢性化すると大人になるまでひきずる、と聞いたことも。予防方法はあるのでしょうか。

中耳炎の予防法はありません。
 「風邪」と思っていたことは、あながち間違いではありません。中耳炎は風邪に合併することが多いからです。1歳頃のあかちゃんが風邪をひくと、何割かが中耳炎になっていた、というデータがあります。
 わたしは風邪と思っても必ず耳を見ますが、中耳炎をよく発見します。文献名は忘れましたが、痛い、と訴えるのは中耳炎の3割程度、という調査報告を読んだこともあります。耳の痛みを訴えなければ多くの親や医師は中耳炎を疑いませんから、7割程度の中耳炎は診断されずに、そのほとんどが自然に治っているとも考えられます。急性の中耳炎の痛みは抗生物質で早くしずめることができます。わたしは、ちいさい子で痛みがはっきりしないときでも、鼓膜が真っ赤になっていれば抗生物質を使うことにしています。抗生物質は、発病後、3日ほど待ってから使っても効果がある、とイギリスのガイドラインでは科学的根拠をもって勧告していますので、急いで受診する必要はないかと思います。痛がるときは、鎮痛解熱剤のアセトアミノフェンを飲ませてください(この薬はおおよその量を間違えなければ極めて安全ですし、長期に室温でも保存できますので、常備薬に置いておくと便利です)。
 中耳炎の慢性化とは、鼓膜の内側に膿や水分が溜まった、滲出性中耳炎という状態になっていることです。先のガイドラインでは耳がよく聞こえていて、発達の遅れがない子どもの場合は何もせずに観察するとしています。音が聞こえにくそうだ、など、気になることがあれば、耳鼻咽喉科を受診すべきです。短期的には、副腎皮質ホルモン(ステロイド)を使ったり、鼓膜にチューブを通す方法が効果がありますが、滲出性中耳炎に長期的に効果がある確実な治療法はないようです。ごくわずかでしょうが、難聴になられる方もおられるようですので、わたしは、一応治っているかどうかの観察はすることにしています。
 最後になりましたが、中耳炎を予防する方法はありません。なお、インフルエンザワクチンはインフルエンザそのものにも効きませんし、もちろん中耳炎の予防にも効きません。Cooyon 2005.09

風邪のときの吐き気には、気をつけたほうがいい?
 3歳の子どもですが、風邪をひき、吐き気があります。
 とても苦しそうでかわいそうなのですが、病院に行くまでの対処方法はありますか? ほかの病気の疑いもあるのでしょうか?

吐き気には、弱った腸を守る働きがあります。
 吐き気を催す風邪はどのくらいの率かはわかりませんが、よく「風邪をひいて吐き気がする」という話を聞きます。しかし、吐き気が主体の病気は風邪とは言えません。むしろロタウイルス、ノロウイルスやサルモネラなどの腸炎を考えるべきです。
 確かに吐き気は苦しそうですが、残念ながら吐き気や嘔吐をなくす薬はありません。日本で一般の腸炎や風邪に使える吐き気止め薬は、厳密に効果を証明していません。そもそも吐き気には食べたり飲んだりすることを止め、弱った腸を守る働きがあると考えられますので、それを薬で抑えて無理矢理食べさせるのはかえって病気を治りにくくすると思います。そのため、欧米の腸炎治療のガイドラインには、吐き気や嘔吐を止めるための項目が見られません。
 吐き気や嘔吐で苦しそうなら、病院に行くほうがよいでしょう。病院に行くまでは背中をなでるとか、精神的な援助をすることが対処法です。
 お考えの通り、風邪以外の病気、たとえばちいさい子なら腸重積などという恐い病気の可能性もあります。しかし、吐いた後ケロッとしているようならもう少し様子を見てもよいと思います。Cooyon 2005.09

中耳炎で、頻繁に病院に通う必要があるの?
 3歳の男の子です。中耳炎をくり返すので、半年近く週に2回から3回、耳鼻科に通っています。上の子のお迎えなどでとても忙しくなって困っています。こんなに通わないといけないのでしょうか?

治療が必要かどうかご検討を
。  中耳炎は「急性の中耳炎」と、急性の中耳炎から移行したり、アレルギーなどであまり炎症の強くない「滲出性中耳炎」とに大別されます。お子さんは急性中耳炎をくり返されているのか、滲出性中耳炎になっておられるのかわかりませんが、ここでは急性中耳炎としてお話を進めます。
 急性中耳炎になる子どもは、みなさんが予想されている以上に多いのです。1年間にどれだけの子どもが中耳炎になるかを調べた研究では、年間17〜32%の子どもが一度は中耳炎になるようです。とくに、1〜2歳がもっともよくかかる年齢です。
 どんなときに中耳炎になるかと言いますと、咳や鼻水が出ているとき、発熱しているときによくなります。わたしは、小児科の医師になって数年後、いまから20年ほど前から、咳・鼻水・熱など中耳炎と関係のありそうな症状で受診されたすべての患者さんの耳を見ています。大阪小児科学会で「アメリカでは耳も見られないのなら小児科医でない」という発言を聞いて以来、それまでの診療を反省して、中耳炎を勉強したからです。もちろん、耳鼻科医のように、さまざまな器具を使って診断したり、鼓膜をメスで切開するなどの処置ができるわけではありません。耳垢があればそれを取って外耳道や鼓膜の状態を見るだけですが、これまでの多くの研究によれば、これでもある程度正確に中耳炎であることを診断できるのです。その結果、本当に多くのお子さんが中耳炎になっていることがわかりました。
 それと同時に、極めて多くのお子さんが、必要でもない「治療」を受けていることもわかりました。その典型例が、いまは少なくなっているかと思われますが、耳鼻科に通って、吸入を受けたり、耳を「消毒」(?)したりすることでした。これらのいわばおまじない的な「治療」が多くの親に受け入れられ、逆にわたしのように、必要と思う子にだけ抗生物質を出し、多くのお子さんは1〜2週に一度「経過を見る」だけでは、大部分の方がすぐに来院されなくなり、放っておいたり、耳鼻科に行ったりしていることに気づきました。診療をするにもそれなりの儀式がいるのだと考えるようにもなりました。
 ご質問の方には、通っておられる耳鼻科の医師に、とりあえず事情を伝えてみてはどうでしょうか。それでも変わらないなら、週何回も通う必要性と、それを裏付ける研究結果を示すように頼み、もしも示された場合は、それをわたしに教えていただきたいと思います。Cooyon 2006.12

痛みのない中耳炎もあるのでしょうか?
 1歳の女の子ですが、熱を出して小児科で見てもらったら中耳炎だと言われました。少し不機嫌なだけで耳が痛いとは思いませんでした。痛みのない中耳炎もあるのでしょうか?

親が子どもの痛みに気づかない場合も。
 急性中耳炎と痛みに関しては、世界中で5つのそれなりに厳密な調査がなされていますが、耳の痛みを訴えた子どもは21%、という報告から、83%だった、という報告までいろいろです。わたしの経験では、かなりのおかあさん方が「そう言われればぐずぐず言っていました」と言い、子どもの痛みにまるきり気づいていなかった方がずっと多いのです。
 また、4分の3のお子さんが38度以上の熱がないという報告もありますが、そのほか随伴する症状としては、「不機嫌」が40〜50%、「咳」が50〜80%、「鼻水」が24〜96%、「嘔吐」が11〜26%などという、かなりばらばらなデータが出ています。
 急性中耳炎の治療の主な目的は、痛みを抑えることにあります。そこで、まず痛み止めを考えます。痛み止めには、いつも書きますがアセトアミノフェンというもっとも安全な鎮痛解熱剤を使います。この方法がもっとも科学的に効果が確かめられている方法です。
 早く痛みを抑える手段には、抗生物質がありますが、それは後のご質問のところで書きます。Cooyon 2006.12

中耳炎では2週間も薬を服用するもの?
 鼻水がひどいので耳鼻科に行くと、中耳炎になっているからと、抗生物質を2週間分出されました。こんなに長く飲む必要があるのでしょうか?

抗生物質は、痛みには効くようですが……。
 日本も含め世界中の教科書には、急性の中耳炎なら抗生物質を使うのがあたり前かのように書いているものが多いのは事実です。
 しかし、その効果を調べた世界中の研究を調査した結果では、効果は痛みを減少させることだけがはっきりしていて、中耳炎が原因でなる難聴を防ぐかどうか、治るのを早くするかなどは全くわかっていないのです。また、痛みがない中耳炎もあるのですから使う効果はあるのだろうか? という疑問が世界中で出てきています。
 また、抗生物質を続ける期間ですが、普通の中耳炎には5日間でよかったというデータが出ています。
 急性中耳炎などという極めて多い病気でさえ、確かなことはなかなかわからないというのが現実です。しかし、中耳炎ならなんでも抗生物質を10日とか2週間分出す、というのでなく、真っ赤になって膿がたまっているなど炎症が強い場合に、まず抗生物質を5日程度を使い、経過を見ながら打ち切ったり続けたりするのが妥当だと思います。Cooyon 2006.12

鼓膜切開で中耳炎がすぐに治るのですか?
 義父の行きつけの耳鼻科では、中耳炎では鼓膜切開をするそうです。そうすると早く治るそうで、うちの子にも行くよう勧められます。わたしは少し恐い気もするのですが、鼓膜切開は効果があるのでしょうか?

鼓膜切開はあまり効果がないようです。
 中耳炎の治療には、飲んだり注射をしたりする「内科的」治療と、鼓膜を切開したり、鼓膜にチューブを通したりする「外科的」治療があります。
 急性の中耳炎では、鼓膜切開は効果がないことが相当な数の厳密な研究で証明されています。
「恐い気がする」ということですが、わたしも、耳垢をとるピンセットでさえ何%かの出血や痛みを与えて泣かせてしまった経験があり、ましてやメスで鼓膜を切開するとなると、いろいろ事故もあるだろうと想像するのですが、具体的な事故は知りません。おそらく、強い障害を残すような問題はなかったのかもしれません。
 鼓膜切開は、中耳炎の慢性化を防いだ、という研究結果もありますが、効果がなかった、というものが多いのです。厳密な研究をまとめますと、3ヶ月から1歳までの子ども105人の研究では、抗生物質のほうが鼓膜切開より中耳炎そのものの治りが2倍以上よく、2〜12歳の子ども171人の研究では、鼓膜切開と何もしないのとを比較すると、鼓膜の様子には差がなく、治療に当たってから1日目と7日目の痛みにも差がありませんでした。もうひとつの研究でも鼓膜切開より抗生物質のほうが5倍以上も治癒率がよいという結果が出ています。程度の差はあれ、鼓膜切開は効果がなく、中耳炎を早く治すものではないと言えます。
 そこで、鼓膜切開はたとえそんなに害がないとしても、する必要もないかと思われます。もちろん、痛みがひどい場合や、菌を調べる場合など特別な理由があれば別ですが、そんなことは少ないと思われます。Cooyon 2006.12

自然に治った嘔吐、下痢。原因は何でしょうか?
 3歳の子どもですが、夜中に急にお腹が痛い、と言って、嘔吐を数回し、下痢がはじまりました。その後は比較的元気にしていたので様子を見ていたら、下痢も数日で治ってしまいました。この症状は、何だったのでしょうか?

冬場に多いのはウイルス性腸炎です。
 質問のお子さんのように、急に吐いた後、下痢をする場合は、たいていは急性の胃腸炎です。
 急性の胃腸炎とは、主に腸管の内側に充血・腫れ・粘液の増加などの「炎症」を起こすものです。原因には、大別するとウイルス、細菌、日本ではまれですが寄生虫があります。そのほか、薬、キノコの毒や重金属などでも、嘔吐や下痢を起こします。サルモネラやキャンピロバクタなど細菌性のものは夏に多く、給食など食事を通じて集団発生すると食中毒となります。
 大阪・堺市の学校給食で発生した病原性大腸菌、O-157による食中毒は有名ですね。細菌性のものは04年6月号で詳しく書いているので参考にしてください。
 さて、冬場に多いのは、ロタウイルスやノロウイルスなどの、ウイルス性の腸炎です。小児科にとっては冬の風物詩ともいうべき病気です。
 ロタウイルスは2歳までに大部分の子どもがかかります。ウイルスが移ってから1〜3日で、最初は嘔吐や腹痛や下痢が起こります。突然のことなのでびっくりしますが、嘔吐のほとんどは12時間以内におさまります。そのまま治ってしまう場合もありますが、下痢が10日ほど続くこともあります。もちろん、嘔吐はなく下痢だけのこともあります。2度目以後の感染では、症状が軽く済みます。ロタウイルスで死亡する子どもは日本ではほとんどいないと思われますが、世界中では60万人もの子どもが、劣悪な飲料水や栄養状態のためにこの病気で死亡しています。
 最近有名になったノロウイルス(ノーウォークウイルスとも小型球状形ウイルスともいわれる)は、生ガキや大アサリ、シジミ、ハマグリなど二枚貝から移り、1〜2日で発病します。以前、当直をしていると、嘔吐・下痢・腹痛の症状がある小学生が来ました。数時間以内に同じ学校に通う同じ症状の子が4〜5人受診しに来たので、保健所に報告してノロウイルスだと判明しました。これがわたしのノロウイルスとの印象深い出会いです。ノロウイルスは、03年度、食中毒件数1、585件のうち、17・5%、患者数29、355人のうち、36%を占めます。
 そのほか、急性胃腸炎を起こすものに腸管アデノウイルスがあり、これは季節を問わず年中発生します。ロタウイルスと似た下痢・嘔吐・腹痛を起こします。移ってから発病まで3〜10日程度と、感染から発病までの期間が少々長いのが特徴です。基本的には便から移ります。また冬に多く、症状は軽く、嘔吐や発熱は少ないアストロウイルスの胃腸炎もあります。Cooyon 2006.03

ウイルス性腸炎の予防法は?
 細菌性の食中毒だと、手洗いや熱湯での消毒などで予防するよう言われていますが、ウイルス性腸炎の場合、どのように予防したらいいでしょうか?

予防法はウイルスの種類によって違います。
 ロタウイルスは、ひとからひとへ、便や吐物を介して感染します。タオルで手を拭くとタオルを介して移るので、便や吐物を触った後はよく手洗いをし、紙タオルで手を拭くことが大事です。便や吐物を触る可能性のある作業では、できれば使い捨てのゴムなどの手袋を使えば、より効果的に感染を防げます。一時、ロタウイルスに対するワクチンがアメリカで使われたことがありますが、腸重積という副作用が発生し、現在は使われていません。
 ノロウイルスは二枚貝から移ることが多いので、カキなどに注意が必要です。このウイルスは85度で1分以上熱すると死滅します。カキなどの二枚貝を調理したときは手をよく洗い、調理器具もよく水洗いし、熱湯消毒をすると効果があります。生で食べるカキは「生食用カキ」に限り、「加工用カキ」は絶対に生で食べてはだめ、とのことです。便や吐物はビニールの袋に入れ、哺乳瓶用消毒液などを入れて消毒すると効果的です。
 手洗いに関しては、あまり確かな研究ではないようですが、小学生で手洗いをしっかり教育したクラスでは、そうでないクラスと比べて風邪や胃腸炎で休む子が半減した、という研究があります。厳密に証明されていないとはいえ、手を洗う習慣をつけることは重要かと思われます。Cooyon 2006.03

ウイルス性胃腸炎の治療法は?
 10ヶ月の子どもです。夜中に急に吐いたので慌てて病院に行きました。ウイルス性の急性胃腸炎だということで、下痢止めと嘔吐止めの薬が出ました。このほかに、ウイルス性の急性胃腸炎に効果のある治療法があるのでしょうか?

からだに足りないものを補う治療を。
 ウイルス性の急性胃腸炎に対しては、ウイルスをやっつける薬はなく、細菌をやっつける抗生物質も効きません。治療の目標は、下痢や嘔吐による水分の不足を補い、ナトリウムやカリウムなどの電解質の異常を予防したり、治療することです。嘔吐・下痢をすぐ止める薬がいい、と思われるでしょうが、WHOやアメリカ小児科学会は、嘔吐や下痢を止める薬を子どもに使わないよう、勧告しています。
 まず嘔吐止めですが、日常的に使える薬は急性胃腸炎の嘔吐に、はっきりした効果はありません。また、たとえ効いたとしても、急性胃腸炎の嘔吐は一種の防衛反応で、それを止めるとかえって病気の治癒が遅くなる可能性があります。さらに、嘔吐を止める薬には、鎮静作用やからだをくねくねさせるような運動障害などの副作用がよく出るので、使わないほうがよいのです。
 次に下痢止めですが、ロペラミドという腸の動きを抑えて下痢を止める薬があり、下痢自体はよく止めます。しかし、下痢も腸内の有害なウイルスや細菌などを腸管から洗い流す、という防衛反応のひとつと思われます。ロペラミドを使うと胃腸炎が悪化し、腸が腐ったりして死亡するなど、多くの副作用が、とくに乳児で報告されているので勧められません。
 下痢止めと嘔吐止めのほかに治療法がないわけではありません。まず、口から飲む水分です。嘔吐がおさまったら、少しずつ水分をとるようにします。少しの糖分とナトリウムやカリウムを含む、点滴の成分と似たものをつくれる顆粒(商品名「ソリタ2顆粒」など)を水に溶かし、少しずつ飲むのが最良です。これでたいていの胃腸炎は治るとされています。それが手に入らなければ糖分の多いスポーツ飲料ではなく、乳児用のイオン飲料や白湯や番茶でもいいです。食べものを欲しがれば、普段食べているものを少しずつ食べさせます。強い食事制限はよくありません。
 下痢に関しては、ミルクアレルギーがなければ乳酸菌製剤が効果があるという厳密な研究結果があります。これはミルクアレルギーのひと以外にはとくに副作用がないため、推薦できます。
 下痢・嘔吐があっても、元気だったら、心配いりません。半日以上おしっこが出なかったり、グッタリしているなら脱水が起こっている可能性大です。口や舌の粘膜が乾燥し、涙が出ない、呼びかけに反応が弱い、などの症状があればすぐに受診してください。
 また、冬でも便に血が混じっているときは、サルモネラなど細菌性の胃腸炎や、ちいさい子では腸重積という早急に治療すべき病気になっていることもありますので、すぐ受診してください。元気で血の量が少量なら、慌てる必要はありません。 Cooyon 2006.03

風邪をこじらせると、肺炎になる?
 風邪をこじらせて肺炎になると言いますが、どうしたら肺炎になってしまうのでしょうか。風邪から肺炎になるときの見極め方はあるのでしょうか。
 また、抗生物質は肺炎を予防できるのでしょうか?

ウイルスや細菌が肺胞に入ると肺炎に。
 まず、肺炎とはどんなものか、少し説明します。
 空気を鼻や口から吸い込むと、喉から気管に入ります。気管は2本の気管支に分かれ、どんどん枝分かれしていき、細気管支となり、さらに細くなって、空気がいっぱいの肺胞に到着します。この肺胞に細菌やウイルスなどが入り「炎症」を起こして膿がたまることを肺炎といいます。
 肺胞は、何重もの機構によって、微生物などから守られています。そのためウイルスや細菌のほとんどは、鼻や喉に限定された炎症しか起こせません。それが、風邪です。
 細菌性の肺炎を起こすメカニズムとして、風邪になると鼻や喉の防御機能が弱まり、細菌が肺胞に侵入しやすくなるという説があります。確かに、ウイルスは鼻や喉の粘膜の防衛反応を弱らせる、という証拠があります。風邪の原因のほとんどがウイルスですから、「風邪をこじらせると肺炎になる」という一般に通じている説と一致します。  他方で、RSウイルスなどウイルスによる肺炎は、風邪から病気が進展するのでなく、最初から肺炎になると考えられます。
 ともかく、肺炎になりますと、一般的には呼吸が早くなったり、熱が続いたり、元気がなくなったりします。咳も重要な判断材料ですが、ちいさいあかちゃんでは、肺炎でも咳がほとんどないことがあります。ですから、「鼻風邪かな?」と思っても、どうもいつもより元気がないと思ったときは、受診してください。症状を考え、必要なら検査をして、肺炎を見つけるのが医者の仕事です。
 ところで、風邪をこじらせると肺炎になるし、肺炎の多くは細菌性だから、細菌をやっつける抗生物質を飲んでいたら肺炎になりにくい、とも考えられるかもしれません。しかし、多くの科学的な研究は、風邪のときに抗生物質を飲んでいても、決して肺炎を防げないことを示しています。細菌が抗生物質に抵抗をもつことがわかっているのです。
 わたしは世界の医学の常識として十数年前からこのことを学会やマスコミで訴えてきましたが、最近ようやく日本小児科学会も認めました。しかし、世間では「風邪です」と言いながら抗生物質を出す医師や、それを要求するご両親が多々おられます。Cooyon 2007.02

風邪で高熱が出たら、脳があぶない?
 子どもの高熱は怖いものです。風邪などの感染症の高熱で脳に影響が出ることもあるのでしょうか。

風邪の熱は、風邪を治すために必要なもの。
 高熱が出ると、うなされたり、熱性けいれんを起こすことがありますので、脳にまったく影響がないとは言えません。大事なことは、その影響が障害を残すようなものかどうかです。
 高熱が出ると、6ヶ月頃から5歳までの子どもの数%が「熱性けいれん」を起こしますが、熱性けいれんは後遺症を残しません。多くの科学的調査がほぼ同じ結論です。けいれんを起こすわけですから、高熱が脳に影響していることは間違いありませんが、単に一過性のものです。
 ですから、単なる高熱では脳に障害を残すような影響は与えないと言えます。しかし、熱が脳に障害を残すという考えは昔から非常に強いものです。熱についてだけ書かれた教科書がありますが、それには、熱を治療するのは親の不安感を治療するためだと書いています。以前にも書きましたが、動物実験でも、人間を調査した研究でも、感染による熱は、下げたほうが死亡率や病気の治癒率を悪化することがわかっています。できるだけ下げないほうがよいのです。
 いまは、まるでインフルエンザウイルスが脳症を起こすかのように宣伝されていますが、それは事実ではありません。以前は風邪によく出されたボルタレンなどの「消炎鎮痛剤」が、実は脳症を引き起こし重症化させることが多くの事実で証明されています。わたしたちの指摘で、いまでは大部分の小児科医は消炎鎮痛剤を出さず、アセトアミノフェンを出していますが、それを知らない医師もいますので注意が必要です。
 ところで、インフルエンザの治療薬タミフルの副作用で精神障害が起こることを「薬のチェック」(NPO法人医療ビジランスセンター)の浜六郎さんが啓発して、とうとう昨年秋に厚生労働省が調査報告を出しました。この調査では、高熱によるうわごとなど軽い精神症状と、2階から飛び降りたなど、生死につながる障害とを一緒にして集計し、タミフルは精神障害を増加させない、と結論づけ、それをマスコミ発表しました。
 わたしたちは昨年11月の日本小児感染症学会で、この調査をした医師たちに、もっと科学的に調査を計画するよう求めました。その後、米国FDAもタミフルの精神障害に注意を呼びかけました。
 ともかく、インフルエンザの高熱だけでは障害が残るような脳への影響はないと思われます。高熱が怖くて消炎鎮痛剤やタミフルを飲ませますと、かえって死亡するような脳への障害を生み出すこともありえます。
 以上は、あくまで風邪の熱について言えることで、日射病や熱射病の熱ではありませんので、注意してください。Cooyon 2007.02

扁桃炎がひどいとき、扁桃腺を取る?
 子どもの喉の痛みがひどく、扁桃炎になっています。扁桃腺を取る場合もあると聞いたことがありますが、心配です。

扁桃腺の手術には、リスクもあります。
 喉の痛みを訴えておられ、扁桃炎がひどい、とのことですが、本当に扁桃炎でしょうか? 扁桃炎でない、喉の奥の粘膜が炎症を起こしている場合も、喉を痛がります。
 扁桃炎は扁桃腺が赤く腫れて膿がついている状態です。ところが子どもの喉をよく知らない医師は、子どもの扁桃腺は大人とくらべて大きく見えるので、「扁桃炎」にしてしまうことがあるようです。
 本当に扁桃炎を起こす代表的なものに、溶連菌とアデノウイルスがあります。わたしの印象では、溶連菌よりアデノウイルスに感染したときのほうが扁桃の粘膜の表面がなめらかなことが多いと思います。いまでは、両者ともに10分ほどで結果が出る検査法がありますので正確に診断できます。そのほかEBウイルスも、ひどい扁桃炎を起こし、息もしにくくなることもあります。この中で、抗生物質で治療できるのは溶連菌だけです。
 さて、「扁桃腺を取る」のは心配ですね。わたしも小学生のときに扁桃腺を取られて、いつまでたっても口から血が出てくるので怖かったことを覚えています。いまの手術はその頃より格段に上手になっているようですが、手術となるとやはりいやですよね。
 手術をしたほうがよいのか、しないほうがよいのかがいまだにはっきりしないのが現状のようです。確かに扁桃腺を取ると扁桃炎の回数が減ります。世界の研究を集計した結果では、扁桃腺を取った子どもたちでは、手術後1年以内に扁桃炎になったのは平均1・2回でしたが、取らなかった場合は平均3・09回、2年目では1・6回と2・66回でした。それも3年目になると統計的には差がなくなりました。
 扁桃炎はウイルス性なら自然に治りますし、溶連菌感染なら抗生物質で早く治ります。わたしだったら手術をすすめませんが、何度も扁桃炎になるのはあまりにもかわいそうだから手術をするという方もおられるとは思います。ただし、手術による重大な事故もないことはないので、その点もよく聞いてから決断されるようおすすめします。Cooyon 2007.02

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はじめての高熱、どうしよう!
乳児期にほとんどの子どもがかかると言われている「突発性発疹」。これがわが子のはじめての高熱! という場合も少なくないはず。高熱時のケアなど、風邪などの際にも取り入れたい対処法やこころ構えについて解説します。

0歳11ヶ月の娘です。1〜2歳頃までにほとんどの子が突発性発疹にかかると聞きますが、もしかかったらどう対処すれば? いままで高熱を出したことがなく、冷静に対処できるか心配です。(クリックで回答をみる)

突発性発疹の症状は、おっしやるとおり高熱が2〜5日続くことです。そして多くの場合、高熱の割には元気なことが特徴です。たまには「ぐったりしている」ようすのこともありますが、そんなときはほかの病気も考慮し検査をします。  突発性発疹の場合、2〜5日後、熱が急に下がり、その一両日中に赤く数ミリの発疹が全身に広がります。教科書には書いていないことが多いのですが、このときは熱が下がっているのにとても不きげんになり、「(親は)ひと晩寝かせてもらえませんでした」というお話をよく聞きます。とくにかゆくもなさそうなのですが、どうして不きげんになるのかはわかりません。ちなみにこの発疹は数日で自然に引いていきます。  ほかに、頭の後ろのリンパ腺が腫れたり、のどに特徴的な斑点ができたりしますが、診断は熱が下がって発疹が出て「突発性発疹でしたね」と言える場合がほとんどです。  対処の方法は特別なものはありません。熱は下げないほうがよいので、熟冷ましの薬を使ったり、冷やして熱を下げようとする努力はしないほうがよいです。また、発疹に対する治療は必要ありません。ただし、発疹の出る前に、あまりにきげんが悪い場合は、ときに中耳炎などの合併症を起こしていることがあるので、鎮痛解熱剤を使って経過を見るのもひとつの方法です。  高熱で「熱性けいれん」を起こす子も5〜10%います。はじめてだとびっくりして頭が真っ白になるかと思いますが、ほとんどは数分で止まり、その後も問題を残しません。ただ、極まれに脳炎や劇症肝炎を起こすことがあります。もしけいれんが10分以上も続いたり、ぐったりすることがあれば、すぐ受診しましょう。Cooyon 2012.05

もうすぐ3歳を迎える息子は、突発性発疹はまだ。かからないと今後の成長に何か影響はある?(クリックで回答をみる)

突発性発疹の原因は、おもにヒトヘルペスウイルス6型です。5歳までに3/4の子どもがこれに感染します。大人では100%が感染していて、一生このウイルスと仲よく(エイズのような病気で免疫が低下すれば別ですが)共存するのです。  実際「突発性発疹にかかったことがない」と言う方もたくさんいます。欧米では、突発性発疹の症状が現れるのは1/4程度、日本ではもっと多くの子で症状が出るとされていますが、症状が出ない子のほうが多いのです。このことは、突発性発疹の症状が出なくても感染をしていることが多々あることを示しています。ですから、突発性発疹の症状がなくてもどうってことはないわけです。  このウイルスは誰から感染するのかまだはっきりはしないようですが、多くは家族内感染だろうとされています。なかでも母親からの感染はウイルス学的にも確認されています。なお、症状が出ているお子さんとの接触での感染や流行はないとされています。  母親は100%感染したことがあるので、ウイルスをやっつける抗体を持っており、それが胎盤を通じ胎児に移行するため、その抗体に守られて6ヶ月未満に感染する子が少ないのだろうとされています。また、大人の100%が感染者なので、生後、おかあさんの免疫が切れてくる6ヶ月頃以後、早期に感染する可能性が高い病気だと言えます。  また、突発性発疹の特徴的な症状は、ヒトヘルペスウイルス6型以外に、例は少ないですが同7型でも起こります。さらに、ほかのウイルスでもとても似た症状を出すことがありますので、「2回突発性発疹にかかった」ということもあり得るわけです。ややこしいですね。Cooyon 2012.05

0〜2歳児の高熱時のケア熱は、それ自体の程度よりも、ぐったりしているとか苦しそうだとか、水分も摂れないなどといった、子どものようすのほうが重要です。  高熱が出ていても、比較的元気で、まずまず飲んだり食べたりしていれば慌てる必要はなく、2〜3日ようすを見てもよいのです。逆に、熱がなくてもぐったりしているようなら、すぐ受診が必要です。  ウイルスや細菌性の病気の場合には、薬を使っても使わなくても、熱を下げたほうが、死亡率が高くなったり、病気が長引いたりすることが多くなります。  わたしは以前、世界中の動物実験や人間の観察に関する研究をかなり厳密に調査しました。結果、熱を下げたほうが悪化したという報告は多々ありましたが、よかったという報告はありませんでした。  また、熱を下げる「消炎鎮痛剤」が「脳症」の原因になることが判明しています。さらに、もっとも安全とされている鎮痛解熱剤のアセトアミノフェンも、喘息を増やすのではないかと疑われはじめました。わたしは、喘息を増やすという研究には疑問をもっていますが、熱は下げないに越したことはありません。  わたしは以前から、鎮痛解熱剤は、どこか痛そうでとてもきげんが悪いとか、少し大きなお子さんで頭や耳が痛くてかわいそうなときに限って使うようにおすすめしています。Cooyon 2012.05

ヘルパンギーナとの違いって? 梅雨に入る頃から流行し出す「夏の風邪」の代表格、手足口病。これと似た症状で、喉の奥に発疹ができるヘルパンギーナも、この時期よく聞きます。いずれも比較的軽くすむ病気なので、あわてずに対処したいものです。

1歳半の息子が通う保育園では、手足口病が流行中です。息子は0歳のときに手足口病にかかっていますが、もう一度かかる可能性もありますか? その場合、予防法はありますか?(クリックで回答をみる)

手足口病の症状の原因になるのは麻疹(はしか)や水ぼうそうのように1種類のウイルスではなく、おもにコクサッキーウイルスA16かエンテロウイルス71(EV71)です。ただし、コクサッキーウイルスA6、A9、A10などの場合もあります。これらのどれかひとつのウイルスで手足口病にかかっても、ほかのウイルスで再び手足口病になることがあるわけです。  これらのウイルスは、くしゃみ・鼻水や、ひと同士が接触することで移っていきます。また長い場合は数週間も便に排泄され、便から移ることもあります。そこで一般的には、手洗いや便の処理に注意するなどが呼びかけられています。  しかし、インフルエンザやRSウイルスなどほかのウイルス感染も同様ですが、手足口病も感染していて移す状態にあっても、症状がない「不顕性(ふけんせい)感染」の子も多いのです。そのため、症状が現れた一部のお子さんを隔離したり、その子の世話をするときにだけ注意しても、感染を防ぐことはできません。このことから、この病気は保育所などを休むことの意味がないため、「著しい発熱がなく、摂食が可能で、全身状態が良好」であれば出席可能とされています。  この病気のほとんどは極軽症ですので、とくに感染に神経質になる必要はありません。ただ、極めてまれに神経系などの合併症があります。とくに、エンテロウイルス71によるものは多いとされています。わたしがいつも診ているお子さんが、このウイルスによって昨年軽い髄膜炎で入院しましたが、すぐよくなりました。  ちなみに、手足口病を治したり、感染を予防する薬などはありません。Cooyon 2012.06

2歳の娘です。口の中を指差して痛みを訴えると、急に高熱が。小児科で「ヘルパンギーナ」と診断されました。痛がるのでうまく飲食させることができず困っています。(クリックで回答をみる)

手足口病は、手のひら、足の裏と口の中に直径2〜4ミリの水痘性の発疹ができるのが典型的な症状です。目の中の水痘はすぐつぶれてアフタになります。また、水痘やとびひと違い、水疱を覆っている皮が厚いのが特徴です。また、手足のどちらかだけにできる場合もあり、「手足病ですね」などと勝手に言っています。いずれにしても、熱もほとんどなく元気です。以上がよくある症状です。  しかし、昨年流行ったエンテロウイルス71による手足口病は少々違いました。ご質問のお子さんのように、高熱で口の中に発疹ができ、一度は「ヘルパンギーナ」と診断しましたが、翌日に手足に水痘ができて「あれー、手足口病でした」と診断を変えたこともあります。  それもそのはず、エンテロウイルス71などは、手足口病もヘルパンギーナも引き起こすとされているのです。また、最初は水底や盛り上がった発疹が下腿やお腹にもできていて、「何だろう」と思っていると、次の診察時には手のひらや足の裏にもできており、やっと「手足口病」と診断した子が多かったです。  口の中が痛くて飲食できなかったりする場合もありますが、わたしの長い小児科医の経験でも、ヘルパンギーナで何も飲まなくなり入院した子はひとりいたくらいです。飲ませるものは、何でもよいのですが、点滴と似た組成のイオン飲料のほうが、口の痛みを感じさせないかと思います。しかし、それをきらう子もいますので、その子が飲めるものを与えればよいでしょう。Cooyon 2012.06

発疹をかきむしってとびひになったら……?  確かに、手足口病は夏を中心に流行りますので、とびひの季節と重なりますが、手足口病から直接どびひになるようなことはほとんど経験がありません。  たとえば水ぼうそうでは二次的な細菌感染でとびひになるようなことはたまにありますので、教科書記はそう書いてあります。ですが、手足口病ではほとんどないことのようで、教科書にはとびひなどの二次的な細菌感染のことは書いてありません。実際、あまりかゆがるこどもないのがこの病気の特徴でもあります。  しかし、上でご紹介したエンテロウイルス71では、手のひらや足の裏だけでなく、下肢などほかの部分にも発疹ができていましたから、かゆがるお子さんもいたかもしれません。もしかゆがれば、夏場でもありますし、冷やすと軽減されるかもしれませんが、いやがればやめて、さすってあげるぐらいがよいと思います。Cooyon 2012.06

子どもの発熱の原因がわからないとき、 よく尿検査をしますが、それは尿路感染症を疑うから。 尿路感染症とはどんな病気なのか、教えていただきました。

1歳半の女の子と2ヶ月の男の子です。
上の子が産まれたばかりのとき、尿路感染症になり、治療しました。下の子は男の子ですが、男の子のほうがかかりやすいと聞いたことがあります。予防法はありますか?(クリックで回答をみる)

子どもの尿路感染症は重症化しやすいので要注意。男の子が女の子よりかかりやすいのは、3ヶ月頃までです。

大人の膀胱炎と一緒にしないで

  生まれたばかりの子が尿路感染症になると、あっという間に重症化することがあります。上のお子さんがうまく治療できたのは、たいへんよかったですね。
「尿路感染症」は聞き慣れない病気かと思います。おしっこに細菌が繁殖する病気で、よくお聞きになるのは「膀胱炎」だと思います。大人の場合ですと、細菌に対する防御機能がしっかりしていますので、細菌の繁殖が膀胱だけで留まることがほとんどです。ところが、ちいさい子どもでは、尿に入った細菌が、腎臓から膀胱・尿道にかけての「尿路」のどこにでも飛んでゆくことが多いので、尿路の感染症と呼んでいます。
 ちいさなお子さんの場合、細菌が腎臓から血液の流れに乗って全身に回り、脳を囲んでいる髄液などに入り髄膜炎を起こして、生命を脅かすこともあります。
 ちいさいお子さんが熱を出し非常に不機嫌になる病気で、はっきりした原因がわからない場合は、必ずおしっこの検査をします。というのは、先ほどの髄膜炎など、たいへん重い感染症の最も多い原因が尿路感染症だからです。この病名には、単なる膀胱炎などと同じに考えないでください、という意味もあるのです。

かかる原因と予防方法

 さて、男の子のほうが尿路感染症になりやすいと聞かれたそうですが、それは生後3ヶ月程度までです。それ以後は女の子が多くなり、女の子が子どものうちにかかるのは約8%で、男の子の約2%の4倍というデータもあり、また、くり返すことも多くなります。
 膀胱からの尿の逆流を防止する弁など、尿路の形態異常があると、おしっこの出口から細菌が入りやすく、それが腎臓まで侵入しやすくなります。生後3ヶ月までの男の子にこの病気が多いのは、尿路の形態異常が男の子のほうが多いからです。尿路感染症にかかった経験や尿路の形態異常のある子のきょうだいも、そうでない子と比べるとかかる頻度が非常に高くなっています。また、はっきりした形態異常がなくても、一度尿路感染症になった子も再発率は高いのです。
 以上から考えると、上のお子さんも尿路感染症には充分気をつける必要があります。さらに下の子はまだ2ヶ月で、かつ男の子なので、尿路感染症にかかる確率は高くなります。熱が出たときには早く受診し、必ずおしっこの検査をしてください。
 尿路に形態異常がないかどうかを調べることも必要です。まずは超音波で検査すれば痛みも副作用もなく、大きな異常がないかどうか調べられます。異常が高度なら、手術で治すこともあります。
 尿路感染症は腎臓自体も傷めます。炎症が長ければ長いほど、回数が多いほど腎臓のダメージは大きくなります。ひと昔前は、腎臓透析のいちばん多い原因が尿路感染症でした。いまではこの割合は少なくなりましたが、それでも相当多いようです。ですから、予防と早期の治療はたいへん大事です。
 一度この病気になると、再発を防ぐために抗生物質を長期に飲むことがよく行われています。この方法で再発を減少させることができるという相当厳密なデータはありますが、1年程度の長期間になりますと、本当にお子さんによいことかどうかの検討はされていません。また、長く抗生物質を使っていると、その抗生物質が効かない細菌が増え、再発の際に治療がむずかしくなります。そこで、軽い形態異常では、感染する危険性はそう高くないので、長期に抗生物質は使わずに、発熱などに注意するだけのほうがよいようです。
 尿路感染症を起こす菌の最多のものは、おしっこの出口である尿道口のすぐ近くの肛門から出てくる大腸菌です。原因菌の5割、8割などという報告があります。ですから尿道口の周辺を清潔にすることが、予防上大事と思われます。一生懸命清潔にすると、どの程度尿路感染症を防げるかを調べた厳密な研究はありませんが、清潔なほうがよいことは充分考えられます。あまり神経質になる必要もないかもしれませんが、普通に清潔を保つことは大切と思われます。

尿路感染症の基礎知識

● 子どもの尿路感染症は重症化しやすいもの。大人の膀胱炎と同じに考えないこと。
● 子どもが熱を出した原因がはっきりしない場合は、おしっこの検査を。
● 抗生物質の長期服用は、抗生物質の耐性細菌を増やしてしまうので要注意。

Cooyon 2009.05

日本人のあかちゃんの多くは生後すぐに黄疸がみられます。黄疸とはどのような症状なのか、お聞きしました。

1ヶ月です。産後すぐに子どもが黄疸になりました。治療後、すぐに回復しましたが、黄疸の原因は、何なのでしょうか?(クリックで回答をみる)

黄疸は、白目の黄色さで判断

 3ヶ月を過ぎて「この子黄色くないですか」とか「黄疸が心配で」と相談されるなかでもっとも多いのが、黄疸もどきの「カロチン血症」というものです。これは病気ではなく、カロチンを多く含む柑橘類やカボチャなどを多く食べると皮膚が黄色くなるものです。にんじんジュースや野菜ジュースでも起こります。
 日本人は「黄色」人種ですから何もなくても黄色いのですが、「カロチン血症」では、とても黄色い子どもがいます。とくに、手の平や足の裏が目立ちます。黄疸との見分け方は、皮膚が黄色くなっても眼球結膜(白目)は真っ白であることです。逆に黄疸はむしろ白目の黄色さでよくわかります。
 わたしは和歌山のミカン農家でミカンをいっぱい食べて育ちましたが、自身も含めて黄色い子がいたとの記憶が全くありません。黄色いのが普通だったのかも知れません。 

黄疸の種類と治療法

 多くのあかちゃんは生まれて数日すると黄色くなってきます。それらのほとんどは、「新生児生理的黄疸」というものです。おなかの中にいるときの赤血球(胎児の赤血球は、母親を通して得た少ない酸素を最大限に利用するため、酸素と結合しやすく離れにくい性質がある)は大人と同じ赤血球に席を譲るため、生後どんどん壊れます。
 赤血球が壊れると酸素を運ぶヘモグロビンという物質が分解されて、ビリルビンという黄色い物質に変化します。これは肝臓で処理されて胆管を通って腸に排泄されていきます。ところが、新生時期の肝臓の能力が追いつかないのか、ビリルビンが血液にたまり、皮膚などを黄色くします。生後2〜3日で黄疸が目立つようになり、多くは4〜5日でピークに達し、7〜10日には消失します。
 このビリルビン値はあまり血中内の値が高くなると脳に沈着して脳性麻痺になるので、充分余裕がある値から治療をはじめます。出産後5〜7日の間は病院などで見守られており、必要なら治療しますので、いまでは障害を起こすようなお子さんはほとんどいません。
 あかちゃんの黄疸治療はユニークです。ビリルビンが日光に当たると分解する性質があるのでこれを利用して少し特殊な蛍光灯を皮膚に当て、皮膚や血管を通して血液中のビリルビンに光線をあてます。とても手軽で副作用もほとんどありません。これでもだめなら、輸血と血を抜くことをくり返して血液を「交換」する治療をします。
 これ以外にも、生後すぐに黄疸がひどくなる場合に重篤な病気も含まれますが、早期の治療の対象になり医療スタッフに説明を受けますから、ここでは省きます。
 1週間以後も黄疸が強くなる場合で最も多いのが「母乳性黄疸」です。これは母乳に含まれるホルモンなどが肝臓でのビリルビンの処理を遅くするためと考えられています。母乳を2〜3日止めると黄疸が改善するので、診断は容易なように教科書には書いてありますが、母乳を吸わせないと母乳が出なくなるのではないか、と心配される母親も多く、ともに悩みながら診断をしてゆくことが多いです。この時期になると黄疸が少々高くても問題ないので、診断以外に母乳を止める必要はありません。
 母乳を止めても改善しなく、2ヶ月を過ぎても黄疸が続くときは、「ギルバート症候群」の場合が多いです。少し大きくなると消えますが、ときどき軽い黄疸が出ながら思春期以降に黄疸がはっきりするのが特徴です。日本人に多く3〜10%のひとが備えている性質で、治療も不要なものです。
 他方、ごくまれですが、新生時期に早期に発見すれば手術で延命できますが、遅れてしまうと子どもなのに肝硬変になってしまう病気に、先天性胆道閉鎖症があります。この場合は、肝臓で代謝されて毒性が少ないビリルビンがたまるので、検査で新生児生理的黄疸や母乳性黄疸とは区別がつきます。1ヶ月頃までの早い時期に発見し手術をすることが必要なので、早く区別することが大事です。
 3ヶ月を過ぎて黄疸が出てくる場合は、赤血球が壊れやすく貧血になる病気や、肝炎など多数の病気がありますので、検査が必要です。小児科でご相談ください。

軽い黄疸の原因

● 新生児生理的黄疸…産後すぐのあかちゃんには多くみられる症状。病院では5〜7日見守り、改善しなければ治療が必要。 ●母乳性黄疸…母乳を2〜3日やめると改善する。 ※その他、重篤な黄疸もあるので診断が必要。

Cooyon 2009.09

冬はおなかの調子を崩しがち。 原因はウイルスのことも多いもの。代表的なロタウイルス、 ノロウイルスについて、小児科医の林敬次さんにお聞きしました。

6ヶ月です。冬はウイルス性腸炎の季節。とくにロタウイルスとノロウイルスについてよく聞きますが、それぞれ、どのような病気なのでしょう?(クリックで回答をみる)

かかったら、水分補給と、ひとに移さないための配慮も必要。腹痛はほかの病気の可能性もあるのでようすをみて、受診も。

ロタウイルスの症状は軽めです

 冬を迎え、鼻水や咳とともに、子どもたちに流行するのが下痢や嘔吐を主な症状とした「感染性腸炎」です。鼻水などと違って、嘔吐と下痢はその処理に手間がかかり、とくに嘔吐は布団まで汚すので大変です。この症状の冬の主役はロタウイルスとノロウイルスですが、アストロウイルスやサポウイルス、年中起こる「腸管アデノウイルス」などのウイルスも、冬の嘔吐、下痢の原因となります。
 ロタウイルスは冬の下痢、嘔吐の4〜5割を占めます。症状はほかのウイルスによるものより激しく、8〜9割のお子さんが夜中などに何度か嘔吐します。ほとんどの嘔吐は半日以内に止まり、大部分の子は下痢に移行します。症状はさまざまで吐き気や軽い下痢だけの場合もあります。2度目の感染からはより軽い症状で済み、5歳以上ではあまりかかりません。感染して1〜3日で発病します。ひとからひとへ、便から口へと移ります。栄養や環境のよい日本では、これで亡くなることはほぼありませんが発展途上国では約60万人が亡くなっているそうです。
 ノロウイルスは大人にも発病し、腸炎患者の3〜4割を占めます。ロタウイルスと同様にひとからひとへ移りますが、生がきやシジミ、ハマグリなど二枚貝などや水から移り、多人数が同時に発症する場合があります。感染から発病までは12〜48時間ととても短く、急に嘔吐をくり返したあと下痢になりますが、半分は下痢だけとされています。ロタウイルスより軽症で期間も短いものです。両者は迅速検査で診断できます。 
 移らないよう、発病した子の便や吐物はできれば使い捨ての手袋をして扱うか、事後に流水で手をよく洗ってください。小学生で手洗いをしっかり教育したクラスはかぜや胃腸炎で休む子が少ないという研究があり、家族も手洗いはしっかりしたほうがよいと思います。二枚貝から移るノロウイルスから身を守るためには85度1分以上の調理と調理器具の熱湯消毒を。ウイルスに対する消毒液は塩素が入ったものがよいのですが、その管理には注意してください。 

「吐き気止め」には注意して

 ウイルス性腸炎の治療の中心は水分補給です。わたしは、ナトリウムなどの塩類と少量のブドウ糖が入った医療用の「イオン飲料」を脱水症状予防と治療の薬として処方しています。これは、脱水症状になっていないとおいしくないのか「飲みません」と言われ、がっかりすることがあります。そんなときには少し味をつけた市販のあかちゃん用のイオン飲料をおすすめしています。最初は少しずつ与え、吐かなければ量を増やしていきます。水分も受け付けず、12時間おしっこが出ないとか、ぐったりすることがあるようなら受診してください。
 食事について、ある程度科学的な根拠があるのは「くだものが下痢を長引かす」「乳児用のミルクを薄めて飲む、また、やめても効果がない」「食事を制限し過ぎるとよくない」などです。油っこいものはよくない、と書いている世界的な教科書があります。基本は、ほしがれば少しずつ与えることで、リンゴ汁がよいとかさまざまな言い伝えがありますが、それらを実行するかどうかは好みの問題です。でも極端なことはよくないでしょう。
 嘔吐で受診するとすぐ処方される「吐き気止め」は嘔吐を多少抑えますが、下痢をひどくするというかなり厳密な研究があります。神経系の副作用も出るので、よくありません。また下痢止めは、大きなお子さんで試験などのため一時的に止めたい場合以外は、使わないほうがよいです。とくにちいさいお子さんでは重症化することがあります。抗生物質はウイルス性腸炎にはまるきり効きません。
他方で、「ビオフェルミン」のような乳酸菌製剤に効果があるという科学的根拠があります。種類によってはミルクアレルギーの子には注意が必要です。
 最後に、嘔吐、下痢は、これらの病気以外の多くの病気でも出現します。虫垂炎など腸管の重大な病気でも嘔吐や下痢が主な症状のときがあります。また腸炎から腸重積というすぐに治療の必要な病気になることも。ぐったりする、半日以上吐き続ける、腹痛がどんどんひどくなる、などの症状があれば、すぐに受診してください。

ロタ、ノロウイルスのケア

● 水分を補給し、休むこと。ナトリウムなど塩類と少量のブドウ糖が入った「イオン飲料」をとる。少し味のついた糖分の少ない市販のイオン飲料でも。最初は少しずつ摂取する。
● 「吐き気止め」は、下痢をひどくする可能性と副作用があるのでよくない。

Cooyon 2010.01

ちいさな子どもの「発熱」、どう考える?

季節の変わり目は陽気も不安定で、ちいさい子どもは体調を崩しがちです。今月のテーマは「発熱」。子どもの健康のバロメーターともいえる「熱」の考え方、あらためて整理してみませんか。

0歳9ヶ月の子どもです。生後半年を過ぎた頃から、発熱や風邪症状をくり返しています。秋口にはこじらせて肺炎になりかけました。「免疫が切れたから」ということは知っているつもりですが、やはり心配です。いつまで続くのでしょうか。また、対策はありますか?(クリックで回答をみる)

 6ヶ月頃から発熱やかぜ症状をくり返すのは自然な経過です。しかし、家庭保育の子どもと、保育所などで集団生活をしている子どもでは事情が変わります。おうちで過ごしていて、1歳頃まではあまり発熱をしなかったお子さんも、保育所に通い出したとたん、頻繁に感染症にかかりますので、「せっかく保育所に入れても、ちっとも職場に行けない」という嘆きの声をよく聞きます。そんなときは「わが家もそうでしたよ。親のどちらが仕事を休むかでよくケンカしていました」となぐさめています。
 たいていは2歳になると受診回数も減り、3歳を過ぎれば、「久しぶりだね」となり、小学生になると「どこかに引っ越したかな?」と思うほど小児科とは疎遠になっていきます。
 子どもは、それぞれ熱を出すことで、大人へと一歩一歩進んでいくのだと思います。「肺炎になりかけた」ということは、肺炎でなかったのですから、たいしたことはなかったのです。ですから、特別な対策は必要ないですし、心配しすぎないことが大切です。

Cooyon 2010.04
もうすぐ2歳になる保育園児です。保育園では37・5℃になると帰されますが、その基準は何ですか。またちいさな子どもは、ちょっとしたことで体温が上下するようです。子どもの体温と健康状態の目安についておしえてください。(クリックで回答をみる)

 体温は部位によって変わります。直腸では38℃、口の中は37・6℃、腋では37・2℃以上を基準としたり、いつもより1℃高いと「発熱した」と定義することもあります。多くの保育園や幼稚園では、腋の計測で37・5℃以上になると預かってくれません。37・5℃で呼び出され、「せっかく休んで連れにきたのに診療所で計ったら36・5℃……」とぼやくおかあさんもいます。
 予防接種のガイドラインでも、「(腋の下で)37・5℃以上の者は明らかな発熱者」と明記しています。37・5℃は日本の行政の基準のようですね。これは統計上、37・5℃を超えると、何らかの病気にかかっている子どもの割合が多くなる、というひとつの基準であり、もし元気で、ほかに症状もなければ、「病気」とはいえません。
 ただ欧米では、直腸温が38℃以上で、0歳1ヶ月未満のお子さんは、入院して検査と観察。0歳1ヶ月〜3ヶ月のお子さんの場合は、検査や症状によって入院を決める。それ以降3歳までは機嫌が悪ければ検査し、ぐったりするなら入院、という基準が広まっています。3歳を過ぎたら、高熱であっても機嫌が悪くなければ、2〜3日は経過をみてもよいかと思います。

Cooyon 2010.04
5歳の子どもです。ちいさい頃から、インフルエンザなどで高熱が出ると、ひきつけを起こすことがありました。新型インフルエンザなどでも起こるのではないかと心配しています。何か注意すべきことはあるでしょうか。(クリックで回答をみる)

 37・5℃以上の熱があり、0歳6ヶ月以上6歳未満で、特に神経性の持病がなく、約15分以内の持続的なけいれんがあるなど、いくつかの条件を満たすと「熱性けいれん」と考えられています。日本では、子どものうちの1割くらいはけいれんを1回は経験し、そのうちの2〜3割の子どもがさらにもう1回、そしてまたこのうちの何割かの子どもが3回程度経験するとされます。この子どもたちのその後の経過については、たいへん詳しく調べられていますが、神経・精神的な問題が生じることはありませんので、何の問題もありません。調査によれば、日本の子どもは欧米に比べてけいれんの頻度が高いのが特徴です。原因として「抗ヒスタミン剤」などが関与しているのではないかという指摘もあります。
 また、熱性けいれんではありませんが、「インフルエンザ脳症」といわれる「脳症」は、けいれんからはじまることが多々あります。実は、その原因のほとんどは「消炎鎮痛剤」と呼ばれる解熱剤だったことがわかっています。インフルエンザ用の抗ウイルス薬・タミフルも、神経に作用して脳症を起こす可能性はあります。ちなみに2009年12月9日には、わたしの意見が取り入れられ、英国医師会雑誌は「タミフルには肺炎などの合併症を防ぐ証拠がない」と発表しています。新型インフルエンザかどうかにかかわらず、不要な薬を使わないことが大切です。

Cooyon 2010.04

わたしの観点

 わたしは「発熱」をこのように考えています。
 わたしは、できるだけ熱は無理に下げないほうがよいと考えています。これはわたしの考えというだけでなく、動物実験でも、人間の実験や臨床報告でも、「熱を下げすぎると、病気が長引いたり、死亡率が高くなる」こと、逆に「熱を下げたほうがよかった」という結果がなかったことを、多数の研究結果を調べて確認しているからです。

「発熱」ケア2つの基本

熱は無理に下げない
 「発熱」は、病気、とくに感染症にかかっていることを表すもので、治癒しはじめると、検査結果が出るよりも先に熱が下がってきます。病気にとって熱は、もっとも信頼できる指標のひとつなので、無理に下げるべきではないと考えます。
 ただし0歳児には注意が必要です。また、感染症でなく、熱射病など、周囲の環境によって体温が上がり、高熱になっている場合には強制的にからだを冷やす必要があります。
水分補給と体温調節
 水分補給は、本人がほしがれば与えます。ほしそうなのに、ぐったりしていて水分を摂れなくなるようなら受診を。発熱時はとにかく冷やすべき、という声もありますが、本人がいやがっているのにむやみに冷やすのは好ましくありません。寒がるようなら温めてやればよいですし、暑そうなら冷やすなど、本人が快適かどうかを目安にすることが肝心です。
発熱時の留意点 薬について
 頭痛などをともなっていて、本人がしんどいようならアセトアミノフェンという薬に限り、解熱鎮痛剤を使うことは問題ないと思っています。一方で、熱だけの症状で、抗生物質など多くの薬をむやみに出す医師がいますが、効果より害のほうが多く、よくありません。必要な薬を最小限に服用することが大切です。また、漢方薬だったら副作用が少ないといった意見も散見しますが、根拠はありません。薬は必要なものを最小限に、をこころがけたいものです。

Cooyon 2010.04

夏に多くなる病気の予防とケア

「プール熱」やとびひなど、暑い季節に多くなるちいさな子どもの病気や症状。水あそびや、肌を露出して外であそぶ機会も増えるので上手にケアして、快適に過ごさせてあげたいですね。

0歳10ケ月の子どもです。母乳を欲しがるのに、飲むとからだを反らせて怒ったように泣くので、受診。「手足口病」と言われました。のどが痛いのか、何も受けつけないので脱水症状が心配です。水分補給はどうすればいいですか? 治療で気をつけることをおしえてください。(クリックで回答をみる)

 「手足口病」では、口内の粘膜の表面にできた数ミリの傷が、ポツポツとちいさなおできのように見えることがあります。ものを飲んだり食べたりすると、刺激され痛むのです。
 口やのどの痛みや不快から飲み込むことに抵抗するかもしれませんが、からだが脱水気味になり、ほんとうに必要とすれば、たいていの子どもはいつも飲んでいる母乳などを自分から飲むものです。
 長年、小児科医をしていますが、手足口病で脱水になり、入院させたり、点滴をしたことはありません。ただし、おしっこの量があきらかに減っているのに、母乳などの水分を摂れないようなら、あかちゃん用イオン飲料を飲ませてみましょう。体液と似た成分なので、粘膜への刺激が少ないようです。
 口の中が痛むのは数日ですから、固形物を食べられなくても心配は不要。食べられるようになってからも、刺激を避けて薄味をこころがけて。
 熱がなく、元気なら、ふつうの生活を送りましょう。保育園などを休ませる必要もありません。

Cooyon 2010.07
3歳6ケ月の子どもです。夏になると必ず、虫さされやあせもをかき壊し、〈とびひ〉になります。市販のかゆみ止めなどは、肌に合わないため、使えません。よい予防方法を教えてください。(クリックで回答をみる)

 〈とびひ〉は、あせもや虫さされ、湿疹などをかき壊し、そこに細菌が感染して、湿潤性(グジュグジュした)の炎症を起こしたものです。
 患部が乾くまでは感染力も強く、接触した自分や他人の皮膚にどんどん広がっていくので、「飛び火(とびひ)」と呼ばれるのです。
 感染予防には、患部を覆って接触しないようにする必要があるので、暑い夏でもプールに入れないなど、ちいさな子どもにとっては気の毒な病気ですよね。
 〈とびひ〉を完全に予防するのはむずかしいのですが、肌や手指の清潔を保つこと、手やからだを拭くタオルなどを共用しないことなどは有効です。
 あまりに不衛生な環境では、〈とびひ〉は悪化しやすいのですが、かといって、除菌や抗菌などに神経質になるのも考えものです。
 最近では、少々の傷や虫さされなら、水やお湯で汚れを流して、自己治癒による回復を待ったほうが、消毒液を使うよりも、治りが早いことがわかってきています。
 いずれにしても、〈とびひ〉は積極的な治療をしなくても、2週間ほどでほぼ治りますので、清潔を保って、患部をさわらないようにし、ようすを見ていけばよいでしょう。

Cooyon 2010.07
5歳の保育園児です。ヘルパンギーナと診断されました。登園停止の指定病ではないのに、園からは感染予防のために休むようにいわれました。いつごろまで休めばいいですか? また、きょうだいに伝染らないようにする方法はありますか?(クリックで回答をみる)

 最近は、保育園や幼稚園を休まなくてもよいのに、集団感染をおそれるあまり、「休め」という指導をされることが多いようです。
 とくに新型インフルエンザ以来、その傾向がひどくなったように思います。わたしは、ヘルパンギーナは登園停止を命じるほどの病気ではないと考えています。
 ヘルパンギーナは、手足口病と同じくコクサッキーウイルスによって引き起こされる病気です。
 手足口病と違うのは、口やのどの痛みがなく、発熱することが多いということ。基本的なケアの方法は、手足口病と同じです。水分補給をこころがけ、ゆっくり休ませて経過を見ます。
 ヘルパンギーナの場合、熱があってからだがつらいのは、症状の強い急性期。それも2〜4日間で症状も落ち着いてくるはずですから、子どもが元気なら登園してよいことになっています。
 実際には、症状が治まっても、排泄物に数週間ウイルスがいますので、家庭内での感染予防をこころがけるなら、糞便を処理したあとの手を、流水でしっかり洗うくらいでしょうか。
 きょうだいに伝染したくないという心情は、共稼ぎで子育てをしたわたしにも理解できます。でも、子どもの成長にとっては必要な一里塚だと思って、大人も一緒に乗り越えてほしいと思います。

Cooyon 2010.07

わたしの観点

わたしは「感染症」をこう考えます。
 いわゆる「夏かぜ」はすべてウィルス疾患で、ごく軽症の病気です。もちろんごくまれに脳炎を引き起こす可能性もありますが、基本的には経過を見ながら、回復を待てばよいものです。どんな感染症も、子どもが免疫をつくって大人のからだに近づいていくために必要なプロセスと考えてほしいと思います。

「夏の感染症」ケア 2つの基本

感染を予防する
 感染症予防にと、「抗菌」「除菌」グッズなどに頼りすぎないようにしたいものです。感染症予防には決め手はありません。帰宅後、手洗いやうがいをする。手やからだを拭くタオルは、家族それぞれで使い分けるなどの、基本的な方法で、できる範囲での予防をすればよいでしょう。
痛みには必要最小限の鎮痛薬を
 ウィルス感染症では細菌性の合併症がない限り、抗生物質は不要です。もし、くわしい説明もないのに医師から抗生物質を処方されたら、「本当に必要ですか?」と聞いてみるといいでしょう。強い痛みをともなっていて、本人がしんどいようならアセトアミノフェンという薬に限り、解熱鎮痛剤を使うことは問題ないと考えています。薬は必要なものを最小限に、をこころがけたいものです。

感染症ケアの留意点

気になる症状
 もし、これら感染症の典型的な症状がでても、子ども自身がわりと元気なら、受診をする必要は、まずありません。
 しかしどんな病気でも、ごくまれに重症化する場合はありますので、ぐったりする、意識がおかしいなど、いつもと明らかにようすが違う場合には、重大な合併症がないかどうかを評価する必要がありますので、早めに受診をしてください。

Cooyon 2010.07

風邪との違い、家庭でのケア

冬に流行するRSウィルス感染症。「風邪かな?」と思って受診したのにそう告げられ、驚いた方も多いのでは? 風邪との違いや予防策、家庭でのケアについてまとめました。

3歳の娘です。咳、鼻水が気になっていたところ、夜中に高熱を出し小児科を受診。RSウィルス感染症と診断されました。これは一般的な風邪とどう違うの?(クリックで回答をみる)

 RSウィルス感染症は、お子さんのように鼻水・鼻づまりなどではじまり、咳が出てきます。ここまでは、普通の風邪なのですが、このRSウィルスの特徴は、のどの奥や肺の中に侵入する場合が多いことです。はじめての感染だと、感染者の約2割が、気管支炎や肺炎などの「下気道炎」になるようです。しかも、3ヶ月頃までのあかちゃんでは呼吸が苦しくなることが多々あります。そして、1〜2%の子が入院し酸素吸入が使われ、その数%が人工呼吸器をつけて治療します。
 ですから、あかちゃんで呼吸が苦しそうだとか、お乳を飲めなくなる、などが気になれば早めに受診してください。いまのところ、薬で治す方法はありませんから、様態を見て、酸素が必要な子や、生後1ヶ月半頃までの子は、呼吸が止まらないかどうかモニターするために入院します。
 しかし、逆に8割のお子さんは、RSウィルスに感染しても、単なる風邪症状で終わります。
 しかも、2〜3歳までに、ほぼすべてのお子さんがRSに一度は感染します。ですから、大部分の感染は、単なる風邪で終わっているので気がつかないのです。
 一度感染して免疫がついても、また感染するというのもこの感染症の特徴です。RSウィルスには、A型とB型があり、両方にかかるといわれています。しかし、2回目、3回目の感染になると、症状は軽くなり、多くは風邪症状で終わってしまいます。お子さんが単なる風邪だと思っていたのにRSに感染していたということはいくらでも起こりうることなので、ほかの感染症と同様、症状が軽ければ心配することはありません。

Cooyon 2012.01
4歳と0歳の子どもがいます。上の子が通う保育園でRSウィルスが流行していると聞きましたが、予防策はありますか? 乳児がかかると肺炎など重症化しやすいと聞き、万一上の子がかかり下の子にもうつったらと心配です。(クリックで回答をみる)

 ご心配されているように、RSウィルスは重症化することが多く、わたしたち小児科医にとってはインフルエンザよりずっといやな病気です。とはいっても、入院するのが100人に1〜2人ですから、あとの98〜99人は家庭で充分対処できる病気です。
 いま、マスコミがさかんにこの病気の怖さを宣伝しているようで、おかあさん方からよく質問されます。そのときは、すべてのお子さんが一度はかかる病気であること、98%は入院しないでいること、日本の医療体制では死亡したり障がいを残したりすることは極めてまれで、たとえば京都府で2003年から3年間で人工呼吸をしたのは9人だったことなどをお話しします。
 とはいえ、生まれて間もない子がかかると入院する割合が高くなるので、できるだけうつさないほうが無難です。とくに〈未熟児〉で生まれた子などは重症化することが多いので注意が必要です。しかし、感染してもその8割が風邪症状で終わり、かつ症状が治まっても乳児では3週間ほどウィルスを保持していますので、感染防御は難しいのです。そこで〈未熟児〉など重症化しやすいお子さんには、シナジスという注射をします。高価な薬ですが効果はかなりよく、32週(日本では35週)以前に生まれた子には使うほうがよいことになっています。
 通っている園でRSが出たときは、上のお子さんは生後2ヶ月頃までのあかちゃんにはできるだけ近づかないことや、マスク着用、手洗いなど、風邪同様に一般的な予防法を用いる程度しかできることはありません。

Cooyon 2012.01

受診のタイミング・家庭でのケアのポイント

 一度でも呼吸が止まったり、ぐったりしていれば、すぐに受診してください。あかちゃんがお乳の飲みが悪くなって苦しがるときも受診が必要です。生後3ヶ月を過ぎていれば、鼻水や咳が出ていても、元気でお乳もよく飲むときは心配ありません。
 この病気は、寒い季節に多くなります。冬の室内は暖房され、湿度も低くなっています。あまり湿度が低いと、たんが固くなって呼吸もしにくくなる可能性がありますので、適度に加湿することをおすすめします。薬ではあまり効果がありません。
 また、喘息のお子さんの場合は、喘息が悪化する可能性が高いので、発作の治療と予防の薬を使用することが必要です。吸入ステロイドを使用している方は、(咳があれば気管支を広げる薬を吸入した後に)量を増やして吸入してください。
 最後になりましたが、RSウィルス感染症にかかると喘息やアトピーになりやすいという意見もありましたが、いまではそれは間違いであることが判明していますので、ご心配なく。

Cooyon 2012.01

一般の「風邪」との違いについて

RSウイルス感染症の流行に伴い、「乳児がかかると重症化しやすい」などという報道も目にしますが……。そんなにコワイ病気なの? 風邪との違いって? 小児科医の林敬次さんにうかがいました。

生後6ヶ月の子どもがいます。RSウイルスは乳児が感染すると重症化しやすいと聞きますが、一般的な風邪とどう違うの? 風邪かなと思ったら、念のため小児科で調べてもらったほうがよいのでしょうか。(クリックで回答をみる)

 この冬は、RSウイルス感染症が大変流行しているようです。症状が単に鼻水だけでも「RSウイルスが心配です」
と、診察にお見えになる方がとても多いのは、マスコミが恐ろしそうに報道しているためかもしれません。
 RSウイルスに感染すると、最初は鼻水や咳が出るなど、一般の風邪と変わりません。しかし、RSウイルス感染者の2割は、肺の中を通っている管である気管支の炎症や肺炎などを起こします。1〜2%のお子さんが入院し、その数%が人工呼吸を必要としているようです。とくに、未熟児の場合は重症化の率が高いので、後述の予防の注射をすることがあります。また、生後3ヶ月頃までのお子さんには注意が必要です。
 しかし、逆に考えると、RS感染者の8割のお子さんは単なる風邪症状で終わるわけです。また、2歳までにほぼすべてのお子さんがRSウイルスに感染します。ご質問のお子さんのように生後6ヶ月を過ぎれば重症化することはまれです。
 一度感染して免疫がついても再び感染します。しかし、2度目、3度目になると症状もより軽くなり、単なる風邪症状で終わることがいっそう多くなります。いずれにしても、鼻や咳があっても、元気でお乳をよく飲むなら急いで受診する必要はありません。最近は、すぐRSウイルス検査をして大騒ぎをする医者もいるようですが、受診したり入院するのは、あくまで症状が悪いかどうかで判断すべき。検査はその判断の助けになるだけです。

Cooyon 2013.02
ふだんからあかちゃんを連れて買いものなど外出をすることも多いのですが、もしどこかでRSウイルスに感染して、重症化した場合にはどうしたら? また、どんな治療が施されるのでしょうか。(クリックで回答をみる)

 重症化するかどうかは、未熟児かどうかや月齢、心臓や肺に慢性的な病気をもっているかなどで決まります。重症化するとふきげんさが増し、母乳やミルクが飲めなくなります。「ゼイゼイする」と受診される方も多いのですが、重症化していることにほとんど気づいておられないこともあります。RSウイルス感染に限りませんが、ミルクを飲めない、元気がなくなるなど、全体的な症状が悪くなれば、早期の受診が必要です。
 この病気に対する有効な薬はありません。肺の機能が落ちて血液への酸素の供給が落ちますので酸素を吸入します。また、ミルクなどの摂取が少なくなりますので、点滴で水分を補給します。いずれも入院が必要です。
 それ以上に重症化しますと、人工呼吸器をつけることになります。前述のように、まれに人工呼吸器をつける必要があるのですが、京都府下74施設の調査では、2003年からの3年間で、人工呼吸をしたのは9人だったというデータもありますので、それほど多いことではありません。
 喘息のお子さんでは、RS感染を契機に発作が強くなり、呼吸困難で入院する場合もけっこうあります。喘息のお子さんの場合は、喘息発作の予防をしっかりすることが重症化を防ぐことになります。
 ところで、RSウイルスに感染すると喘息やアトピー性皮膚炎になりやすいとも言われていましたが、それは間違いです。2歳までにたいていの子がRSウイルスに感染するのですから当然ですね。下段のコラムにあるように高価な薬の販路を拡大するため「専門家」がつくり出した説のように思えてなりません。

Cooyon 2013.02

効果的な予防策ってありますか?

 たとえば、生後6ヶ月以上のお子さんなら、上のきょうだいが仮にRSウイルスに感染したとしても、一緒にあそぶことも多いでしょうから伝染を防ぐのは難しいのですが、この年齢では、かかってもたいていは風邪症状で終わります。
しかし、ご家庭に生後3ヶ月までのあかちゃんや、とくに未熟児だったり、呼吸器・心臓系の病気をおもちのお子さんがいる場合には、予防の努力はすべきです。家族がマスク、手袋(よりよいのがプラスチックの使い捨て手袋)、ガウンなどを着用すれば、呼吸器感染の伝染をある程度防ぐことができます。
 予防薬として使われているのが、パリビズマブという注射薬です。この薬により入院率は半分ほどになるようです。ただ、たとえば妊娠28週未満で生まれたお子さんだと140万円ほどかかるとても高価な薬なので、現在は未熟児や心臓や呼吸器系の慢性的な病気をもっている子に限って保険が適応されています。

Cooyon 2013.02

知っておきたい基礎知識

乳幼児がかかる原因不明の「難病」といわれる川崎病。近年全国で急増しているというニュースもあるだけに、症状や治療法など、基本的な情報は知っておきたいもの。小児科医の林敬次さんに現状をうかがいました。

先日、立て続けに複数の知人から「子どもが川崎病にかかった」との話を聞きました。1歳前後の子に多いと聞きますが、どんな病気? また、空気感染することもあるのでしょうか?(クリックで回答をみる)

 川崎病という病名は、川崎富作医師が発見した病気であることから名づけられました。
 ご質問のように、川崎病はちいさいお子さんに多く、65%程度が0〜2歳、80%弱が4歳以下で発病します。
 おもな症状としては、5日以上の熱、目が充血して真っ赤になる、口の中・舌・くちびるもイチゴのように赤く、皮膚に発疹が出て、手のひらや足の裏が赤くなり少し腫れる、首のリンパ節が大きくなって痛い、などの症状が出る病気です。溶連菌感染症、麻疹やプール熱などの似た症状の病気とは、川崎病の診断基準で区別します。また、たとえば発熱の期間が5日間以内でも、ほかの症状が典型的であれば川崎病として治療を開始する場合もあります。
 この病気では、全身の血管の炎症が起こります。たいていとてもつらそうで、ぐったりします。とくに重大な問題は、心臓の筋肉に酸素と栄養を送っている血管(冠動脈)に炎症が起こり、その部分が弱くなり、5%の子で風船のようにふくれて(冠動脈瘤)、そこに血が固まって血が通りにくくなり、ごく一部のお子さんが後に心筋梗塞を起こすことがあることです。
 以前はこの心筋梗塞のため突然死することも多々ありましたが、現在では治療により激減し、死亡率は川崎病患者1万人にひとり程度とされています。ほかにも心臓の筋肉自体の炎症など、さまざまな病変が起こることがあります。
 実際のところ、この病気の原因はわかっていません。ある地域で連続的に発病する現象を示すことがありますが、空気感染が起こるのかどうか、予防策があるのかどうかもわかっていないのが現状です。

Cooyon 2013.01
もし川崎病にかかったら、どんな治療をするの? また、治療期間はどのくらいかかる? 子どものからだへの負担が心配です。(クリックで回答をみる)

 川崎病と診断がつくと、ガンマグロブリンという血液製剤を大量に点滴します。これにより心臓の合併症が激減しています。最近では大量を一日で点滴してしまうのがもっとも効果的とされています。これにより、かなりのお子さんが数日中に熱が下がり元気になりますが、ときには(15〜25%程度)なかなか熱が下がらず再度この薬を使用する場合もあります。また、2度目はステロイド剤などを使用する医療機関もあるようです。
 ガンマグロブリンの点滴は量が多いためか、つらそうにするお子さんが多い印象があります。しかしそれが点滴によるものか病気そのものによるものかはわかりません。また、併せてアスピリンという薬を少量、2〜3ヶ月継続して投与しますが、その利益ははっきりしていません。
 入院後しばらくの間は、心臓やそのほかの器官に問題が起こらないかどうかを見ていきます。お子さんのからだへの負担は、それらの問題の生じ方によるでしょう。いまでは、超音波検査の性能が大変よくなりましたので、心臓はおもにこの検査で経過を見ます。この検査自体は痛くはないのですが、ちいさいお子さんは恐怖で泣き暴れることがあります。また、超音波で冠動脈拡大(出現率13%)、冠動脈瘤(同2%)などの問題が見つかったり、そのほかの部分の異常があればそれに応じた検査や治療をしますので、それもまた負担です。合併症がない場合、発病後12日頃につくられる冠動脈瘤がないことを確かめれば2週間程度で退院できると思いますが、病院によって差があるようです。

Cooyon 2013.01

いま川崎病が増えているのは放射能の影響?

 川崎病の患者数は1960年代後半から現在まで、どんどん増加しています。
 川崎病全国調査によると、10万人当たりの発病率は、197 2年頃は10人程度でしたが、2 008年では218・6人(5 00人弱にひとり)で、日本全体で1万1756人にも及んでいます。
 なお、この間に、極端に増えた年があります。1979年、1982年、1986年には突然、その前後の年の1・5〜2倍ほどに急増しています。19 87年からは80人程度になり、なだらかに増えています。
 急激に増加したのが1986年だけなら、チェルノブイリ事故の影響も考えられますが、そのほかの急増は説明がつきません。とはいえ、福島原発事故があった昨年以後の統計にも充分な注意が必要かとは思います。
 世界中で発生していますが、とくに日本やアジアで多い病気です。溶連菌などの感染症や環境中の化学物質など、これまで原因がわかったかのような多数の「研究」が発表されてきましたが、いまだに原因がわからない病気です。

Cooyon 2013.01

「喉が痛い」なら要注意?

新たに集団生活をはじめる子どもたちも多い春。その感染力の強さから、溶連菌感染症にかかる子が増える季節とも言われます。喉の痛みからはじまると言われますが、どんな病気? 林敬次さんに伺います。

1歳の娘が通う保育園のクラスで、溶連菌感染症にかかった子がいると聞きました。昔は猩紅熱といってこわい病気だと言われていたと聞きますが?(クリックで回答をみる)

 溶連菌とは、「溶血性連鎖球菌」という細菌の名前の略称です。その菌に感染すると、さまざまな病気が引き起こされますが、大部分は次のような症状を起こします。
 この病気で受診されるほとんどのお子さんは、のどの痛みを訴え、それだけで終わる子もいます。それに咳や熱が加わることも多く、さらに頭痛や嘔吐を伴う場合もあります。また、舌がイチゴのように赤くなり、唇も赤く、目が充血し、よく見ないとわからないほどちいさい発疹が、おなかや全身に出ることがあります。これは下腹部を見ると出ていることがわかりやすいです。手のひらも赤くなることもあり、ときには1週間ほどで指先から手にかけて皮膚がむけてくることがあります。
「猩紅熱」というのは、これらの症状がフルコースで出てしんどい状態と考えてよいかと思います。逆に、溶連菌に感染していても症状がなかったり、上記の症状の一部だけの場合も多いのです。
 ほとんどの場合、治療しなくても数日で治まってしまうようですが、抗生物質を飲むと1〜2日以内で元気になります。この病気の問題は、たまに感染の1〜3週間後に急性腎炎になることがあること、極めてまれですが「リウマチ熱」という重症の病気の原因になることです。
 1歳などでは、あまり典型的な症状は出ることもなく、また、合併症も急性腎炎の報告も、ほぼないようです。症状があれば、治療の対象にはなるかと思いますが、心配されているような恐い病気ではありません。

Cooyon 2013.04
4歳の息子です。高熱が出て全身に発疹が広がり病院へ。溶連菌感染症と診断されました。処方された抗生剤を服用すると2〜3日で回復。いまは元気にあそんでいるのですが、10日分ほど残っている抗生剤はもう飲ませなくてもよいものでしょうか?(クリックで回答をみる)

 お子さんのように一般的な溶連菌感染症は、抗生物質を飲むと1〜2日ですっかり元気になります。でも、ほとんどの小児科医はペニシリン系やセファロスポリン系の抗生物質を10〜14日分出します。これは世界的な教科書にも書いてある治療法です。長期に飲むことのおもな目的は、極めてまれですが恐い合併症であるリウマチ熱や、たまに起こる急性腎炎を防ぐことだとされています。そのほか2〜3日で止めると「再発」が多いためだという説もあります。
 わたしもこれほど長期に抗生物質を飲む必要があるかどうか疑問に思ったことがあります。世界的な教科書にも明確な根拠は示されていませんでした。とても信頼できるコクランという研究団体が世界の研究を検討したところ、3〜6日間の「短期治療」と7日以上の治療では、溶連菌の再発や合併症に差はなかったとの結果が。困ったわたしは、いまのところ世界的教科書との折衷案として、7日間の服用をお勧めしています。
 ちなみに、溶連菌はとても感染が広まりやすいので、保育園や学校を「発症から、適切な抗生剤治療がなされ24 時間を経て全身症状が回復する」まで休むことになっています。つまり一日抗生物質を飲めばほとんどうつらないということです。その後は、普通の生活をして、元気がなくなったり顔がむくれてきたりするようなら受診していただくことになります。
 なお、溶連菌に感染した後、後日おしっこを検査するのは急性腎炎が起こっていないことを確認するためです。

Cooyon 2013.04

もしも大人にうつったら?

 大人の場合、溶連菌にかかっても少し喉が痛い程度で終わることがほとんどで、リウマチ熱や急性腎炎になることはまずありません。ですから、症状が軽ければ治療しなくてもよいのですが、たまには扁桃腺や首のリンパ腺が腫れて、高熱まで出される大人を診察することがあります。抗生物質を数日飲むとほとんどおさまります。
 内科や耳鼻科では、風邪でもやみくもに抗生物質を出す場合が小児科より多いようです。風邪に抗生物質を使うのは間違いですが、溶連菌感染には抗生物質の使用は正しいことになります。しかし、診断をきちんとつけて抗生物質を出すことは、何科であっても必要です。そのためにも、お子さんが溶連菌感染症になっていることを大人の主治医にも伝えて、正確な診断と治療を求めるべきかと思います。
 最後になりましたが、以上の説明は溶連菌感染のほとんどを占める喉への感染についてです。溶連菌は、ほかに「とびひ」など皮膚の浅い部分に感染したり、まれに皮膚の深くに進入して「丹毒」を起こしたり、極めてまれですがショックを起こすようなこともある細菌です。

Cooyon 2013.01

夏に多い細菌性の食中毒について

夏は何かと冷たいものや、生ものを口にする機会が増えてきます。それに伴い、気をつけたいのが食中毒。夏に多い嘔吐・下痢について、その予防策や家庭でのケアなどを、小児科医の林敬次さんにうかがいます。

2歳半の子どもです。食物アレルギーもなく、ほとんどの食品が食べられるようになりましたが、刺身は何歳頃から食べさせていいもの? 生ものは食中毒などが気になりますが……。(クリックで回答をみる)

 生の魚を食べさせるのは、一般的には2〜3歳を過ぎてからとされていますね。食材が生ではご心配の食中毒がまず考えられますが、アレルギーの問題もあります。鶏卵のように、火を通したものではアレルギー症状が出なくても、生では症状が出る場合もありますので、最初に食べるものは生を避けるべきでしょう。
 今回はご質問に沿って食中毒の面から考えてみます。食中毒を引き起こす微生物は、大きく分けてウイルス(ノロウイルスなど)、細菌(サルモネラなど)、その他寄生虫(サバのアニサキスなど)です。ノロウイルスは、カキや二枚貝が持っているもので、食中毒のなかでももっとも多い患者数が報告されています。魚の刺身自体にはもともとついていないのですが、貝を触った手や包丁、調理された刺身から移る可能性はあります。細菌性では、魚や貝からは腸炎ビブリオやセレウス菌などが移ります。腸炎ビブリオの症状は、腹痛や嘔吐・下痢がおもな症状のようです。
 いずれにしても、ちいさなお子さんでは、ウイルスや細菌の感染自体を防御する機能が弱いこと、発病すると大人と比べ脱水など重症化しやすいことがあるので、根拠となるデータは見つかりませんでしたが、多くの幼児食の本に書いているように、生魚を食べさせるのは、できれば3歳以上が無難かと思います。
 まずは、新鮮な食材を選ぶこと。お子さんに食べさせるもの以外に、生魚や貝に触れた手、調理器具からの感染がないよう十分洗い、火を通すことが予防法と思います。

Cooyon 2013.07
4歳の息子は、乳児の頃から嘔吐しやすい子です。夏は食中毒も多い季節ですが、風邪の場合の嘔吐・下痢と、食中毒の嘔吐・下痢との違いは、どう見極めればよいでしょうか?(クリックで回答をみる)

 食中毒というのは、食物を介して生じる病気であり、下痢や嘔吐に限らず、ふぐ中毒のように、毒物により神経が傷害されるなど多くの原因物質と症状があります。ですから、食中毒の嘔吐・下痢と、そのほかの嘔吐・下痢は、食物を介しているかどうかが違うだけです。
 嘔吐・下痢の原因のほとんどは、ウイルス性の腸炎です。それらが、風邪症状(咳や鼻水)を伴う場合と、伴わない場合があります。前述のノロウイルスなどは、風邪症状を伴わず食物を介して感染し嘔吐・下痢を引き起こしますが、食物を介さずひとからひとへも感染します。
 夏場になって多くなるのが、細菌性の嘔吐・下痢です。サルモネラ、キャンピロバクタ、病原大腸菌O−157などがよく知られています。これらの下痢便の特徴は、少し症状が重くなると、便に粘液(痰のようなもの)や血液が混じっていることです。サルモネラ、キャンピロバクタでは、重症化することはまれですが、乳児では注意が必要です。O−157は真っ赤な血便が大量に出ることがあります。
 おしっこが12時間以上出ない、元気がなく、ぐったりしている場合は、脱水などで重症化した場合ですから、原因の如何を問わず、夜間でもすぐ受診してください。また、血便の量が多ければ元気でも早く受診したほうが無難です。粘液便や血液もごく少量で、元気ならあわてる必要はありませんが、受診はしてください。嘔吐・下痢だけで、元気で、水分も少しずつ飲めるようならようすを見てください。

Cooyon 2013.07

嘔吐・下痢 家庭でできるケア

 上記のように、食中毒にはいろいろな症状がありますが、今回は嘔吐・下痢に限って述べます。
 嘔吐のときは、とりあえず「飲まず食わず」でいることです。嘔吐が数時間なく、水分などをほしがるようになれば、水分を少しずつ与えてください。一気に飲むとまた吐くことも多いので、最初はなめる程度とし、徐々に増やしていきます。飲むだけでは承知せず、食べものをほしがるなら、ごはん類など消化のよいものからごく少量ずつ与えてください。それでも吐くなら、最初からやり直してください。水分はブドウ糖と電解質(Na、K、Cl)が適量入った乳幼児用の「イオン飲料」が適しています。それをいやがるようなら、水か番茶で代用します。
 下痢だけなら、水分を摂らせることと、ほしがれば親が量を抑えながら、世間で言われている「消化のよいもの」から与えてください。「下痢にはくだものは適さない」という、ある程度厳密なデータがあります。また、世界的な教科書には、脂っこいものは避けるように書いてあります。

Cooyon 2013.07

プールの時期に気になります!

夏、プールの季節。この季節になるとよく耳にするのが「水いぼ」や「プール熱」といった症状。水いぼができるとプールに入れないって本当?プール熱って、プールで感染するの? 何かと感染症の多い夏によく聞くこれらについて、おさらいしましょう。

3歳の息子です。最近、ひじ周辺にちいさな白い水泡のようなものが3〜4個出ているのに気がつきました。これはもしや水いぼ? 水いぼになると園でプールに入れないと聞きますが、本人は痛くもかゆくもないよう。やはり一度受診するべき?(クリックで回答をみる)

 ご質問の「白い水泡のようなもの」は、水いぼだと思います。大きさは直径1o以下〜10o以上までいろいろですが、最近はちいさいものが多いようです。水いぼをよく見ると、中心に白いものが見え、つぶすと種のような白い粒が出てきます。この粒をつくっているウイルスが、同じ子どもや他人の皮膚に接触してうつっていくのです。発病年齢は2〜3歳がピークです。
 水いぼは自然に治癒しますが、治るまでの期間は個人差が大きく、平均6〜9ヶ月、まれに数年にもなることがあります。世界中の研究を集めて評価した「コクラン共同計画」の研究結果では、科学的に効果が証明された治療法はありません。ただ、水いぼの周囲に湿疹などができてかゆみを訴える場合や、ひっかいたところから細菌が入って赤く腫れれば、受診は必要になります。また、水いぼかどうかわからず不安ならば、受診されてはどうでしょうか?
 以前は、水いぼがあると保育園・幼稚園などのプールに入れてもらえないことがありました。しかし、文部科学省は1999年に「プールや浴槽内の水を介して感染はしないが、ビート板や浮き輪、タオル等の共用は避ける」として、プールに入ること自体は認め、厚生労働省も同様の意見になっています。プールを控えることはありませんので、もし園などでプールに入れてくれないようなら、文科省や厚労省の文章をインターネットで探して、担当者にお見せすればよいと思います。

Cooyon 2013.08
プール熱が気になります。4歳の娘はプールが大好きなのですが、これはプールでうつる病気なのでしょうか? プール熱にかからないために気をつけることはありますか?(クリックで回答をみる)

 プール熱は、病名「咽頭結膜熱」といいます。喉が赤くなり、眼が充血して、熱が出るのが典型的な症状だからです。39〜40℃の熱が数日間続くことが多く、夏の感染症の中では症状が重いほうです。
  この病気を引き起こすのはアデノウイルスです。このウイルスは多くの種類があって、種類によってはプール熱のほかに、「流行性角結膜炎」というけっこう重い目の病気や、下痢や嘔吐の腸炎、高い熱が続く扁桃炎を起こすものなどがあります。健康なひとでは自然に治る病気で、特別な治療法はありません。
 夏に流行するので「プール熱」と名づけられていますが、普通に塩素消毒されたプールの水からはうつることはないようです。むしろ直接的に患者の目や口を触ったり、便に触れた手からうつるようです。また、ウイルスがついたタオルなどから間接的にうつることもあるようです。
 感染を防ぐ方法は、患者の隔離、保護者や保育士など、子どもを世話する方々の手洗い、患者が触ったおもちゃなどを塩素系消毒剤で消毒をする、などです。プールでは、タオルなどは一人ひとり別のものを使い、シャワーを浴びて目を洗うという、一般的な対策でよいと思います。
 熱などのおもな症状が消えて2日経てば集団に戻れます。しかし、ウイルスはその後も排泄されていることもあるので、完全に予防することはなかなかできません。前述のように、かかっても自然に治る病気で、抵抗力もつきますので、それほど神経質になる必要はありません。

Cooyon 2013.08

水いぼの治療はいらないの?

 水いぼは、痛みもかゆみも感じず苦痛はありませんので、基本的に治療は必要ありません。しかし、すぐに目につく皮膚の病気なので、これまで多くの治療法が試みられてきました。個々のいぼをピンセットなどで機械的に除去したり、液体窒素や硝酸銀などで処置する方法は、肉眼で見えるいぼを一時的にはなくせますが、また別の場所にいぼが出てきます。痛みを伴い、治癒までの全体的な期間を短縮できるものではありません。塗り薬も効きませんし、飲み薬などの全身治療も効果を示す科学的証拠はありません。ただ、スイミングスクールなどで、どうしても取るよう言われたときなどは、一時的にいぼを除去せざるを得ないことがあります。
 そのほか、水いぼの周囲に湿疹ができて、それがひどくなれば、湿疹に対して軟膏の塗布などが必要になります。また、水いぼをひどくひっかいた後、そこから細菌が入り、赤くなって腫れれば治療が必要になります。これらは、水いぼそのものより合併症に対する治療になります。

Cooyon 2013.08

車酔い対策と予防薬のこと

かぞくで、園で、車で遠出する機会も増える行楽シーズン。車酔いしやすい子にとっては、長距離移動がしんどいことも。車酔いのメカニズムや対策、予防薬の安全性のことなどを小児科医の林敬次さんにうかがいます。

3歳の息子です。車で少し遠出することがあると、車酔いすることが増えてきました。これは今後もずっと続くのでしょうか? 何かよい車酔い対策があれば知りたいです。(クリックで回答をみる)

「遠方にある実家に帰るのですが、いつも車酔いをしてかわいそうだし、吐かれると大変ですので何とかなりませんか?」といった相談はときどき受けます。確かに、たのしいはずの旅行が吐き気などで苦痛なものになるのはかわいそうです。
 車酔いの症状は、吐き気が代表的ですが、一般には嘔吐したり、顔が蒼白になったり、冷や汗が出て、「ハーハー」と呼吸が早くなったり、頭痛がしたりします。こうなると、景色をたのしむどころではないわけですね。
 下段のコラムでも書いていますが、車酔いのメカニズムは、耳の平衡感覚や視覚、筋肉など、さまざまな感覚それぞれのズレが急速に生じることによって、それについていけなくなって生じます。ですから、できるだけそれらのズレを生じさせることなく、生じてもゆっくりにする方法が車酔い対策となります。また、強い臭いなどの刺激でも生じることがあります。
 車酔いを緩和する方法としては、具体的に次のようなことが提唱されています。
 あまり動かない(車の前席、飛行機なら翼の上、ボートなら中央に座る)。窓などを開けて新鮮な空気を吸う。タバコやいやな臭いは避ける。可能なら目を閉じて上を向いて眠る。本を読んだりビデオを見たりしない。動いているものを見ない。できるだけ頭をあまり動かさず前方の水平方向を見るようにする。3時間以上前に軽い食事を摂る以外は食べない。食べるとしても脂肪分の多いものやスパイスの効いたものはやめる。
 しかしながら、それでもなお車酔いは防げないことも多いようです。そんなときは、次の手段として、予防的に薬を飲むことになります。

Cooyon 2013.11
6歳の娘です。遠足の日に、車酔いが心配なので市販の「酔い止め薬」を飲ませたところ、効果があったよう。今後もたびたび飲ませて大丈夫?(クリックで回答をみる)

 酔い止めの薬がよく効いたと、何回も薬をもらいに来る方がいます。心理的なことが影響しやすい病態にはウソの薬でも効くことが多いのですが、以下はウソの薬と比較しても効果は明らかのようです。
 その第一が、スコポラミンという薬です。これは車酔いにもっとも効果的な薬で、世界中の研究を集めて評価しているコクランというグループもその効果を認めています。この薬は、平衡感覚器から脳への信号や、吐き気の信号を抑制する働きがあります。車などに乗る30〜60分前に服薬すると72時間は効果があります。副作用はめったにありませんが、喉が渇いたり、眠たくなったり、まれに目がかすむことがあります。
 もうひとつ、よく使われる薬が、抗ヒスタミン剤です。これはアレルギー性の病気によく使われますが、車酔いにも効果があります。しかし、スコポラミンよりは効果が弱いようです。抗ヒスタミン剤には、多くの種類があります。古くからあるものはより眠たくなりますが、よく効きます。スコポラミンよりは副作用は少ないので、わたしはこれを使うことが多いです。
 多くの市販の車酔い止め商品には、上記の2種類の薬が入っています。使用量を間違わないようにすれば安全ですので、使ってよい薬だと思います。ただし、酔ってからだと薬はほとんど効果がないので乗る前に飲むのが大事です。

Cooyon 2013.11

あかちゃんは 車酔いしない?

 車酔いはどうして起こるのか? もっとも広く使われている説明は、耳や目などからだのいろいろな器官から入ってくる感覚がいつもと違って混乱する、ということです。たとえば、車や電車に乗っていると、からだは運動していないのに、外を見ていますと景色がどんどん変わるため、視覚とのズレができますし、揺れたり傾くと、耳の「内耳」というところが感じる平衡感覚とずれます。手ブレの激しいビデオを見るとむかむかするのもそのひとつです。
 文献的には、2歳までは車酔いする子は少ないとされています。まださまざまな感覚が安定していないので酔わないのかもしれませんが、本当に車酔いをしないかどうかは、わからないと思います。まだむかむかするなどの表現ができませんし、吐くことはよくありますので、車酔いとの区別もつきにくいと思います。
 車酔いをよくする子としない子の違いはわかりませんが、大人になると酔わなくなることが多いのでそれを期待しましょう。

Cooyon 2013.11

園でも家でも大騒ぎ?

集団生活をするなかで、ひとからひとへ感染しやすい「アタマジラミ」。 ふだんから清潔にしていても感染するといいますが、 予防するにはどうしたら? また、殺虫用のシャンプーの安全性って? 小児科医の林敬次さんにうかがいました。

娘(3歳)が通う保育園でアタマジラミが流行中とのこと。0歳の下の子も同じ園に預けているので感染が心配です。感染を防ぐにはどうしたら?(クリックで回答をみる)

 アタマジラミは、シラミをもった子と頭をくっつけ合うと移ります。ほかに、シラミをもった子のタオルや枕、帽子などを使うことでも移ります。移るとその子の髪の毛に卵を産みます。卵は適温では7〜10日でふ化し、さらに7〜10日で成熟して再び卵を産みます。22℃以下ではふ化しないそうです。卵から次の卵までは3週間ほどの周期です。
 成虫はあまり見かけませんが、顕微鏡で見ると蜘蛛のようなグロテスクな形をしています。成虫はノミのように跳んだりはねたりしないそうですが、一度患者さんの頭の卵を見つけようとしたところ、成虫が診察机の上に落ちたので大騒ぎしたことを思い出します。その後、2〜3日は頭がかゆい気がしました。床に落ちたシラミが再び這い上がり移ることはないとのことですが、人間のからだを離れても成虫で7〜10日、卵で10日間ほど生き残れるようですので、帽子や衣服などから移るわけです。
 乳児の場合、髪の毛が短く少ないためかあまり見かけませんが、移る可能性はあります。感染の予防は、なかなか困難です。きょうだいがかかった場合は、その子の衣服を温水洗濯(60℃では5分で死ぬそうです)するか、ドライクリーニングに出します。また、アイロンをかけると一瞬で卵も死にます。髪の毛は短いほうがよいのでしょうが、切らなくとも髪の毛を束ねてアップにしておくと感染しにくいそうです。

Cooyon 2014.01
息子(6歳)が幼稚園でアタマジラミに感染。指定された専用シャンプーの成分表示を見ると、まさに「殺虫剤」そのもの。こんな有害成分を幼児の頭に何度も使用して大丈夫でしょうか。(クリックで回答をみる)

 ご質問の方がされたように「患者の家族は全員同時に治療を受けなければならない」などとオーストラリアの信頼できる教科書には書いてあります。  治療には、薬と、専用くしで物理的に取り除く方法があります。薬ですが、日本では一般名がフェノトリン、商品名はスミスリンが、シャンプータイプと粉末タイプで使われています。世界的にはほかの薬がよく使われており、最近はより副作用が少ないベンジルアルコールなどが試験されています。
 アタマジラミはれっきとした感染症ですから、その治療のための薬代は健康保険で支払われるべきですが、実際は自費で2、000〜3、000円ほどかかります。髪を濡らして薬をつけ、5分放置後洗い流すことを一日1回、3日に一度、3〜4回くり返すことになっています。
 スミスリンは皮膚への刺激により赤くなったりする副作用があるようです。もちろん誤飲しないように厳密に使用し、子どもの手の届かない場所に保管しておくべきです。安全性はそれほど悪くないようで、誤飲しても牛乳などを飲ませて経過を観察する部類に分類されているようです。
 それでも、危険性はありますから、薬以外の方法のほうがよいかと思います。専用のくしを使ってシラミ、とくに卵をすき取る方法があります。ネットを見ますと、さまざまなくしが販売されています。かなり面倒な作業であり、価格も数千円するものが多いので、買う前に使用法を見て、できそうなものを選ぶことをおすすめします。くしは園や保健所などで貸してくれるところもあるようです。
 当然ですが、薬とくしを両方使えばよりよい結果が出るとの意見があります。

Cooyon 2014.01

アタマジラミの見つけ方

 わたしの診療所に来られるお子さんで、かゆいかゆいとおっしゃる頭じらみの方は少ないです。とくに症状がなく、保育士さんや幼稚園の先生に指摘された方がいちばん多く、大人が髪の毛の白いものに気づいた、などがきっかけで来られます。
 髪の毛にちいさいフケのようなものがついていたら指で触ってみてください。シラミの場合はそう簡単に取れません。ルーペで見ますと、髪の毛に、お米のような形をした、何か生物を感じさせる半透明で中の構造が見える卵がひっついています。不定形で少し触ると形が変わるのはフケです。卵の大きさは0.5o程度です。わたしは、顕微鏡で40倍に拡大して見て判断していますが、おかあさん、おとうさん方なら、ルーペ程度で判断がつくかと思います。
 見つけても応急処置というような大げさなことは必要ありません。ほかのご家族もかかっていないか点検することぐらいでしょうか。園などには一応届けたほうがよいかと思います。

Cooyon 2014.01
ちょくちょく熱を出す乳幼児。でも、熱があっても意外と元気なことも多いもの。子どもの発熱をどう見守る? 病院へ行くタイミングって?(クリックで回答をみる)

まずはここをチェック

 うとうとするばかり、目が合わない、いつもはよろこぶことや痛みを感じることにも反応しない、顔色が悪い、呼吸がおかしいなどが、重症感染症の場合に起こりやすい症状です。熱の高さより、ぐったりしている、いつもと違うといった「全体的な元気のなさ」が判断の目安です。
 親自身が「わが子が大変そうだ」と感じていることが大事なので、決してそれを無視してはいけないと、先輩方におしえてもらいました。これは多くの小児科医の共通の認識になっています。さらに言えば、このことを無視して誤診してしまった経験がそう言わせているのです。ですから、親が「これは尋常でない」と感じれば、早く受診したほうがよいのです。たとえそれが間違っていても構いません。

家庭での緩和ケア

 熱が出ると頭に冷感シートを貼って来院する方が多いのですが、このシートで熱を下げることは不可能です。でも、それがかえってよいのかもしれません。なぜなら、熱は基本的に下げないほうがよいからです。多数の動物実験のデータを集めると、薬を使って体温を下げた場合、病気の動物の死亡率が明らかに高くなります。薬を使わなくても、空気など環境温度を下げて冷やしても同様です。人間を対象にした観察結果も、熱を下げると病気が長引いたり重症化することがわかっています。逆の結果はほぼありません。
 発熱は、侵入してきた病原微生物をやっつけるための、重大な手段です。哺乳動物は皮膚の血管が収縮して血液を通りにくくしたり、震えることなどで体温を上げますが、このとき(体温が上昇している途中)に冷やすとかえって気持ちが悪くなります。逆に、熱が下がるときには、少々冷やすと気持ちよくなります。
 以上を考えながら、「本人が気持ちよさそうなことをし、気持ち悪そうなことはしない」というのが基本です。

こんなときは病院へ

 月齢によって大きく変わります。生後1ヶ月未満では38℃以上あれば入院になる場合が多いのですぐ受診します。生後3ヶ月以内ならある程度元気でも早めに受診を。生後3〜6ヶ月では、お乳の飲みが悪いとか、元気がなければ早い受診が望まれます。6ヶ月以降ならさまざまなウイルスに感染するので、軽症の発熱の機会が多くなります。まずまず元気なら、夜中なら朝まで待ったり、1日ほどはようすを見てもよいかと思います。しかし、元気のなさがいつもと違うと思ったら早めに受診を。3歳までは重症になる病気の割合が多く早めの受診と検査が必要な場合が多々あります。3歳以後は、前述のように全身状態が悪いときはすぐ受診しましょう。

Cooyon 2014.04
園ではプールもはじまり、肌の露出も多いだけに、ちょっとしたプツプツも気になる季節。かゆみを伴うもの、赤く炎症したもの、発熱などの症状を伴うものなど、「プツプツ」にはさまざまな病気が考えられますが……。(クリックで回答をみる)

まずはここをチェック

 プツプツ(発疹)には、本当にいろいろな原因があります。夏に多いものでは「あせも」や「虫さされ」がその代表です。「アトピー性皮膚炎」や、黄色い汁が染み出てくる、あかちゃんの「脂漏性皮膚炎」などの湿疹もあります。これらは治療しなくてもよいものも多いのですが、場合によっては治療が必要なこともあります。
 急に出てきて、かゆみを伴い、場所が変化するのが「じんましん」です。細菌感染の「とびひ」は、水ぶくれになったあとで、それが破れてただれてきます。ウイルス性のものでは、ちいさくて透明な水疱ができる「水痘(水ぼうそう)」、中心に白い塊があって何ヶ月も続く「水いぼ」、手のひらや足の裏に水疱ができる「手足口病」など、紹介しきれないほどたくさんあります。そのほか「川崎病」や「関節リウマチ」などでも発疹が出ます。
 全身症状として、「発熱」の有無は、先ほどの多くの病気を診断するうえでとても重要です。体温を測ったらメモしておいてください。また、不きげん、食欲不振、グッタリ感、咳、嘔吐、ゼイゼイするなどの症状は、至急受診する必要があります。

家庭での緩和ケア

 とくに苦痛がなければそのままにしておいてよいと思います。「じんましん」の特徴があれば、薬局でじんましんの薬が手に入りますので、早く飲ませるとラクになります。かゆみが強い場合も、じんましんの薬が効くことがあります。
 とはいえ、やみくもに塗り薬や飲み薬を使うことはやめたほうがよいでしょう。局所的な痛みやかゆみは冷やすとラクになることが多いようです。とくに苦痛がなければ入浴してもよいのですが、痛みやかゆみが増すようなら控えましょう。
 湿疹など、皮膚表面がただれている場合、一般的にはお湯や水で洗い、清潔に保つのがよいと思われます。
 なお、プツプツの写真を撮っておくと、消えたり変化した場合にも、診断にとても役立ちますので、ぜひ実行してください。

こんなときは病院へ

 「じんましん」の場合、皮膚の症状だけならあわてることはありませんが、咳き込んだり息が苦しくなったり、グッタリするようなら、すぐ救急車を呼んでください。「虫さされ」の場合も同様です。「とびひ」と似て大きな水疱ができる病気もありますが、とくにあかちゃんで水疱が急速に広がる場合は、すぐに受診を。発熱を伴っている場合は、さまざまな感染症の可能性が高く、まれに「川崎病」などの全身疾患のこともあるので、これらも早めの受診が必要です。
 いずれにしても、グッタリしている、顔色が悪い、元気がない、などの全身症状があれば、すぐに受診しましょう。小児の多くの皮膚疾患、とくに全身の病気は、小児科医が慣れています。とりあえず小児科を受診して、皮膚だけの病気かどうかを知ることが必要です。

Cooyon 2014.07
まだからだが発達過程で バランス感覚が 不安定な乳幼児期は、 どうしても転びやすいもの。 ちょっとした転倒や転落で 「頭を打った」ときに あわてずにすむよう、 受診の見きわめや 家庭でのケアの基本を 知っておきましょう。 (クリックで回答をみる)

まずはここをチェック

 「頭を打った」と、小児科に来る子のほとんどは、元気でまったく正常な動きをしています。多少こぶができていることもありますが、診察上もとくに異常を認めないことがほとんどです。このような場合は、今後気になる症状があれば受診するよう注意書きを渡して、お帰りいただきます。
 同様のエピソードで、お子さんが救急病院や脳外科に受診した方から「CTを撮ってもらって何もなかったです」とのお話を聞くことが多々あります。「安心料」と言えばそうなのですが、「頭のCTを撮ったひとの数千人にひとりががんになる」とのデータが出ていますので、むやみにCTは撮らないほうが無難です。
 医師が検査をするかどうかを判断するためには、周囲の大人の観察結果から多くの情報を得ます。まずは「元気さ」を観察することが大切です。また、意識状態、からだの動きを見ることも大事です。さらに、ことばのようすはどうか、目がちゃんと開いていてちゃんと見ているかどうか、なども重要なポイントです。どの程度の高さから落ちた、など具体的な状況も判断基準になります。

家庭での緩和ケア

 本人が元気でどうしてもあそびたがるなら別ですが、まずはできるだけ安静にすることです。
 打ったところを痛がり、赤くなったり腫れたりしていれば、冷やすと痛みが緩和されます。浅い傷ができていれば、水道水で洗って、ドレッシングテープ(防水性の保護テープ)や、なければラップで保護するようにしてください。深い傷で血が止まらないなら、ハンカチなどで圧迫して、止血しながら受診してください。
 なお、とくに目立った症状がなくても、頭を打ってから6〜12時間はお子さんをひとりにさせず、何かあれば受診できるように見守ることが大切です。また、受診する場合の医療機関なども事前に確認しておいたほうがよいでしょう。

こんなときは病院へ

 元気がない、意識が朦朧としている、よく眠り起きない、眠気が強い、頭痛がひどくなる、からだの動きがおかしい、けいれんを起こした、力が入らない、首を動かすと痛い、ものが見えづらい、嘔吐がある、38・5℃以上の発熱、耳や鼻から薄い血のようなものが出る、などの症状があるときは病院へ。
 なお、頭を打った直後に意識を失っている場合は、一時的に意識が戻って比較的元気でも何らかの脳障害を起こしている可能性がありますので、受診が必要です。また、打った場所を押さえるとひどく痛がるような場合には、骨折も考えられるので受診したほうがよいでしょう。ちなみに嘔吐は、1回だけで後は元気ならCTは通常撮りませんが、3回以上はCTを撮ることになっています。

Cooyon 2014.09
年齢の低い子どもほど、 突然吐いたり することはよくあるもの。 とはいえ、ウィルス性胃腸炎が 流行する季節には、 「病気かも?」と心配に なるのが親ごころ。 急な嘔吐に慌てないため、 知っておきたい基礎知識です。 (クリックで回答をみる)

まずはここをチェック

 腸炎による嘔吐らしいときは、ともかく腸を休めることです。無理やり食べさせたり飲ませたりするのは逆効果です。水分をほしがれば、あかちゃん用のイオン飲料を。ブドウ糖やナトリウムなどの電解質が適当に配合されたものが薬局などで売っていますので、それを少しずつ飲ませて、吐かなければ量を増やしていきます。どうしても食べものをほしがるなら、ごはん類から少しずつ食べさせていきます。くだものは下痢を長引かせるとの研究結果が報告されています。また、世界的な教科書には、脂っこいものは避けたほうがよいと書いてあります。そのほかのケアに関しては、はっきりした根拠はないように思います。
 なお、吐物を処理する際は、二次感染を防ぐため、塩素の入った消毒液で処理し、手洗いをしっかり行いましょう。

家庭での緩和ケア

 腸炎による嘔吐らしいときは、ともかく腸を休めることです。無理やり食べさせたり飲ませたりするのは逆効果です。水分をほしがれば、あかちゃん用のイオン飲料を。ブドウ糖やナトリウムなどの電解質が適当に配合されたものが薬局などで売っていますので、それを少しずつ飲ませて、吐かなければ量を増やしていきます。どうしても食べものをほしがるなら、ごはん類から少しずつ食べさせていきます。くだものは下痢を長引かせるとの研究結果が報告されています。また、世界的な教科書には、脂っこいものは避けたほうがよいと書いてあります。そのほかのケアに関しては、はっきりした根拠はないように思います。
 なお、吐物を処理する際は、二次感染を防ぐため、塩素の入った消毒液で処理し、手洗いをしっかり行いましょう。

こんなときは病院へ

 嘔吐とともに、全身状態がよくない場合は、どのような病気にしても早く受診すべきです。ぐったりしていつもとは明らかにようすが違う、また、おなかが異常に張っていたり、おなかがヘンな色になっている場合は救急で受診が必要です。血便が出たり、激しく(とくに間欠的に)泣くときは腸重積(腸の一部が腸の中にもぐり込む病気)を疑い、すぐ受診しましょう。多量の血便が出る場合も救急的な状況です。意識の状態やからだの動きがヘンだと思ったら、救急で受診してください。新生児から生後1〜2ヶ月の乳児で、比較的元気だけれどおなかが異常に張っていたり、おなかの一部が腫れている場合は幽門狭窄も疑われるので、早めに受診を。病院に吐物や便そのもの、または写真を持参して受診すると診断の材料になります。

Cooyon 2015.03
ノロウィルス、ロタウィルス…… ウィルス性胃腸炎が流行する冬。 「下痢」を伴う病気の見きわめと 家庭でのケアのポイントについて、 小児科医の林敬次さんに うかがいました。 (クリックで回答をみる)

まずはここをチェック

 たいていの下痢は、ノロウイルスやロタウイルスなどのウイルス性のものです。そのほか、サルモネラ菌や、O−157などの細菌性のものや、ときにはアレルギー性のものもあります。いずれにしても、症状が下痢だけで元気にしていて、食べものをほしがるときは、家庭でみていてもよいかと思います。細菌性でも抗生物質を早くから使ったほうがよいというものは、ありません。
 下痢のほかに、とくに嘔吐を伴うと脱水症状になりやすく、ぐったりして低血糖や電解質異常(欠乏)を伴う場合もあります。嘔吐の前後は顔色が悪くなることがありますが、すぐ戻るときにはそう心配はありません。
 いつも元気な子が動こうとしないときは、重大なことが起こっている可能性があります。便秘を伴っていれば浣腸だけで急に元気になる子もいますが、腹痛が強いときは、虫垂炎や、3〜4歳までは大腸に小腸が入っている腸重積、O−157のような重大な腸炎の場合もあります。後のふたつの病気では、下痢だけでなく血便を伴うこともあります。

家庭での緩和ケア

 できるだけ腸を休めるのが基本です。水分はあかちゃん用のイオン飲料で摂るのがよく、スポーツドリンクは糖分が多すぎ下痢によくありません。その他、「くだものはよくない」という少し厳密な実験結果があり、世界的な教科書には「脂っこいものはよくない」との記述があります。
 元気さや、ぐったり感のチェックが最重要ですが、便を観察することも大事です。便に血が混じっていたり、とてもいやな臭いがする場合はサルモネラなどの細菌性の腸炎の可能性大です。下痢が続くとおしりが赤くただれることも多いので、排便のたびに便を洗い流し、ワセリンなどを塗っておくのもよいでしょう。便の処理には、ほかのひとにうつさないためにも、少なくとも石けんでしっかり手洗いをするなど注意が必要です。

[チェックポイント]
●ぐったりしていたり、動きたがらないようすがあるか。
●顔色など、下痢以外の異変の有無。
●腹痛の程度(持続的か間欠的か)
●便の形状はどうか、出血や異臭を 伴わないか。

こんなときは病院へ

 ぐったりしてあまり動こうとしない場合は、低血糖やナトリウムなどの電解質が欠乏している可能性も。もしそうなら、点滴で速やかに元気になる場合がほとんどです。腹痛がずっと持続する場合は下痢を伴う虫垂炎も疑い、ときどき間欠的に痛がるときは、便秘と腸炎の合併を疑います。便秘の場合は浣腸でウンチを出すと急に元気になります。 また、とくに6歳頃までのお子さんで、下痢に伴い強い痛みがあったり、ひどく泣くようなら腸重責を疑い、夜間でも受診しましょう。血便を認めたら基本的には受診が必要です。まるきり元気で出血もごく少量なら、ようすを見ますが、ぐったりしたり腹痛がひどい、血便の量が多いときはすぐに受診を。おなかの見た目がいつもと違う、発疹など下痢以外の症状を伴う場合も、なるべく早く受診を。

Cooyon 2016.02
最近は乳幼児の便秘も 珍しくないと聞きます。 とくに春は、新生活での緊張や 疲れから便秘になることも。 おなかの調子はストレスとも 関係がありそうです。 たかが便秘? されど便秘! ふだんの生活習慣を見直す きっかけとしても、ぜひ参考に。 (クリックで回答をみる)

まずはここをチェック

 うんちが出ない」とは言っても、それが便秘かどうかの判断はむずかしいですね。ひとの排便習慣はいろいろですが、あまり日常の話題にはなりにくいテーマですから、ひとによって「常識」もいろいろです。医学では、世界的には「週に少なくとも3回出ないと便秘」とされていますが、とくに排便が困難だとか、便がたまって食欲がなくなるなどの症状がなければ、週に3回出なくてもいいのかもしれません。
 とはいえ数週間続く慢性的な便秘の場合は、その原因となる病気がないかを考える必要があります。生後すぐより続いているなら、先天的な病気も考えます。発達の遅れ、元気がない、食欲がないなどは元々の病気を知る必要が。また、おしりやその周囲の異常がないか(肛門が切れている、別に穴が開いている、おなかがとても膨れているなど)を見てください。うんちの状態も大事です。

[慢性便秘ならここをチェック]
●週に何回排便があるか、便秘がはじまったのはいつからか?
●運動発達、元気さ、食欲、環境に変化はないか?
●便の大きさや固さはどうか?
●排便に時間がかかりすぎないか?
●便に血がついていないか?
●肛門やその周囲、おなかに異常はないか?
●嘔吐や腹痛はないか?

家庭での緩和ケア

 もし慢性化しているなら、まずは食事を見直しましょう。繊維の多い野菜や海草を摂ることが基本です。水分の補給もある程度必要です。そのうえで、毎日の排便習慣をつけることを試みてください。眠りから覚めたときは腸がよく動き、排便もしやすくなります。
 便はおなかの周囲を右まわりに大腸の中を移動しますので、おなかを右まわりにさするマッサージを試すのもよいかもしれません。
 乳児には、オリーブ油などをつけた綿棒で肛門を刺激して排便を促す方法もよく使われています。その場合、肛門の中に綿棒を入れすぎないなど、無理をしないことが大切です。
 また、さまざまな精神的不安が原因で便秘になることがあるようですので、そんな問題がないかにも気を配ってください。家庭で薬を使うなら、糖分などが主成分の、便の量を増やす薬を使うのが安全です。

こんなときは病院へ

 たとえ一日だけ便が出なくとも、おなかがとてもふくれている、嘔吐する、強い腹痛を訴える、顔色が悪いなど、排便そのものより全身状態が悪いときはすぐ受診を。
 単なる便秘でも、出すのがとても苦しい、痛い、あるいは出血を伴うときは、とりあえずは薬で切り抜けて、徐々に自分の力で排便できるようにもってゆきます。便秘が長く続くと薬が長期間必要になる場合もあります。
 また、便秘の子が腸炎にかかるとひどい腹痛を起こすことがあります。こんなときは浣腸ですっきりします。薬は多種ありますが、世界的にもっとも安全で効果も明確な「ポリエチレングリコール製剤」が日本では発売されていないことが不思議です。おかしなことに、いい薬でも儲からないものは発売されないのです。

Cooyon 2015.05
汗っかきの子どもたち。 気がつくと背中やおしりに プツプツと赤い発疹が。 これはあせも? じんましん? 夏に多い発疹をはじめ、 「かゆみ」を伴う症状を訴える ときの見守り方について、 小児科医の林敬次さんに うかがいました。 (クリックで回答をみる)

まずはここをチェック

 「かゆみ」を伴う病気は多数あります。とりあえずは、かゆい場所を知る必要があります。たとえば、口の中がかゆければ食事アレルギーが疑われますし、おしりがかゆければ、湿疹だけでなくぎょう虫症の場合もあります。とは言っても、かゆみのもっとも多い場所は皮膚です。皮膚のかゆみの場合、アトピー性皮膚炎のようにずっと続くものから、じんましんのように突然出てきて、すぐ消えるものもあります。
 かゆいところの見た目も大事です。水疱があれば水痘やとびひ、汗が出る毛のうに一致した直径1〜2oの発疹ならあせもが考えられます。
 かゆいところのふくらみが時間とともにかたちが変わったり、別の場所に移るのはじんましん、まん中に少し硬い痕があれば虫さされです。
 ほかの症状、たとえば発熱が伴うなら、水痘のような全身的な病気の症状のひとつとしてのかゆみを考えます。かゆい場所の写真を撮っておくと、診断に大変役立ちます。

[チェックポイント]
●どこがかゆいか
●かゆみはいつからか
●かゆいところのようす
●かゆい場所のかたちや場所が変わるか
●全身の症状があるか

家庭での緩和ケア

 皮膚のかゆみは、ひっかくと、そのときはラクになります。しかし、かくことでよけいひどくなることもあります。爪でひっかくのはもちろんですが、布などでこするのも皮膚を傷つけます。できれば手のひらでなでるか、こするようにしたほうがよいようです。
 大部分のかゆみは、あたためるとひどくなり、逆に、冷やすことで軽くなります。氷ではなく、少し冷たい水でよいので、子どもの反応を見ながら冷やしてください。
 じんましんをくり返すお子さんなら、抗ヒスタミン剤(内服薬)を常備しておくと、早く治療できます。塗り薬を出す医師も多いようですが、効果は期待できません。

こんなときは病院へ

 かゆみだけでは、いのちがあぶないようなことは起こりません。しかし、かゆみと同時に生じる症状によっては危険な場合もあります。じんましんのときに急に咳が出てきたり、吐いたり、ぐったりする場合は救急車を呼ぶべきです。元気な場合も、じんましんには効果のある内服薬があるので、早めに受診したほうが無難です。
 ハチなどに刺された場合も、かゆみだけでなく元気がなくなるなどの症状があれば早く受診しましょう。
 かゆい発疹だけでなく、唇などの粘膜に水泡ができると、スティーブンス・ジョンソン症候群など重症化することがあります。
 とびひは自然に治ることもある病気ではありますが、かいてひどく悪化してはじめて受診する方もおられます。あまり遅くならないうちに受診したほうがよいでしょう。

Cooyon 2015.07
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